ハースネル族 木族よ 2
皆が落ち着いた頃を見計らって、オババ様が話し始めた。
「まあ、初めに、みんなの共通認識を話すよ。
まずは、みんなも知っての通り、我々、木族がこの家のスイード伯爵を通じて代々情報交換をしたり、スイード伯爵を窓口にして木族に便宜を図る代わりに、スイード伯爵の望む希望を叶えてきた。
そして、代々の秘密として、伯爵の信頼する血族にだけ秘密が受け継がれ、王族すらスイード伯爵家に便宜を図り、我々エルフ族との繋がりを維持してきた。
まあ、今回の悲劇は『アンドチヤ自身の寿命が短いのを隠してきた』事実と『スイード伯爵家の娘ソフィアと木族のアンドチヤが【魂の伴侶】だった』事が重なって起きた事だよ。
ああ、いや、もう一つあったね。
『木族と人が結ばれてはいけないとアンドチヤが勘違いした』のが最大の原因だ。
木族を代表してお詫びを申し上げる。
本当に申し訳なかった」
えっ?
新事実がいっぱいあったんだけど?
私は初めて聞いたんだけど?
みんな知ってたの?
チヤは疑問だらけだが、話は進む。
「そして、初めて木族の領域に成人の挨拶と顔見せに来ていたソフィアがアンドチヤの目に止まり、自分の『魂の伴侶』を見つけたけど、ちょいと人族に偏見の有るジジイに「人と結ばれてはいけない」と思うようなことを吹き込まれたアンドチヤがスイード伯爵家のソフィアを自分の秘密基地に、固有スキル『瞬間移動』で攫い、両思いになった2人は『魂の契り』を結んで約1年を隠れて過ごした。
『魂の契り』は【寿命の長さを等しくする】事が出来【相手と一緒に死ぬ】契約だ。
ここまでは理解したかい?」
お父さんは『瞬間移動』が使えた!
ファンタジー!
「オババ様、質問をいいですか?」
おじいちゃんがオババ様に質問の許可を願い出た。
オババ様はそれを了承する。
「それでは。スイード伯爵家には『魂の契り』は伴侶と交わすものである、と、伝わっていますが、違うのですか?」
「それは、ある意味で正しいが間違いでもある。
『魂の契り』は、伴侶間で行われるのが多いが、自分の大切な者や子供の寿命が短いとわかった時にも使用される『契約魔法』だ。人族で使える奴はいないはずだから【木族の寿命を契約相手に分ける】が本当の使われ方だね。
わかったかい?」
おじいちゃんは更に疑問を続ける。
「しかし、寿命が短いと知っていたアンドチヤには、誰も『魂の契り』をしなかったのですか?」
オババ様が答える。
「アンドチヤには『親がいない』からさ。木族は生まれる時期になると親がいなくても『魂木』から生まれる。アンドチヤがそれだね。そして、恋人もいなかった。だから誰もアンドチヤに寿命を分けなかったのさ。でもね、決して大事にされていなかった訳では無いよ?『魂の契り』は1人に対してしか、契約出来ないから、ある日自分に「大切な者が出来ました。だから寿命の無いアンドチヤとの契約を破棄します」といった残酷な行動を誰も出来なかったのさ。そして、みんな、自然に任せた結果だ」
「しかし、先程までいたエルフの女性はソフィアが「アンドチヤと『魂の契り』をした後に、チヤと『魂の契り』をしていると言いました。二重契約とは、どういう事ですか?
それに、アンドチヤは死んだが、ソフィアは生きている。『魂の契り』は【木族の寿命を相手に分ける】。アンドチヤの寿命は短いのだから『分ける寿命がなかった』し、【分けた相手と一緒死ぬ】事は無かった。
オババ様、真実は何ですか?」
オババ様がため息を吐いた。
「今、わかっている事は、ソフィアはアンドチヤとチヤから『魂の契り』をされているという事実だけさ。
だから『魂の記憶を見る』固有スキルを持つミズを今、呼んでもらっているのさ。
もう少し待ちな」
場が沈黙で満たされた。
チヤはファンタジーのオンパレードに頭の中に情報を叩き込んだ。
木族はエルフ族?
結論→お母さんが危ない?
お父さんが死んだ時点でお母さんは契約魔法に縛られて死んでいたはずだ。
でも、今は生きている。
お父さんが契約を解除した?ありうる。
だって、さっきの口の悪い女性が「アンドチヤと契約した後に、お母さんは私と『魂の契り』をした」ような事を言っていたが、私は『魂の契り』の仕方を知らないし、お母さんに何か魔法をかけた事も無い。
やっぱり、お父さんが自分が死ぬ前に契約を解除したんだ。
お母さんを助ける為に。
そうだ、そうに違いない。
ホッとしたら、喉が渇いてきた。
いや、お腹が空いた。
だって、お昼ご飯を食べる前だったんだよ?孤児院学校で食べたクッキーが最後に食べた物だ。
もう、消化しちゃってるよ。
私だけが食べるのも気まずいから、机の上にバナナを房で出してやれ。
お母さんも食べるでしょ?
私は、みんなで囲んでいる机の真ん中にバナナを房ごとアイテムボックスの中から出した。
「みんな、お腹が空いたでしょ?バナナを食べよう!」
私はちゃっかりと2本もいでソファに座って、バナナの皮を剥いて食べた。
く〜!空腹に染みる!
「ほう、そうやって食べるのかい。どれ、1つもらおうかな」
私の隣に座っていたオババ様がバナナを1本もいで、皮を剥いて食べた。
「お?おおっ!初めての味だ!今のチルビット王国には、こんな美味しい物が流通してんのかい!?
ウェンズ!種を入手してくれ!対価はいつも通りだ!」
オババ様は1本食べ終わったら、2本目を取って、また、食べ始めた。
あれ?オババ様は、怖い人だと思ってたけど、面白い人なのかな?




