2回目の孤児院学校 1
孤児院に着いたら、きゅるんと元気に受付のおっちゃん神官様に挨拶してキャロを渡すと、こっそりとアドバイスをくれた。
「夏になったらキャロの価値が下がるから、他の物を持っておいで」
と。
人気が無くなってから言われたから本当のアドバイスなのだろう。
何故かおっちゃん神官様に気に入られちゃったぜ。
幼女の無邪気さは大切だな。
わかったよ、おっちゃん神官様。
次に持ってくる時はおっちゃん神官様に賄賂と言う名の試食品をもってくるぜ!
おっちゃん神官様に返してもらった紙を読みながら歩いて行く。
『2かいめ とく きゃろ 3つ』
ふむ、日本語じゃないと読みにくいな。
そしてお待ちになっているおばあちゃん神官様に紙を見せて木札を貰い、教室まで歩いていく。
今日は朝早かったからか、子供の声が少ない。
1番奥の部屋に入ってすぐ右上を見ると、若い女性神官様がいた。
「木札をくださいな」
「はい、おねがいします」
「あらー、可愛いわね」
やっぱり幼女は可愛く見えるらしい。
「はい、確認しました。今日はよろしくね。ルミと言います」
「ルミ様?」
「そうよ。じゃあ、勉強部屋にいきましょうか」
にっこりと柔らかい顔をしたルミ様は個室の方に向かって歩いていったので、後をついて行く。
今日は結構近い部屋だ。
扉を開けて待ってくれている。
「はい、どうぞ、入って奥の椅子に座ってね」
「はい」
中に入って子供用の椅子に腰掛けると、ルミ様は文字板を手にして「どこまで習った?」と聞いて来た。
「もじをかくところまでならいました」
私は幼女に擬態するのだ。
「そう、2回目なのに偉いわね。今日は前と同じで文字を書いてみましょうか」
ルミ様から小さな黒板をもらって、文字板を見ながら間違えないように丁寧に書いていった。
お母さんみたいに流麗には書けないや。
可愛げのある文字には出来るけど。
一通り書き終わると、ルミ様から「次は私が言った文字を書いてね」とお題が出された。
一応、文章を書けるくらいには文字を覚えているので、全問正解して、数字も書けたので、計算をする事になった。
わたしはしょうがくいちねんせいです。
◇◇◇
「凄いわ!一度教えただけで間違えずに計算出来るだなんて!」
ルミ様が大層感激してくださっております。
すみません。
人生2度目なんです。
きっと、大学生並みの授業まではついていけます。
これでも薬剤師でしたからね!えっへん!
「そうねぇ、早いけど、次は少し難しい問題を出すからね?」
二桁の計算です。
5歳に出す問題じゃないです。
でも、私、中身は老人なんで、少し悩むふりをして解いちゃいます。
「え?うそ?天才?この子、天才?ぶつぶつ」
聞こえてますよ、ルミ先生。
あ、違った、ルミ様。
きっと、マニュアル化された問題があるのでしょう。
書物を見ながらルミ様が勉強を進めてくれます。
長い、とても長い時間を計算をして過ごしました。
普通の子供なら癇癪を起こしていそうです。
爽やかイケメン青年神官様より先生役が下手だぞ、ルミ様。
「えっ、二桁計算が全部終わっちゃった……」
多分、2時間は座りっぱなしです。
ちょっとつまらなそうな、不貞腐れた態度をとってみます。
「つかれたよ〜。つかれた〜」
ルミ様が私の様子に気がついた!
「あっ、あ、そうね、休憩時間にしましょうね。待っていてね、飲み物を持ってくるから」
ルミ様が部屋を出て行った後は、椅子から立ち上がって伸びをします。
はー、久しぶりに頭を使いました。
大学の授業並に長かったですよ?いや、それよりも長かったかもしれません。
もう少し面白い授業がしたいです。
お尻ふりふり体操をして待っていると、ルミ様が扉を器用に開けて飲み物を持って来てくれました。
「はーい。甘い飲み物を持って来たよー。座って飲みましょうね」
「はーい。ありがとうございます。
何でお尻ふりふり体操をしていたかって?
前世からの癖だよ。お腹にくびれを作る為にね。
「いらないだろう?」って?うるさいな!今からが大事な時期なんだよ。
そして、スライムコップを貰ってから、一口飲んでみると、聖水の失敗作の少し疲れが取れるほんのり甘い水でした。
いや、一応、鑑定では聖水と出てくるけどね。
だから、この水を飲むと甘いものが食べたくなるんだって!
く〜!口寂しくなってきたじゃないか!
よし!必殺「おやつ食べて良いですか?」だ。
「ルミ様、もってきたおやつ、たべてもいい?」
一緒に飲み物を飲んでいたルミ様の了承をもらったので、足元に落としてあった布鞄に手を突っ込んで、何を食べようか考える。
(あれだ!チョコが食いてぇ)
チョコっ!チョコ!チョコをちょこっと!
必殺!チョコバー!を2本取り出す。
「はい!ルミ様、いっしょにたべよう?」
ルミ様は見て分かるほど、引き攣った顔をした。(とても嫌そうだ)
しかし、どうにか顔を戻す。
「わ、私はいらないわー。お嬢さんだけで食べていいよ」
「えー?いっしょにたべるとにばいおいしいよ!はい、あげる!」
手に持ってるチョコが溶けるんだよー!
「あ、ありがとう」
ルミ様は引き攣った顔をして受け取ってくれた。
私はお腹に溜まるチョコバーに齧り付く。
(おほー!子供っていいな!大人には小さなお菓子が大きく見えるし、お腹に溜まる)
チヤが無心でチョコバーに齧りついていたのを見て「おいしい?のかも?」と思ったルミ様は「えいっ」とチョコバーに齧り付き、頭にビビビッとくる甘さに脳を痺れさせた。
(えっ?なに?これ?なに?おいしい!おいしいよう!)
ザクザクザクザクと凄い勢いで食べたルミ様の手には溶けたチョコがついていた。
勿体なくてペロリと舐めとった所で、ハッ!と正気づく。
え?私が手を舐めた?いや、あの素晴らしく美味しいお菓子を貧民街の子が持ってくるってあり得ない!
ジッとルミが見ている前で、小さな口でモゴモゴと食べているのは痩せている貧民街の女の子だ。
(普通の子よね?あれ?でも、他の子と何か違う。あっ!髪がギトギトに光ってない!さらさらしてる!それによく見ると無地だけど良い仕立ての服を着ている。この子何者?)
結構、怪しまれているチヤだった。




