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お母さんの想い

 貴族の食事は美味しかった。

 本当に素直に海外の料理の味と遜色なく感じた。

 少し大味には感じたが、それは日本食を食べている私の舌が繊細なだけだ。

 十分なもてなしをしてくれたと思う。


 食後の家族の団欒をしていて、その間にまたお母さんが泣いちゃったりしたけど、おおむね気持ちの良い雰囲気だった。


 お母さんとおばあちゃんとお姉様は明日、買い物の約束をしていた。

 私も強く誘われたが、インベルト商会に納品を約束しているのですっぽかすわけにはいかない。


 おじいちゃんが「家の馬車を出す」と言ってくれたので、教会前までわざわざ迎えに来てくれるインベルト商会に不義理をしなくて良くなり、ホッとした。


 そして、解散して、掃除はされていたと言うお母さんの部屋でおやすみすることになった。


 お母さんが部屋の前で扉を撫でた。


「……懐かしいわ」


 いろいろな想いが込められている言葉に感じて、胸が熱くなった。

 お母さんの大切な部屋に入れるのだ。


「お母さん、部屋に入ろう?」


 しかし、お母さんの感傷に付き合っている暇は無かった。


 貧民街では、日が暮れたら「おやすみ」だ。

 夜の明かりを準備するお金は無い。


 私とお母さんがお金に余裕を持って生活していても、その習慣はそのままだった。


 しかし、今日は夜更かししてしまった。

 私の子供ボディが「眠い」と訴えている。

 もう、瞼が閉じそうだ。


「そうね、ごめんね。眠いわね。早くおやすみしましょうね」


 お母さんが部屋の扉を開けてくれた。


 何故か懐かしい匂いがした。


「っ、ああっ」


 魔道具の明かりをつけたお母さんは、少し感動の声を漏らしてから、私を連れてベッドに行き、私を寝かせてくれた。


 あまりの豪華さに、貧民街での布団を新しくする時に、駄々をこねたお母さんを思い出した。

 (豪華で良い匂いじゃんか)


 と、思ったところで、ストン、と、チヤの意識が落ちた。


 それを、ソフィアは優しく見守っていた。


 ◇◇◇


 ソフィアは娘が寝たのを確認して、チヤのほっぺを撫でた後に、部屋の中を歩いた。


 全て、14歳だった頃の記憶と変わらない少女時代の部屋だ。


 そう、アンドチヤを知らなかった頃の自分。


 (随分と私は変わってしまったわ。懐かしいけれど、どこか寂しいの。アンドチヤ。あなたがいないからだわ。あなたが作ってくれた草花のベッドが懐かしいわ。緑の匂いが恋しい。あなたの一途に私を見てくれた熱い瞳をもう一度見たいの。

 あなたの最期ばかりを思い出しては後悔していたけれど、今日、あなたの真実を知れてよかったーー。

 あなたは、最期まで私を思ってくれたのね。


 私の最愛の黄金の少年。


 そうね、あなたは、永遠の少年よ。

 私だけが歳をとるのだわ。


 アンドチヤと私は結ばれる運命だったーー。

 それが、どんなに嬉しかったかーー。

 あなたと過ごした日々が私の1番の宝物よ。


 でもね、アンドチヤと同じくらい大切な人ができたの。

 あなたの娘よ。

 可愛いの。

 いつも、一生懸命で、あなたに顔も髪もそっくりな娘ーー。


 アンドチヤ、愛しているわ。

 私の最愛。


 今日だけ。今日だけよ?アンドチヤ、あなたを想わせて。


 明日からはね、新しい毎日を生きるの。

 あなたが守ろうとした娘と一緒にね)


 ソフィアは、ぐっすりと眠る娘のおでこにキスをして、隣に潜り込み、静かに涙を流した。


 アンドチヤ、本当の、お別れよ。


 私の心の中で、お眠り。


 来世は、また、一緒になれると聞いたから、私はまだ頑張れるわ。


 その時を楽しみに待ってるから。


 ◇◇◇


 朝は自然と目が覚めた。


 何故だか、家の中がすっごい眩しい。


 チヤが目をしょぼしょぼさせていると、「おはよう、チヤちゃん」と、お母さんの声がした。

 横を見るとお母さんがいつものように、チヤの隣で横になっていた。


 ……なんだか、お母さんが輝いて見えるーー。


「おはよぅ。……なんでか、眩しいよぅ」


 お母さんは少し寂しそうに笑った。


「それはね、ここは、お母さんの実家だからよ。昨日のことを忘れてるわね?」


 昨日ーー。

 あっ!あっ、思い出した!ここは、貧民街の家ではなく、貴族街の家で、お母さんの本当の家だ!


 起きても薄暗い貧民街の家に慣れていたから、さんさんと太陽の光が射し込むお母さんの部屋が眩しく感じたんだ。


 ……普通の家は、こんなに明るいのかぁ。


 貧民街の家は体に悪いね。


 むくりと起き上がると、普段着のワンピースを着て寝てしまったようだ。

 寝衣はパジャマがあるよ。


 お母さんも起き上がったので、髪を櫛でとかしてあげていると、ノックの音がした後にメイドさんの格好をした人がカートを押して部屋の中に入ってきた。


「あらっ!サリーじゃない!お久しぶり。元気にしていた?」


 お母さんの知り合いのようだ。

 メイドのサリーはお母さんを見て、少し目尻にシワを作って笑った。

 30、40歳ぐらいかな?


「お久しぶりです。ソフィアお嬢様。無事のお帰りを使用人一同、喜んでおります。

 ささっ、朝のお支度をなさいませ」


 ベッドの横に、綺麗な桶に入った水を2つ並べた。


 これは、異世界あるあるで、顔を洗う為の水だな。


 ……口はどこで洗えばいいですか?


 歯磨きもしたいし。

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