ハースネル族よ 木族よ 5
「じゃあ、ミズの見た、アンドチヤの記憶を話してもらうよ」
オババ様が言って、ミズが話す。
「アンドチヤの記憶だけでなく、ソフィアからわかった事実もありました。
まず、ソフィアは知りませんでしたが、アンドチヤはソフィアのお腹の中に胎児がいる事を知っていました。そして、我々の住む里では産めないと思い込んでいたので、人の国で産もうと考えていたようで、ソフィアが眠っている間に胎児だったチヤに隠蔽魔法をかけました。
それからのアンドチヤは、スイード伯爵家から外に出て、歩きながら王都で暮らしていく為に、自分の足で約1年間かけて王都に向けて歩いていきました。
アンドチヤの瞬間移動は強力なスキルですが、自分が行ったことの無い場所には行けないからです。
ソフィアに気がつかれないようにしていたようです。
そして、アンドチヤの死の原因ですが、アンドチヤの秘密基地は我々の住む安全地帯のギリギリ内側にあったのですが、死んだ日は安全地帯の外側にある湖で水浴びをしていて、そこにいた水棲魔物に右腕から右半身をいきなり喰われました。
そこで、瞬時に自分の命を諦めたアンドチヤはすぐに行動を起こしました。
ソフィアを自分が喰われる瞬間にチルビット王国の王都前まで瞬間移動させました。
アンドチヤのミスはココです。
アンドチヤとソフィアは『魂の契り』をしていたので、アンドチヤが魔物に喰われた瞬間に契約魔法の誓約でソフィアの体が、生命活動を止めようとしました。
その時に、胎児のチヤに力を貸した存在がいました」
固唾を呑んで、ミズを見守っていた皆、真剣な顔をしていた。
そこに、ミズが興奮した声で話し出した!
「【神】です!
【神】が胎児のチヤを助ける為に、母親のソフィアを助ける為に『魂の契り』の2重契約をしたのです!
私は【神】の声を聞きました!チヤを【ひつようなこ】と言ったのです!
【神】が『チヤ』を『生かした』のです!【神】の奇跡です!」
そこで、興奮していたミズが息を整える。
「さっきも言ったが、ミズ、客観的に話しな」
ミズにオババ様からの注意が飛ぶ。
「すみません。オババ。冷静に話します」
少し、仕切り直しになった。
よく見ると、お母さんがまた、泣いている。
お父さんの酷い死を思い出したんだね。
お父さんは右半身を喰われても、お母さんを助けようとしたんだ。
死ぬ最期までーー。
お父さん……。
チヤの目がうるっとした。
ミズが落ち着いた顔で続きを話す。
「ソフィアはアンドチヤと、チヤを助けた【神】のおかげで生き残りましたが、アンドチヤに言われていたように『木族』と『人族』は結ばれてはいけないと思い込んでいたので、家族から隠れる為に王都の貧民街に住み着いた後、妊娠が発覚して、アイテムボックスに入っていた金目の物を全て売り、チヤの出産費用に当てました。
そして、チヤの誕生です!」
私が産まれる所で、ミズが少し興奮したので「ミズ!」と、オババ様の注意する声にミズが一息ついてから、話し出した。
「チヤは生まれてから、木族とは思えないほど早く成長しています。これにはチヤの『生存本能』を刺激する程の過酷な生活環境のせいであったと推測されます。
チヤの『木族としての本能』は『生きるには身体の成長が必須』だと思ったようです。
ソフィアはチヤと生きる為にアイテムボックスを使って職人街で働きましたが、チヤが4歳の時にバルスス病にかかり、チヤを1人では育てられなかった為に、近所の女の人に毎日一食を作って貰い、それを食べて3月の間、生き延びましたが、チヤの誕生日に、チヤは教会に行く事無くステータスを授かりました。
これは『木族』には普通ですね。
それからスキルを得たチヤは、バルスス病の特効薬を作りソフィアを助けます。
それから今までの間に、チヤのスキルを使い生き延びています。
あと、チヤはステータスを授かってから成長をしていませんが、これは木族としては普通の成長に戻ったので安心してください」
ミズは話し終えたと、オババを見た時に私をガン見して頬を赤く染めた。
なんだ、その、反応は。
そしてオババが話しだす。
「ソフィアの二重契約の件は理解したと思うが、チヤが『魂の契り』の契約を解除するとソフィアは死ぬから注意しな。
2人の詳細なステータスを見たが、チヤの寿命が約半分になっていた。生きて500年て所だな。
あ!勘違いするなよ?ソフィアはチヤの寿命を貰っているからソフィアも500年は生きるぞ。
あと、ソフィアはアンドチヤの『魂の伴侶』で、2人だけで『木族の結び』をしたから家名が『ハースネル』になっている。これは、ソフィアが死んだら木族と同じで、肉体が無くなり、魂は魂木へ帰る。来世は『木族として産まれる』訳だ。
良かったな。来世でアンドチヤと結ばれるぞ!
んー?こんな所かな?何か質問はあるか?」
なんか、お母さんが涙目で凄く驚いているけど、お母さんの家族はみんな無言だ。
私が質問していいかな?
「はいっ!質問です」
「なんだいチヤ」
「木族って何ですか?」
「話すと長くなるから、チヤは後で個人授業だ。他の奴は質問があるか?」
おじいちゃんが小さく手を上げた。
そこに、オババ様がツッコむ。
「なんだい、大きな男が縮こまって」
「いや、話を聞いたら、チヤは神様に助けられた御子だろう?木族の里で暮らすのか?木族の子として扱うのか?私達はチヤにどうやって接したらいい?」
「お前の孫として接しな。チヤは人として生きてきたからそれでいい。
だが、木族を侮るなよ?チヤのスキルに頼りきるな。木族には強力なスキルがあるのは知っているだろう?
木族を私欲で利用するな。
ハースネル族は家族を守るために戦うぞ」
オババ様が私を守る為に、お母さんの家族を脅したのはわかった。
次は、お母さんがおずおずと手を上げる。
オババ様が大きな声を出す。
「シャキッとしな!なんだい!」
「あ、あの、この、この1年程、チヤのスキルで生きてきました。私欲で利用したことになりますか?」
お母さん!大丈夫だよ!生きる為だったし、お母さんも働いてたじゃん!
「母親と普通に生きる為にスキルを使ってたんだろう?問題ないさ。これからもそうしな」
ちょっと、お母さんが安心したみたい。
「ありがとうございます!」
「他は?……いないね。今回は迷惑かけたよ。すまないね。アンドチヤに嘘を教えたジジイは絞めておいたからね。
チヤに少し教える事があるから、チヤを借りるよ。
チヤ、ついてきな!」
ソファからオババ様が立ち上がり、木族?の人達が通っていた扉から中に入ると、部屋の壁に見慣れない大きな鏡の中に空間?があった。