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商談しましょう 2

 クルガー商会長は、深い、深い、ため息を吐いた。


「それと、今、言った物は顔や体を洗う固形石鹸です。今日は待ち合わせておりませんが、髪専用石鹸のシャンプーと言う物もございます。クルガー商会長との商談が纏まり、希望がありましたら仕入れいたします」


 クルガー商会長の頭が机につきそうなほど、頭が下がっている。

 紅茶が髪に付くぞ。


 体感、約2時間歩いてきた私に紅茶1杯で水分が足りる訳も無く、おかわりをカップに注ぎ、優雅に見えるように喉の乾きを潤した。


◇◇◇


 ーーさてさて、クルガー商会長側の事情は『貴族との繋がりをもっと強固にする商品』を取り扱う事だった。

 1代貴族とは爵位を金で買った者の言い方で、1代貴族になる事が貴族の家への立ち入り許可を得る条件とも言えるものだったが、学生時代の貴族としかなかなか繋がりが出来ずに足踏みしていた状態だった。

 富裕層の方が人数が多い分、商品の数は出るが、貴族相手の商売は莫大な売り上げが出る為、貴族との繋がりは商人の目標だ。


 それを、目の前の幼女はいとも簡単に沢山の石鹸の種類を言う。


 勿論、産地によって作られる石鹸の種類は違うが、チルビット王国の現状は『他国製より一歩劣る』と評価されており、輸入固形石鹸が貴族の主流である。

 まあ、中には貧乏な貴族もいる為に国産の固形石鹸にも需要はある。

 庶民の富裕層も買うし。


 しかし、輸入品は他国で安く仕入れても石鹸自体が水に弱く、しかも凄く硬いとは言えない為にコストがかかりすぎて、専用馬車を作らないといけないくらい金がかかる。

 その為に大商会の独占市場となっており、そこに食い込みたい商会は数数多。


 この幼女が言った固形石鹸の種類だけで、ググイッと!そこに食い込めて、品質次第では石鹸販売大手になれるくらいだ。


 ーーそこに『髪専用石鹸』の登場だ。そんなもの初めて(・・・)聞いた。

 これが本当なら、貴族女性の取り込みが簡単に出来てしまう。

 ーー貴族は流行に敏感だ。


 社交界で話が出れば、一気に買い求める貴族が店に殺到してしまうのが目に浮かぶ。

 いや、それ自体は望むところなのだが。


 きっと、いや、確実に、この幼女にその自覚は無い。


 そうだ、自分が商談しているのは幼女だ。

 見た目からして4・5歳、の、はずだ。

 そこらの庶民よりも大人顔負けの言葉使いをしていようとも、まだ、子供だ。


 今の発言の危うさを幼女に教えなければならない。


 「貴族女性の母親は何をしている!」と怒鳴りたいと思っても、その娘の幼女が「訳あり」だと言っているのだ。

 ーーきっと、親の意に沿わぬ結婚だったのが推測される。

 ので、もし、取り引き相手になったら、幼女が石鹸を卸している事は内緒にしなければならない。

 そうしなければ、何処かの貴族の反感を買いかねない。


 インベルトは顔を上げた。


 ◇◇◇


 優雅に紅茶を飲んでいた幼女・チヤは、クルガー商会長がいきなり顔を上げたので、少し、本当に、少しだけ驚いてしまった。


 紅茶をバカ飲みしていたのが、やましかったなんて思ってはいない。


 いないったら、いないんだ。

 いいね?


「チヤ、君、だったね?」


「はい」


「馬鹿かね?君は?君が今言った事は誘拐されて、情報を吐いたら、証拠隠滅に殺される情報だよ?馬鹿かね?君は?」


 ひ〜〜〜!

 なんか、ひっっっくい声を出して、怖い事を言って、私を罵倒し始めた!!

 え?この世界って、そんなに怖い世界だったの?殺されるの?私?


「ふ〜〜〜っ。すまない。君は幼いから知らないんだね。この国の貴族の使う石鹸はほとんどが輸入品なんだよ。君のも輸入品かもしれないけど、髪専用石鹸は発明されていない。気軽に言ってはいけない。君の家族の命にも関わるからね?いいね?」


「は、はいっ!」


 コンディショナーやトリートメント、ヘアパック、洗い流さないトリートメントが有るって言ったら、殺されそう。

 よしっ、取り引きを始めたら、小出しにしよう。そうしよう。

 女性の美への追求は怖いのだ。


「庶民上がりの僕が相手で良かったよ?君?これからは僕だけに言うんだ。他の誰にも言ってはいけない。いいね?」


「は、はいっ!」


 ん?どさくさに紛れて個人契約じみた約束をしてしまった。

 まっ、いいか。

 お金さえ儲けれれば。


「それじゃあ、まずは、最低品質の固形石鹸を見せてもらっていいかな?」


 私は昨夜購入した某植物石鹸を出す。

 業務用石鹸と言えばコレ!というほどの最低品質だ。


「これは、傷つけてもいいかい?」


「サンプルです。差し上げます」


 試用品は必要だと思ってたんだよね。

 どんな石鹸かわからなければ値付けが出来ないと思って。


 クルガー商会長は、匂いを嗅いで、爪で石鹸を削ったりしている。


 そして、何故か、怖い顔でこっちを睨んだ!


「君!!君は、君は、馬鹿かね!?最高級品じゃないか!?馬鹿だね!!」


 また罵倒された!!

 しかも最後は馬鹿だって言い切った!!


「こんな硬い石鹸は他にないよ!?きっと王宮で使っている石鹸より質が良いよ!!君は馬鹿だけど!馬鹿だけど!運だけは良いようだ!僕と出会えたんだからね!!」


 凄い罵倒されたけど、褒められても、いる、ような?


 もっと、褒めてもいいよ?


 褒められると伸びるの私。

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