事件 2
孤児院に着いたチヤは、受付のおじさんに賄賂、いや、試食をしてもらっていた。
そう!持って来た日本産の『みかん』だ。
「う〜む、おいしい。お嬢ちゃん、これをどこでーーいや、聞かない方がいいね。
それで、この果物は『みかん』と言うのだね?」
「そうだよ!手軽に食べられて美味しいの!冬に食べるみかんは最高だよ!」
「そうか、冬にーーああ、いかんいかん。お嬢ちゃん紙を渡してくれ。……はい、これでいいよ。1番奥の部屋に行きなさい。頑張ってね」
「はい!ありがとう神官様!」
少し幼児を演じるのが難しく、いや、幼女を演じるのを忘れているチヤは、足取り軽くいつもの教室に行って、個人授業を若い青年神官様からしてもらい、『夢のある絵本』を読んでご機嫌に家に帰った。
◇◇◇
あれ?もうすぐ家なのに人が集まってる?
また、服の注文かな?
すいすいと人の間をすり抜けると、チヤの家の前に老衛兵さんが立っていた。
それを見た、チヤの心臓が、嫌な音を立てた。
えっ?お母さんに、何かがあった?え?そんなの、イヤだよっ!
「お母さん!!」
家に飛び込んだチヤが見たのは、困った顔をしたお母さんと、ベッド付近を調べていた老衛兵さん2だった。
「いやー、何の痕跡も残していませんわ。これじゃあ犯人がまるでわからんです。すみませんなぁ、奥さん。寝る時はしっかりと鍵をかけて寝てくださいよ。こういう犯人は忘れた頃にまた繰り返しやって来ますからな」
お母さんが老衛兵さん2にお礼を言う。
「調査をありがとうございました。これは、お気持ちですのでもらってください」
と、お母さんが差し出していたのは……バナナだった。
(いや、いいけどね?お母さんが元気で何も無いなら、いいけどね?バナナをあげてもいいけどね?)
「いや、ありがとうございます。いただきます……これは、何ですかな?」
老衛兵さんが貰ったバナナの房に戸惑っている。
お母さんは多分、アイテムボックスからもう一つバナナを取り出して、食べ方を実演していた。
「ほう、ほう」と感心していた老衛兵さん2は「奥さんお気をつけてください」と帰って行った。
玄関の扉が閉まってから、何が起きたのかをお母さんに問い詰めると、意外な言葉が返ってきた。
「泥棒!?」
「そうなのよ。泥棒さんよ」
泥棒に「さん」なんて付けなくていい!
じゃなくて!
「いつ!?」
「多分、夜じゃないかって……。あのね、朝起きてから、お母さんずっと起きてたのよ。体調も良くなってね?そうしたら、服を注文したいってお客様が来たからね?道具箱にしまっていた、あれ?なんだったかしら?あれよ、あれ……そう!試着の服を取りに道具箱の中を見たのよ!そうしたら入ってなくって、部屋中を探したのよ?うっかり他の場所に置いちゃったかしら?と思って。
そうしたら、ベッドの下に置いていた箱からお金が無いのに気がついてね、これは物取りだ!って気がついて、衛兵さんに言いにいったの。驚いたわぁ。
あ、注文に来てくれたお客様は「また後日来ます」って帰ってもらったわ」
「どんな人が注文に来たの?」
放火犯は火事場に戻ってくると聞いたことがあるから、注文しに来た人が怪しい。
「えーっとね、この辺りの人じゃないわ。販売再開したらご連絡いたします。といったら、また来るのでいいですって帰ってしまったの。見た目は、若い男性だったわね。貧民街の人よ?着ていた服が貧民街の服だったから」
「ありがとう。でも、お母さんは1人で家にいる事が多いから変な人には気をつけてね?……私、今から出かけてくる!」
家を飛び出そうとして、お母さんに捕まった。
「もう!今から昼食じゃないの!ほら、食材を出して!」
そうでした。
お腹がぺこちゃんでした。
孤児院学校でいつものように神官様とお菓子を食べたから忘れていたよ。
「食材は、ギリン草とーー」
私はお母さんに言われるがままに食材を出して、残ったポイントで盗まれた試着服を1着買った。
S S、 S、M、L、LL、3LのTシャツを6着と、ワンピースのSS、S、M、Lの4着を盗まれて、さらにお母さんの現金を盗まれた。
貧民街の窃盗としては、かなり悪質だ。
服をピンポイントで盗みに来ている。
これは、犯人は顔見知りか近所の人だ。
何でか?って?
服を狙っているからだよ。
そして、この家に服があるのを知っていた。
地理を知っていて、私の家が服の販売をしている事を知っている人で、平民のお客さんはまだ来ていない状況。
犯人は貧民街の人間だね。
「チヤちゃーん、昼食ができたわよ。一緒に食べましょう」
「はーい」
とりあえず、今はご飯だ。
……お米じゃないのに食事のことを「ご飯」て言うのって日本人だけだよね?
昼食をうまうまと食べ終えて、お母さんとデザートのバナナを半分こしたところで、お出かけです。
まずは、ステラおばさんの所に行きましょう。
◇◇◇
「貧民街に古着を売ってくれている店だって?」
私は頷く。
「そう、どういう人が売りに来てくれるの?」
ステラおばさんに聞き込みをしております。
「確かね、女手一つで子供を育てている、苦労人の古着屋だよ。貧民街に近い平民街でお店を開いてるって言ってたねぇ。え?服を売ってるチヤちゃんが行くのかい?」
「買わないけど、行ってみる!ありがとうね!ステラおばさん!」
犯人への近道は古着屋さんだよ。
わかるかな?ちみぃ?




