シンプル高そうな馬車
職人街に入って、馬車止めの場所に行くと、そこにはシンプルながらも、高位の人物が乗っているとわかるようなデザインの馬車が止めてありました。
職人街は大きいです。
毎日いろんな職人や、作った物の運び出しをするので、馬車が止められる敷地が多いのです。
そこを、伯父さんは間借りさせてもらったようです。
綺麗な服を着た男の人が馬車のドアを開けてくれました。
伯父さんが私を抱っこしたまま乗り込み、膝に向かい合わせに乗せてくれました。
少し遅れて、お母さんが乗り込んできます。
ドアが閉まり、馬車が動き出します。
異世界あるあるで、伯父さんの膝の上に乗っていても馬車が揺れているのがわかりますけど、乗り合い馬車ほどは揺れていないように感じます。
「お兄様、チヤを返してください」
お母さんが私を取り戻そうとしているようです。
伯父さんは私を自分の胸に寄り掛からせます。
「小さい子供には馬車がツラいだろう。私の膝がクッションになる」
お母さんは黙りました。
そして、その後にポツリと呟きました。
「……私は罰を受けるのでしょうか?アンドチヤと私の子のチヤはどうなりますか?」
「悪いようにはしない。アンドチヤは掟を勘違いしていたらしいが、人と結ばれてはいけないと言うことではないと聞いた。今、家にオババ様が来ているから、詳しく聞けばいい」
「……オババ様は怒っていましたか?」
「いや?アンドチヤの寿命が短いのを知っていながら、本人に伝えていなかった事を悔いているくらいだ。軽い検査を受ければ大丈夫だろうよ」
ん?また、新しい情報が出てきたぞ?お父さんの寿命は短かったと言うことは病気だったのかな?
「……お前はアンドチヤと『魂の契り』をしなかったのだな」
「いいえ、しました。アンドチヤとずっと一緒にいるおまじないでしょう?効き目は無かったようですけど。……私は連れて行ってもらえませんでしたから」
「?そんなはずは、ないんだが……聞いた話と違うな?ハースネル様達はソフィアは死んだ。と言っていたが、私達は信じずに、ずっとお前の目撃情報を探していたのだ。最近、貧民街に美女が現れたという噂を耳にして、調べたらソフィアだったわけだ」
伯父さんの中では何かが疑問になっているようです。
何ですかね?『魂の契り』って。
お母さんが死んだと言うくらいの説得力があるのですかね?
そして「ハースネル様達」と言う言葉。
貴族の伯父さんが「様」付けするような立場の方がいる事実。
それと、お母さんと私の名前についている「ハースネル」。
父方の親族でしょうか?貴族の伯父さんより地位が高い?
疑問です。
馬車には窓がついているのですが、私が外を見たくても見れません。
伯父さんと向かい合わせに座っているし、なおかつ胸にもたれているので、伯父さんの胸しか見えません。
不満です。
「伯父さん、外を見せてください」
「おお、わかった」
私をくるりと回してお母さんと向かい合うように伯父さんの膝に座らせた後に、馬車についていたカーテンを開けてくれました。
おお!外が見える。
んん?ここは、職人街と貧民街の間の道じゃないですか?
そんなにスピードは出ていないようです。
事故をしたら大変ですからね。
と、いうか、伯父さんが小さい子の扱いに慣れています。
自分の子供がいるのでしょうか?
だとしたら、その子は私の従兄弟でしょうか?
家族が増えるのですね。
ちょっと、嬉しいです。
いや、大分嬉しいです!
「お母さん!家族が増えるんですか!?」
あ、子供の心が先走ってしまいました。
お母さんが困っています。
そこで、伯父さんが答えてくれました。
「おお!そうだぞ!お祖父様とお祖母様が出来るんだ!嬉しいだろう?お小遣いも貰えるぞ!」
子供心をくすぐる事を言ってくれます。
「お祖父様とお祖母様は優しいですか?」
「おお。優しいぞ。甘々だな。悪い事をすれば怒られるが、良い子にしていれば、優しくしてもらえるぞ。伯母さんもいるからな」
「おばさん?」
「そうだな。チヤのお母さんのお姉さんだ。わかるか?」
「わかる!お母さんのお姉さんだね?」
「そうだ!偉いな」
んふふーっ!孤児院学校の神官様のように褒めてくれる。
私、褒めて伸ばしてくれる人、好き。
「王都にお姉様も来ているのですか?」
「ああ、来ているよ。お前に今度こそ逢えるのを楽しみにしている。お義兄さんは子供達と留守番だ」
お母さんが深く息を吐いた。
「そうですか」
「今度、領地に帰ろう。みんなお前を待っているぞ」
そう聞いたお母さんの目が潤みました。
「ち、チルミは、まだ、いますか?」
「いるぞ。領地にいる。今は俺の息子の世話をしてくれている。ベテラン侍女だからな。でも、お前の心配はいつもしていたぞ?「お嬢様は何も出来ないから心配だ」とな」
お母さんが耐えられずに顔を下に向けた瞬間、水滴が落ちた。
お母さんが、泣いている。
「お母さん、悲しいの?」
「お、おかあさんね、ちょっと、さびしく、なっちゃった、かな?」
「今日も一緒に寝ようね?寂しくないよ?」
お母さんの顔から、また、水滴が落ちた。