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2回目の商談をしましょう 2

 ノックの音も無く商談室の扉が開き、ポットを持ったクルガー商会長が入ってきた。


 そしてチヤの前のソファに座り、カップに紅茶?を注ぎ、ゆっくりと飲んでからチヤを見た。


 何故か、その目は凪いでいた。


「今なら寛容な心で聞けるよ。

 塩の詳細を話してくれるかな?」


 ものすっごく、落ち着いている。

 お茶を入れに行って、何があったんだ?


 チヤは違和感を感じながらも、持って来た塩の話をした。


「今日持って来た塩は『精製塩』と『天然塩』の2種類です。

 『精製塩』は、海水を(電気)分解してナトリウム(イオン)を取り出し、濃い塩水にして煮詰めることで塩を作ります。こちらが安い塩ですね。

 『天然塩』は、海水を天日干ししたり、釜で煮詰めたりして作った、超自然的な塩です。こちらが高い塩ですね。

 今のところで質問は有りますか?」


 寛容な心を持ったと言っていたクルガー商会長が頭を抱えていた。


「まず、海水を分解するって何かな?あと「なとりうむ」って何!?」


 寛容な心は消え去ったようだ。

 凄い早口でチヤに質問した。


 チヤは科学も電気も知らない人に、どうやって説明するかを考えて、考えて、考えた。


「海水を分解する技術があるんです。ナトリウムはーー塩の別名です」


 と、いうことに、しておいた。

 ミネラルの一種と言っても伝わるまい。


「つまり海水から塩を取り出したって事!?」


「そうですね」


 凄い簡単な話になってしまった。

 科学って……難しい。


「今流通してる塩だって海水から塩を取り出してるじゃん!?」


 クルガー商会長には何が違うのか、わからなかったらしい。


「んー。取り出し方が人の手で出来ません!」


「人の手じゃなきゃ何を使ってるの!?魔法!?」


 ーー面倒臭いから、魔法って事にしておくか。


「そうですね。きっと魔法です」


 老人のように背中を曲げて棚まで歩いて行き、紙とペンとインクを持って、クルガー商会長が戻ってきた。


 何かを書き始めたので覗きこんでみると、私が話した内容をわかりやすく書いていて、クルガー商会長は頭が良いなぁと思った。


 クルガー商会長が書いている手を止めた。


「で、これで終わりでいい?」


 私は否定する。

 大事な事を言っていない。


「いいえ。値段が10倍以上違う根拠を話していません」


「……値段が高いのは『天然塩』だね?」


「はい。そうです。まずは純粋に味の違う塩を舐めてみてください。たくさん食べると体に悪いので、ひとつまみ程度にしてくださいよ」


 私は2つのスライム容器に入った塩をスーッとクルガー商会長の目の前に滑らせた。

 この机、つるっつるだな。


 クルガー商会長は、2つのスライム容器の中に入った塩を長い時間、見比べていたが、机の上に置いてから蓋を開けて、まず、ひとつまみを口の中に入れて、目を閉じて味わっていた。

 そして、紅茶で口をリセットした後に、もう一つの容器の蓋を開けて、ひとつまみ口の中に入れて味わう。


 眉を寄せて悩んでいる顔をしていたが、目を開いて勢いよく一つの容器を掴んだ!


「こっちが高い塩だ!」


「ぶっぶー!!違いますぅー!安い塩ですー!」


「うそだぁーーー!!雑味が全然無かったぞ!」


「ふむ、舌は確かなようですね。さすがはナトリウム99.5%です」


 納得がいっていなさそうなクルガー商会長に高い値段の理由を話す。


「クルガー商会長の選んだ塩はある1種の成分がとても濃度が高いんです。ここまではわかりますか?」


「わかるぞ。だてに王立学校を卒業してないからな。で?濃度が濃いということは塩が純粋なのではないのか?」


 私は驚いた。

 簡単な説明と塩をひとつまみ食べただけでわかるとは。


「そうですね。そうとも言えます。しかし、天然塩の値段が高いのは人の手がかかっている事と、栄養に違いがあるからです。天然塩はとても、まろやかな味です。大体ですが、4つの栄養素が含まれます。精製塩にも含まれているのですが、精製塩は1種飛び抜けているだけで、他3種の栄養が少ないです。

 まあ、結論を言いますと、体に良いのは『天然塩』です」


「ふむ、そういうことかーー。ちょっとだけ待て。メモするから」


 本当にクルガー商会長は頭が良いようです。

 私は日本の教育を受けているからわかりますがーーもしかして、この世界でも学問は進んでいるのかもしれません。

 異世界あるあるの『学問が進歩していない』説では無いかもしれません。

 よくわからない『魔法』がありますからね。


「ふむ……」


 書き物を終えたクルガー商会長が何やら悩んでいるようですが、なんでしょうか?


 何やら考えがまとまったような、クルガー商会長が私を真剣に見ます。


「僕には『精製塩』の値段が高い味に思えた。例えば、天然塩に含まれる栄養は他の食材で体に入れればいいだけだからな。それに、味の好みはあるだろうが、基本的に塩の値段は高い。そこで「体に良い塩がありますよ。値段は10倍です」と言われて買うのは多分、王族しかいない。僕には精製塩の方が美味しいが、天然塩を精製塩の10倍の値段を出して買う意味が無い。

 と、まあ、一般人は考える訳だ。わかったか?」


 そうなるかなー?とは、少し予想してはいた。


 だからーー


「まあまあ、結論は後にして、試供品を置いていきます。業務用の塩を出しますよ。ここに置いていいですか?」


 何が何やらわからない顔をしているが「あ、ああ」と返事を貰いましたので、机の横に10kgずつ『精製塩』と『天然塩』を置いた。

 懐が(お金)寒いよ(無い)。


「試供品、と、いうことは、貰っても、いいんだな?」


 10kgの入った塩を見ながら、恐る恐る聞いてきた。


「はい。無料ですよ。タダです」


 途端にクルガー商会長の目がキラキラと輝き出した。


「悪い条件にならないようにするから、この塩を他の誰にも卸すなよ!いいな!高い値段で絶対に売れるから!いや、買い取るから!」


 私は頷く。


「もとよりそのつもりです。せいぜい高値をつけてください」


 むふふっ。

 精製塩は安いんだよー。

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