身体を洗いましょう 1
風呂桶(小)400ルビ
今ある私の全財産です!
持って行きなさい!
机の上にドンッと風呂桶(小)が出てきました。
風呂桶(小)を抱えてトイレの近くまで行きます。
汚水はトイレに流さないといけませんからね!近い方がいいのです。
そして、ちまちまと買っていた水を桶の周りにぐるりと配置します。
シャンプーを出して準備万端です!
「ち、チヤ?何してるの?」
お母さんが不思議そうに、いや、ちょっと不審そうです。
そうですね、眺めだけ見ればね。
「お母さん。私は今から綺麗に髪と身体を洗います。何も言わないでください」
「お、お母さんに、手伝える事はある?」
「大丈夫です。手順は分かっています」
「そ、そう。お母さんは、見ていてもいい?」
「いいです。つまらないでしょうが、見学していてください」
私はバッと服を脱いでパンツを脱ぎ、あっ!と気がついて、その前に靴を脱ぎ捨て、パンツを脱いだら、全裸幼女の爆誕です!(汚い)
やばいです。
新品の服とパンツと靴を脱いだら、体温で蒸発しているのか、むわりと臭い臭いが漂い始めました。
至急、綺麗にしなくてはいけません!
水が飛び散らないように、風呂桶の中に座って水のペットボトルを掴んで髪に満遍なくかけ、かけ、上手くかけれないよ〜(泣き)。
幼女の手に2Lペットボトルは大きすぎます!
「お母さ〜ん!(泣)」
「あらあら、どうしたの?」
「髪の毛を満遍なく濡らして下さ〜い!」
お母さんが椅子から立って近づいてきてくれます。
その顔は、ちょっとだけ面白そうです!酷い!
「この水をチヤの頭にかければいいのね?」
「はい、お願いします」
「かけますよ〜」
頭の上からペットボトルの水がとぷとぷと流れて来ます。
私は水を無駄にしないように一生懸命頭をガシガシとこすり、水を髪の毛に含ませるように揉み込みます。
「ど、止めてください」
「はいはい。ん?あらあら、かけた水があまり髪を濡らして無いわ?変ね?確かに水をかけたのに……」
私はなんとなく分かっている事を言います。
「皮脂が凄すぎるのと、長年の汚れのせいです」
お母さんは悩んでいましたが「あっ」と言います。
「脂ね!?水と脂は混ざらないわ!それね!」
「そうです」
「ごめんなさいね〜。私がチヤちゃんを放っておいたから……」
お母さんは悔やんでいる顔をしていましたが、仕方がないのです。
私の物心がついた頃から朝食を私に食べさせると夕方までお母さんは仕事で、夕食を作ったら食べて寝る毎日でしたから。
昼食は当然ですが無いです。
私はその間、ステラおばさんの末っ子のダンとその仲間と遊んでいました。
男の子と同じ遊びをしていたのです。
当然ながら凄く汚れます。
その汚れすら夕暮れが隠してしまい、貴族令嬢だったお母さんが洗濯の方法を知るよしも無く、水でジャバジャバと洗って搾り、干すので精一杯です。
今思えば、お母さんは良く料理ができたものです。
まあ、貧民街の子は基本的に汚いので違和感なく過ごせましたけどね。
「大丈夫です、お母さん。今から輝くくらい綺麗になります」
これは決意です。
本当はお湯で固まった垢をふやかして落としたいけども、贅沢は言いません。
日本のシャンプーの力を信じています。
私はポンプを押して、液体のシャンプーを手で泡立てるようにしてから髪の毛につけます。
頭皮はその後です。
まずは頑固な髪の脂を落とさなくてはいけません。
何度も何度もポンプをプッシュして髪に時間をかけて馴染ませます。
界面活性剤でしたっけ?そいつを信じます!
「お母さん髪に水をかけてくれますか?」
「いいわよ。かけるわね」
とぷとぷと水が降って来ます。
ここはサササッと全体を流して終わりです。
「止めてください」
それからまた同じ事を繰り返します。
何度も、何度も、何度も。
今の髪が痛んでもきにしません。
今からは3食、食べたものが栄養になり、新しい髪が生えてくるのです。
私もお母さんも健康になって髪の毛がフサフサになりますよ!
頭皮もマッサージするように揉みほぐしていきながら、大量の抜け毛と戦います。
一度、水をトイレに流した方がいいかもしれません。
桶が木色なのに濁っているのがわかります。
これで、体の垢がふやけたらいいのですが。
シャンプーを手に取って髪につけると、やっと泡立ちました!
皮脂に勝ったのです!
もうペットボトルを半分も使ってしまいました。
手の感触でふわふわの泡が立っているのがわかります。
これで髪を洗うのは最後なので念入りに洗います。
「お母さん流してください」
「……いいわよ」
何故だか、お母さんの声が湿っぽいです。
疲れて聞き間違えたのでしょうか?
5歳児の腕は、思っていたより力が無かったようです。
綺麗に、綺麗に泡を流します。
「お母さん、泡は全部、落ちましたか?」
流れる水が止まります。
ずっと下を向いていた顔を上げて邪魔な髪の毛をかきあげます。
お母さんを見ると、何故か、泣いています。
「アンドチヤっ!」
あんどちや?
私の名前が入っているけど、きっと、違いますね。
だって、お母さんの顔が悲痛そうです。
ああ、きっとそうです。
私の髪の毛はハニーブロンドと呼ばれる色を多分しています。
汚れているけれど、毛先を綺麗に洗って確かめた事があります。
洗った事で全体的に水気も合わさって輝いているように見えることでしょう。
対して、お母さんの髪の毛は栗色です。
濃い茶色の髪色ですね。
だからでしょう。
きっと私の髪は見た事の無い父親からの遺伝のはずです。
『アンドチヤ』は私のお父さんの名前でしょう。
お父さんも私と同じで髪が長かったのかな?
お母さんの反応を見る限りには、そう、なのでしょうね。
お母さんの感傷に付き合っていてもいいのですが、さすがにまだ春です。
そしてこの家は基本的には日陰です。
「さむい……」
実は、ぷるぷると震えている、私です。




