子供のフリをしましょう 2
あー、うるさい部屋を5つほど通り過ぎて、きっと次が最後の部屋!
の、はず。
あっ!行き止まりが見えた!やった!着いた!印の看板も有る!
やっと文字が学べる!
入り口の扉は開いているから入ってもいいんだよね?
ひょっこりと覗いてみると、思ったよりも静かな場所だった。
たまに子供の声が聞こえるくらい。
「お、木札を貰えるかい?」
ビックゥッ!
お!驚いた!何処だ!?何処に人がいるの!?
「あ、可愛いなぁ、上だよ上」
声の聞こえた右を見ると、何故か高くなっている場所に青年がいた。
こちらに向かって手を伸ばしている。
あ、木札ね、木札。
今度は小さな声で「はい」。
教室が静かだからね。
「ふーん。やるねぇ。今日の君の担当のエルミだよ。よろしく」
「エルミ様?」
「そうだよ」
言い方は間違っていなかったらしい。
何故か『様』をつけたほうがいい気がした。
「じゃあ個室に行こうか」
「個室?」
「そう。この部屋はね、先生と生徒が一対一なんだ。これって凄いんだよ?」
「すごい……」
「わからないかなぁ。じゃあ行こうか。ついておいで」
ゆっくり歩くエルミ様の後ろを歩いて行くと、確かに個室があるみたいだ。
(部屋の中に部屋が有る。不思議。いや、前世を思えば普通か)
「さあ、ここだよ。入って」
中は警察の事情聴取をする部屋みたいだ。
(実は一度詐欺にあって、警察の個室を使った)
エルミ様が扉を支えてくれているので、遠慮なく入る(扉が重そうだし)。
中に入って立っていると「奥に座って」と言われたから奥の椅子に座る。
(あっ!こっちが子供用の椅子なのか!気遣いが嬉しい)
ニッコニッコしていると、早見表みたいな板を出された。
布張りしてあって長く使うのが目的かな?子供は汚しやすいから。
甥っ子と姪っ子の面倒を見て知っているのです。
「今からね文字を覚える遊びをするよ。今から言うことを繰り返してね?」
「はい!」
エルミ様、子供の扱いに慣れていそうだ。
遊びと言えば子供はすぐに覚えるとか。
エルミ様が声に出して表を指差した場所を繰り返して言葉にする。
(あれ?これって……字は違うけど、アレだよね?)
「ほら、最後は『んー』だよ。言いにくいけど頑張って!」
「んーーー!」
「良く言えたね!偉いぞ!」
むふーっ!
って、違う!子供返りしてたわ!
「じゃあ、この文字はなぁんだ!」
(この文字は確か……)
「むーーー!」
「おっ、当たりだ!凄いねぇ。次はコレ!」
「ぷーーー!」
「おお、また当たりだ!マグレかなぶつぶつ。次はコレ!」
「すぅーーー!」
「またまた当たりだ、偉いねぇ!」
これ、文字は違うけど、ローマ字だー!!!
少し感情を現す文字が有るのが珍しいな。
「これはさすがにわからないだろうぶつぶつ。
これなーんだ!」
「おこったぞおー!」
何かわかりやすい怒った文字。
泣いた文字はもっとわかりやすい。水滴だよね?それ?
〈お、おおっ!この子は天才かもしれない!〉by.エルミ
「じゃあ、僕は次からは指差ししないから、上から順番に読んでくれるかな?」
「いいよ!あー、いー、うー、ーー」
1時間経過。
「いっぱい話して喉が渇いたでしょ?一緒に飲み物を飲もうか。ちょっと待っててね」
エルミ様が扉を出て行った!今がチャーンス!
アイテムボックスからA4の紙と鉛筆を出して、素早く早見表を書いていく。
(急げっ急げっ急げー!)
文字も習い終わって、数字も10進法だった。
あとは、この国の文字を覚えるだけ!!
丁寧に!でも、早く!
ーしばらくお待ち下さいー
終 わ っ た ーーー!!!
アイテムボックスに紙と鉛筆を一瞬でしまう。
ガチャッ。
「待たせてごめんね。少し甘いお水だよ。疲れが取れると言われているんだ。元気になるよー」
え!気になる!どんな水?
あ、コップも子供サイズだ。
でも、コップはコレは……何製だ?鑑定。
●スライムコップ
スライムの死骸で作ったコップで、落としても壊れにくく安価で品がいい。
スライムコップ!?
もしや、スライム万能説の世界なのか?
次は甘い水を鑑定!
●聖水(最低品質)
聖魔法で作った水。最低品質で飲むしか用途がない。少し甘い。疲れが取れる。
神官見習いの失敗作かー!!!
まあ、体に悪い作用は無いからいいけど。
味は……メープル?を、かなーり水でといた味がする。
余計に甘味が欲しくなる。
その時、チヤのお腹が「くーっ」と鳴いた。
チラッとエルミ様を見ると、困った顔をしていた。
くっ!屈辱!
最近3食しっかりと食べてるから、お腹がお昼だと教えてくれた!
ーーあっ!いい事思いついた!
「おやつをたべていいですか?」
「お腹が空いたんだね。食べていいよ」
足元に落として、いや、置いていた布鞄から取り出すように見せつけて、通販で素早くお腹に溜まりそうな栄養の有る物を探す!
コレだ!!
素早く包装紙を外して、2個取り出して椅子に座る。
「エルミ様!これあげる!」
「え……」
あ、エルミ様が呆然としている。
神官様だもんな。
貧民街の子供の出した物は食べられないか……。
「いいの?貰って?大事な食べ物でしょう?」
「いいの!きっとお母さんもよろこぶの!」
私が喜ぶんだけどな!
エルミ様がふんわりとはにかむように微笑んだ。
イッケメーン!
エルミ様!癒し系イケメンだった!髪型に騙された!(貧民街ほどでは無いが、ちょっと脂ギッシュ)
大切な物を貰うように、そっとお菓子を受け取ってくれた。
そして、腹ペコ幼女は自分の大好物のお菓子を貪り食うのだ!!
◇◇◇
青年神官エルミ
こっ!これは!
このお菓子は凄い!確かな歯応えがあるのに硬く感じずに、この少し溶けている甘いものが食欲をそそり、上に乗せられている素朴だがしっかりとした味の木の実が香ばしく口の中に広がって余韻を残す!
それに、クッキーが硬すぎずに繊細な甘さが計算されているかのように満足感のある厚みがある。
〈これは……、王都一の菓子屋にも、負けていない、か?いや、今食べているからか、コレこそが世界一美味しいと思える!!〉
夢中になって食べて、口の中で甘さがくどくなる前に食べ終わってしまった。
〈ああ、無くなってしまった。もっと食べたかった……。いや、待てよ?ーーこの余韻すら計算されている菓子ではないのか?購買意欲を掻き立てて客を満足さぜずに、もっと、もっとと、欲しがる菓子ではないか?〉
その考えに怖くなったところで、目の前が開けた。
正面には一心不乱に空腹を満たそうと幼女には大きい菓子を小さな口いっぱいに頬張っているーー。
〈そうか、これは、大人の菓子ではなく、この子の為の菓子なのだなーー〉
そう、納得がいったところで、満たされた気持ちになって、飲み慣れた失敗聖水を飲んだ。