ハースネル族 木族よ 4 魂を見る
私は、今、懐かしの……集団登校をしていた。
目的地は田舎の小学校だ。
身体が、勝手に、動いて、言葉も、勝手に、出る。
昔の、再生動画を、見ている?いや、体験しているみたいだ。
「今日はねー、かえったら、お母さんがねー、ドーナツを作ってくれるって!」
妹と手を繋いで、近くの地区の子供達との登校だ。
「良かったね。私の分もあるかな?」
妹が私を見て、にっこりと笑った。
「あるよー!だって、お母さんだもん!たっくさん、作るよ!」
【ーーなんだ、この、せかいは?ちがう、ここじゃない】
幼い妹の顔が、消えた。
◇◇◇
「おっ、ええ、あん。いうも、あいあとう」(お姉ちゃん、いつも、ありがとう)
「いいよ。これくらい。あーっ!もうっ!可愛いなー!かわいいでしゅねー?」
「あーあー」
ああ、ここは、妹が、障害を持ってしまって、長女を産んだ後だーー
「んー!赤ちゃんて、いい匂いがするねぇ。かわいいー!写真撮ろ!写真!」
姪っ子が、ご機嫌に、うーうー、言って、喃語が、かわいいーー
【ーーここでもない!このこが、うまれるまえが、しりたい】
また、世界が、暗転するーー
◇◇◇
「最近は、ごめんねぇ。体を動かすのが、ツラくてねぇ」
「いいんだよ。伯母さんはよくやってくれてる方だよ。俺等の第二のお母さんだよ」
ーーここは、私が、老人に、なって、甥っ子が、夕食を作って、くれてる。
「でも、俺、伯母さんが作ってくれるごはんが好きなんだ。また、元気になったら作ってよ!お袋の味ってやつをさ!」
甥っ子が、照れてる。
可愛い。
子供もお嫁さんもいるのに。
「あ、母さんだ。母さん!伯母さんが起きたよ!」
老いた、妹が、来た。
「おええあん、よあった、おいて。いいいいあんを、ええあんあよ?」(お姉ちゃん、良かった、起きて。1日半も寝てたんだよ?)
ああ、私が、死ぬ前だーー
【ーーちがう!このこはまだうまれたばかりだ!なんだここは!】
暗転する。
【ーーそうだもうすこしまえだ、そうだ、まだ、ははおやの、はらのなかに、いるときだ】
なに?まっくらで、めが、みえないよ?くらいよ、こわいよーー
あれ?なにか、あたたかい、ものが、ながれてきた。
え?だれかの、こえが、きこえるよ、でもね、すごく、ねむいの。
また、暗転する。
え?こどうが、よわいの、しぬ?しんじゃう?たすけなきゃ、どうするの、どうすれば、いいの?
《たすけてあげる。あなたはひつようなこ》
なんだろう、あたたかい、もう、だいじょうぶだね。
【ーーみえた!あのかたのかいにゅうだ!げんいんが、わかったぞ!】
暗転。
なにも、わからない。
ちや!ちや!ちや!おきて!ちや!
ちや、って、だれ?
ちや!ちやー!うっ、うっ、ちや!
だれかが、ないてる。
このこえは、しってる。
ちや!
しってる!おかあさんだ!
ぱちっと、目が覚めた。
「チヤ!起きた!ああっ!神様!」
「お、があ、ざん」
「ああ、チヤ、今から、飲み物を飲ませるからね。ゆっくり、飲むのよ?」
口の中に、甘い、甘い、砂糖水?
あ、口の中に溜まってきた!飲まないと!
ごくっ。
ごくっ、ごくっ、ごくっ。
「ああ、偉いわねぇ、上手く飲めてるわ」
ああ、頭がしっかりと、してきた。
「おかあさん、じぶんでのむよ?」
「そう、飲める?手でコップを持つのよ?」
そう、手が、自分の意思で動く。
現実だ。
お母さんに、渡してもらったコップを持って、一気に飲む。
「ぷはぁ」
「チヤ、いつも持ってるタオルは出せる?」
アイテムボックスからタオルを出してお母さんに渡すと、私のほっぺを拭いてくる。
あれ?汚れてたのかな?
「うん、綺麗になったわ。頭は大丈夫?ぼーっと、してない?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、お母さん」
お母さんの顔がしっかりと見える。
あれ?お母さんの顔が浮腫んでる。
あっ!ああっ!完全に思い出した!
あいつ!好き勝手に記憶を弄って!あーっと!
「ミズ!」
そう、ミズだ!
「水?水が欲しいの?チヤ?」
「いらない!」
本当にあんな奴は、いらないよ!
お母さんが立ち上がって、自分の座っている場所に戻って行く。
お母さんの体で塞がれていた視界が、パッと開けた。
お母さんの家族を見ていくと、あ、みんな、こっちを心配そうな顔で見ている。
あれ?オババ様とミズがいない。
隣にいた綺麗な美女もいなくなってる。
「オババ様は、どこ?」
おじいちゃんが答えてくれる。
「隣の部屋だよ。何か、問題が起きたとかで。チヤちゃん、大丈夫かい?凄い泣いてたよ?」
何だか、そう、お母さんの家族のオババ様達に対する対応がおかしい。
なんで、気がつかなかったのだろうか?
お母さんが泣いていた時も誰も、動かなかったし、話さなかった。
今も、私が泣いてたのに、お母さんしか動かなかった。
「おじいちゃん達にとって、オババ様って、何?」
おじいちゃんが迷う事無く答える。
「神様みたいな、存在かな」
迷う事、無く。
盲信、だ。
『神』だと、思ってるから『神』のすることに疑問を持たない。
「危険」だ、と、思った。
オババ様達は、危険だ!
扉が開く音が聞こえたから、すぐに見ると、オババ様とミズが来た。
私を見たミズの顔が、歪んだ。
あれは、畏怖?いや、違う?
なぜーー
「ミズに話は聞いた。今から全てを話そう」
そう、オババ様が言って、私の両隣にオババ様とミズが座った。




