2回目の孤児院学校 2
ルミ神官に若干の不信感を持たれつつ、休憩時間を終わらせた後に、計算は飽きたと思われたのだろう、絵本を出してチヤの目の前に広げてくれた。
「おおー!」
チヤが驚いた声を上げるとルミ神官は「やっぱり子供か」とちょっと安心した。
「この絵本を声に出して読んでくれるかな?」
「うん!よむ!」
無邪気な幼女を演じつつ「こういう絵本は昔の勇者とかのお話しだよな!」と若干興奮しつつも、しっかりと声に出して読む。
「あるひ、もりのなかで、ぼうけんしゃのーー」
物語は進んでいくーー。
「ちが、どばーっと、でて、じょるじゅはーー」
残酷な場面がありーの。
「いきのこった、なかまは、ぼうけんしゃ、ぎるどで」
そう、冒険を終えた仲間はーー。
「ほうしゅうの、いちまんるび、を、もらいました、おわり」
冒険者が依頼を受けて魔物を倒す時に仲間が死んで、それでも魔物素材を持って帰って、報酬を受け取るだけの話かー!!!
子供になんてもんを読ませてるんだ!ジョルジュから血が吹き出したぞ!そして、死んだぞ!
「えらーい!よく最後まで読めましたー。面白かった?」
私は複雑な顔をしてルミ様を見た。
「じょるじゅが、しんじゃった……」
「そうね、死んじゃったね。お嬢さんは『死ぬ』って分かるかな?」
「お父さんが、しんだ」
「そうかー。お父さんが死んじゃったのか。あのね、この世界では、今日一緒に笑ってた人でも、明日は死んじゃうかもしれないのは、わかる?」
「うん、わかる」
「これはね、生きていく為には働いて、時には死んじゃうかもしれないけど、お金を儲けて、人が生きていく絵本なの」
チヤはこの世界の残酷さを小さいうちに教育するのだと学んだ。
「だからね、死なないように努力して、今は勉強して、力をつけて、大人になったら、働きましょうねってお話しでした。どうだった?」
「ざんこくだった」
貧民街の子は早熟の子が多い。
ルミ神官もチヤが絵本を理解している事を知って、何とも言えない気持ちになった。
「それで、お金が出て来たでしょう?お金ってわかるかな?」
「うん、わかる。にくがかえる」
「そう!食べる為の肉を買うのにはお金がいります。じゃーん!ここに本物のお金があります。今日はこれを覚えて帰ろうか」
ふむ、そうきたか。
思えば銅貨までしか見た事が無いし、この世界のお金に慣れていない。
お金の勉強は必要だ。
真面目にしよう。
という事で、極小貨の1ルビから1万ルビを教えてもらい、全てを覚えたチヤは、ルミ神官が教材用に用意してあった銀貨と金貨を見せて貰った。
その時のルミ神官の目は鋭かった。
ルミ様、私は盗まないから。
(ふーむ、これが銀貨か。鑑定。チルビット王国銀貨と。この国はチルビット王国と言うのか。表と裏は使い過ぎて刻印が削れてきてる。騙されないようにいちいち鑑定した方がいいな。金貨は、凄い濁ってる。全然輝いて無い。残念。)
「ルミ様、ありがとう」
「もういいの?珍しいお金よ?」
「ちょっとざんねん。きんかが、かがやいてなかった」
ルミ神官は素で笑ってしまった。
子供の夢は面白いなぁと。
でも、この子、頭が良い。
全てのお金を覚えてしまった。
ま、次には忘れているかもしれないけど。
「今日はこれで終わりです。わからないところはあったかな?」
「ゆめのあるえほんは、ありますか?」
ルミ神官は笑うのをグッと我慢したが、この子は今日の絵本が不満だったらしい。
「あるわよ。受付で渡して貰った紙はある?夢のある絵本が読めるように、書いてあげる」
子供が差し出してきた連絡書に、今日最後に勉強した事と『夢のある絵本を希望』と書いておく。
「はい、これでいいよ。この紙は大事に持っておいてね。じゃあ帰ろうか」
「はい」
布鞄を持って部屋の出口に行くと、まだ勉強している子供がいるみたいだ。
「ルミ様、バイバイ」
「はい、バイバイ」
チヤは自覚せずに密かに興奮していた。
大金を触って気分が高揚していたのだ。
少しだけ日焼けをした顔にぽっぺが赤くなっていて、痩せていても可愛い幼女が仕上がった。
歩いていくと受付のおっちゃん神官様がいた。
「今日はどうだったかい?」
「んー、ためになった」
幼女が真面目な顔をして、ほっぺを赤くして「為になった」と言ったのだ。
面白い、意外に可愛いしか無い。
「そうかい。良かったね。気をつけてお帰りよ」
「はい!ありがとうございました!」
家に帰る時はいつも早歩きだ。
チヤははやる気持ちを抑えきれない。
1時間かかる道を、随分と早く家に帰宅した。
「ただいまー!」
「あら!おかえりー」
布鞄を道具箱に入れて蓋を閉めて、お母さんのところに行くと、コップに水を入れてくれていた。
うがい、ではなく、遠い道のりを帰って来た娘に水分補給をさせる為である。
チヤが椅子に座ってゆっくりと水を飲んでいると、お母さんが話しかけてきた。
「チヤちゃん、お昼の食材を頂戴」
「うん。何買う?」
「うーん、パロの実をお母さん食べたいから、デザートに1つと、チヤちゃんは昼食に何を食べたい?」
チヤの頭に日本食が過った。
「親子丼食べたい!」
「え?」
娘の意味不明の言葉にソフィアは固まった。




