優雅?な朝 1
朝はお母さんの目が覚めるまで、一緒に布団の中でぬくぬくする。
貧民街の第3地区の私の家は、貧民街の中でも特に壁寄りで朝のお日様の光が強く入ってくる事は無く、春先のこの頃はまだ少し寒いくらいだ。
薄いペラペラのお布団が私とお母さんの体温でぬくぬくしてちょうど良い温かさになっている。
冬の死にそうな極寒は思い出したくもない。
よく、私達、ペラペラの服と布団で生きてたな。
いや、服はごわごわだった。
人間て強い。
いや、貧民街では体の弱った者が冬を越せなかったと子供の耳にも聞こえたことがあるから実際には厳しいのだろう。
私とお母さんは運が良かっただけだ。
実際に私とお母さんはガリ子ちゃんだからね。余分な肉が無い骨と皮ってやつ。
食品が手に入る『通販』スキルを手に入れられたのは奇跡だろう。
いや、前世の私が何でもかんでも通販で買い物を済ませてきた経験が生きているのかもしれない。
だって!『まとめ買いでお得!』とか『いざという時の備蓄に』とか、売り文句に釣られてしまい、無駄使いした事もある。
アレはこんなに要らなかっただろう?って物が。
1部屋は備蓄品で溢れてたっけなぁ。
「洗剤が無くなった」と思えば、備蓄部屋へ取りに行く。
「シャンプーが無くなった」と思えば、備蓄部屋にある。
あれだね、生活に欠かせない物が全て備蓄部屋にあった。
妹の子供のオムツは通販がありがたかったかなぁ。
1人の子がオムツを卒業するまでに、あんなに大量に消費すると思っていなかったんだよ。
とにかくかさばるし、毎日くちゃいゴミは出るし、ゴミの日は家からゴミ捨て場まで2往復したぐらいだ。いや、3往復した時もあったなぁ。
思い出すと、妹家族に尽くした人生だった。
楽しかったから良いんだけどね。
きっと薬剤師の仕事だけして暮らしてたら人生に張りが無かったはず。
妹家族の甥姪と生きて、良い叔母さんだったと思うよ。
あっ、お母さんが起きた!
「あ、うはよぅ、チヤ……」
「おはよう、お母さん」
布団から出たら足が冷たいよね?
ちょうどお母さんと私の新しい靴を買おうとしてたから買っちゃおう!
通販画面を開いて、2679ポイント+8012円か。
まずは足のサイズがわからないからスリッポンを買おう。
布団から起き上がって足の裏をじーっと見る。
見て、見て、見るが、何センチかわからない。
え?メジャーで測る?っていうか、靴のサイズってcmでいいの?5歳の子供の足のサイズって何cm?
とりあえず、裁縫の柔らかいメジャーを買おう。
「チヤちゃん、朝食の材料を貰っていい?」
「はーい」
靴は後だ。
お母さんの要望を叶えるのだ。
「何出す?」
「う〜ん、あっ、パンは出せる?お母さんパンが食べたいな」
「うん」
通販画面を開いて食品コーナー。
パンはロールパンがいいな。朝からフランスパンなんて食べられないよ。
「他は?何買う?」
「チゲ草とジンの根とお肉も欲しいかな?あと、油ってある?」
「あるよ。植物油でいい?」
「そうねぇ……植物油って高くない?」
「ピンからキリだね。私のおすすめはエゴマ油かな?」
「初めて聞く油ねぇ。チヤちゃんのおすすめなら、それを貰おうかしら?」
「うん、じゃあ出すね」
机の上にごっちゃりと出す。
転がったのは手で取りお母さんに渡す。
「ありがとうね。チヤちゃんは水瓶にお水をお願いできる?」
「うん。飲める水を出すね」
天然水2Lまとめ買いの6本入りを出して、ペットボトルの蓋を開けてドボドボと水瓶に溜める。
水はいつ買ったって?
水は毎日使うから、買う物が思いつかない時やポイントがはした数になった時にこまめに購入している。
だって井戸水、安全じゃないもん。
あ、歯磨きしたい。
きっと口の中が歯垢だらけだ。
お母さんの歯ブラシと子供用歯ブラシと歯磨き粉。
何故通販の歯ブラシは100円で買えないのか?不思議だ。まとめ買いなら安いのに1本からは安くない。
お母さんが野菜を洗い終わったら、流しを借りてコップに水を汲んでから歯磨きする。
あ〜、懐かしい歯磨き粉の匂いだ。
歯磨き粉だけは良い物を使わないと老人になった時に苦労する。
あ、経験談ね。
フロスはこまめに使うべきです。
虫歯菌を増殖させないのが基本です。
あ、確か、永久歯の生えてくる前に乳歯の幅を広げないといけないんだ。
顎が発達する物、干物でも齧ろうかな。ハムハムしてると良い感じに顎が丈夫になりそう。
口をすすいで歯磨き終わり!
布団の上に戻って通販画面を開くと、魔力ポイントが100を切っていた。
……大丈夫。お金がある。
お、メジャーが990円で売ってる買いだな。
送料が無いのが地味に嬉しい。
いつも買う時に送料無料の所を選んだり、3980円以上購入して送料無料にしてたな。
ピンク色の可愛らしいメジャーを私の汚い足の裏に当てて、ズレないように測る。
……今まで体を清めて無かったけど、今日からは拭くだけでもしよう。地味に、いや、猛烈に自分の臭さを実感した。
これは貧民街の子だわ。
よく、こんな汚い子の差し出したナッツタルトを食べてくれたなエルミ様。
癒し系イケメンの顔を思い出す。
「ん、15.3cmってことは、少し大きめで15.5cmの靴でちょうどかな?」
えーっと、通販で、スリッポン、子供っと。
おっ!950円のシンプルなやつがある!色は、汚れの目立たない紺色にしよう。
はい、購入。
目の前に出てきたスリッポンを履いて立ち上がり歩いてみる。
ふむ、草履と比べ物にならない履き心地の良さがある。
私の好みとしてはかかとがガポガポしないスニーカーなんだが、この世界では目立つからな。