ワンピースの大量注文
家に帰ると……?家の前に近所のおばちゃん達がいる?
その中の1人がチヤに気がついた。
「おや、チヤちゃん。家に帰って来たのかい?」
「う、うん。どうして家の前にいるの?お母さんに用事?呼んでこようか?」
おばちゃん達は顔を見合わせて笑った!
「チヤちゃんのお母さんに用事だけど、家の中に入れないからねぇ。チヤちゃんは家に入りなよ」
「う、うん」
おばちゃん達の輪をすり抜けて家の扉を開けると、家の中は人でいっぱいだった……!
というか、臭い女性でいっぱいだ!
「あら、チヤちゃん、おかえり。ちょっとあんた達、チヤちゃんが入れないよ。隙間を開けな」
「おや、チヤちゃんおかえり」
「おかえり」「おかえり」といろんな人から言われる。
「う、うん、ただいま」
「あらぁ、おかえりなさい。お母さん忙しいから、お腹が空いたらバナナを食べていてね」
チヤを見つけたお母さんが椅子に座りながら言った後に、来ていた女の人と話している。
あ、ワンピースの販売ね。
「ねぇ!本当に新品のワンピースが250ルビなの!?」
お母さんが答える。
「そうですよ。私が来ているワンピースは350ルビだけれど、生成りは250ルビですよ」
「250ルビの物で充分だよ!こんな綺麗な服が着れる日が来るなんて……夢のようだよ」
「そうだそうだ」と同意の声が上がる。
「私は、3つ買います」
そこでチヤは不思議に思った。
なんで不思議に思ったんだろうーー?
あっ!貧民街に住む人に『3着』も服を買える余裕は無い!
私は「3つ買う」と言ったおばさんをこっそりと見る。
(あの人はズルイ人と噂の悪いおばさんだ……。多分、だけど『転売』目的だ。きっと)
ベッドの上に乗っていたチヤは降りて、お母さんに近づいて服を引っ張る。
「お母さん!トイレ!」
「あら?チヤはひと「お母さん!と!い!れ!」わかったわ。皆さん、少しお待ちくださいね」
「いいよいいよ。小さい頃はトイレが怖いもんさ!私も小さい頃は穴からスライムが襲いかかってくると思ってたもんだよ」
どっ!っと笑い声が上がった。
いいんだ。
ちょっと馬鹿にされても。
お母さんに話すことの方が大事。
トイレにお母さんと2人で入る。
チヤは紅茶を飲んでいて本当にトイレに行きたかったので、素早くすませてから、トイレを出ようとするお母さんを引っ張った。
「チヤちゃん?どうしたの?」
「こそっ。お母さん、さっき服を3つ買うって言った人に『1人2枚まで買える』って事にして。ううん、これから売る服は1人2枚までって事にして!いい?」
お母さんは困った顔をした。
「いっぱい売れるとたくさん儲かるでしょう?それはいいの?」
「こそっ。うん、いいの。貧民街での服の販売は慈善事業だから。貧民街の人達に綺麗な服を着て欲しいんだよ。でも1人3着は売っちゃダメ!転売目的だから!」
「てんばい……転売?本当なの?チヤ?」
お母さんが真剣な声になった。
貴族だったお母さんは慈善事業を知っているだろう。
「多分だけど、そう。あのおばさん少しみんなに嫌われてるから。性格が悪いんだよ」
「そう、わかったわ。これからは『1人2着まで』ね?お母さん転売されないように頑張るわ!」
「あっ!あと、『夏に1人2着。冬に1人2着販売する』って言ってね!これは日頃お世話になっている貧民街の人達への『恩返し』だとも言って!」
「わかったわ。これで終わり?」
「うん。臭いからトイレから出よう」
トイレから出ると、さっき伝えた事を意地の悪いおばさんに言ってくれて2着までの販売と言ってくれた。
意地の悪いおばさんは不機嫌になって注文が終わるとさっさと家から出て行った。
ウチの古い家の扉を乱暴に閉めて。
(ちょっとやめてよね!家の扉は古いのに!やっぱり性格の悪いおばさん!)
「慈善事業だって!お貴族みたいなことを言うねぇ。ーーやっぱりソフィアさんの病気が治ったってのは、実家を頼ったんだろう?」
お母さんは笑って誤魔化しているが、困った顔をしている!
「いいねぇ、頼れる実家は大事にしなよ。ウチの爺さん婆さんは働けなくなっちまって、今じゃただ飯ぐらいだよぉ」
「うちもさね!うちは婆さんだけだけど、もう働けないからねぇ。死ぬのはもう少し後だねぇ」
ちょっと嫌な話になってきた。
貧民街は基本的に余裕が無いから、大人で働けない家族には厳しいところがある。
現実問題で家庭に厳しいのだろうけど、早く死ぬのを願うのは嫌だ。
それから、おばちゃん達に見られないように布団をかぶってからバナナを食べて、通販でお買い物をして、寝た。
おばちゃん達が家からいなくならないからね!
◇◇◇
昼寝から起きた私は、お母さんが書いてくれた服の注文書を見ていた。
(たくさん予約が入ったなぁ。今日からポイントが貯まったら服の購入を頑張ろう!)
なるべくお金は使いたく無いので、ポイントだけで服を買うようにする。
お母さんは昼食がわりにバナナを食べたらしい。
良い傾向だ。
「よーし!夕食はいっぱい作るわよー!」
と、お母さんが気合を入れたところで、扉がノックされた。
誰だろう?夕方なのに。




