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通販スキルと時間停止アイテムボックスで生活改善!  作者: 春爛漫


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スイード伯爵家領地に帰還中 9

 外から騎士様の怒鳴り声が聞こえて、窓の外を見ると別の騎士様が「様子を見て参ります」と、窓から離れていった。


 私は開いた窓から少しでも外を確認しようと顔を外に出したら、後ろから引っ張られて、おじいちゃんの膝の上で確保された。


「危ないから静かにしていなさい」


 あまり動じていないおじいちゃん。

 おばあちゃんも見ると「仕方ないわねぇ」とでも言いたそうな顔をしている。


 え?何が起こっているかわかってるの?


 チヤがわかっていない中でも事態は動いていた。


 ◇◇◇


 チヤ達一行の前に飛び出してきて、行き先を塞いで、馬を驚かせて動きを止めた原因はーー子供の男の子だった。


 とりあえず1番前で先導していた騎士が注意の為に怒鳴りつけたが、男の子は「奇跡の伯爵様!お願いです!僕はどうなってもいいから弟を助けてください!」と、怯えながらも叫んで、土下座したまま動かない。

 その体は恐怖で震えていた。

 実は涙も流していて、もう少しで失禁寸前だ。


 実は騎士達ーーこの日常に慣れていた。


 話は戻るが、侍女のセーラが村で聞いた噂話は『慈悲の伯爵様』だ。


 まあ、言い方はいろいろあるが「伯爵様にお願いすれば教会でも治らない怪我や病気を治してくれる」と言うもので、騎士達がそれとなく領内で噂を否定して回っても、噂は消えずに、それどころか新たな噂が出てきて、もう放置している状態である。


 では、噂は『嘘』なのか?


 と、問いかける者には、ハッキリと「嘘」だと言うが、実際に伯爵邸に助けを求めた領民が邸内に入れてもらっているのを目撃した者達から『噂』が広がってしまう。


 騎乗している騎士達は目配せをして、事が大きくならないように、まずは密かに伯爵様の意向を伺うが、何となく返事はわかっている。


 (同僚が増えるかなぁ)


 と子供の男の子を見つめて、そんなことを思っていたりして。


 ◇◇◇


 チヤがおじいちゃんの膝に座っていると、騎士様が窓に顔を寄せて来て「伯爵様、いつものです。男の子が弟を助けて欲しいと土下座して動きません」と報告してきた。


 おじいちゃんは「いつものようにしなさい」とだけ言うと、騎士様は心得たように馬車の前へと急ぎ走った。


 そうして、しばらく待つと、馬車が動き始めて、チヤがキョロキョロと左右の外を見ると道を外れた一騎の騎士様の後ろ姿が見えた。


 チヤがその姿が見えなくなるまでジーッと見ていると、おじいちゃんの小さい声が聞こえてきた。


「チヤちゃん。『噂』だよ。王都でもあっただろう? 傍迷惑な貴族の犯罪が。民衆にも『噂』は密かに知れ渡っている。チヤちゃんもお出かけする時は気をつけるんだよ」


 チヤは体を強張らせた。

 チヤを食べようとした公爵の誘拐事件。

 チヤの馬車をつけて来た人の目的は?


 『エルフ』だ。


 チヤの緊張した様子がウェンズまで伝わってきたので、大丈夫だよ、と言う風に優しくチヤを抱きしめた。


 少し脅すようにチヤには言ったが、うまくいけば今回も領都に男の子とその家族をご招待だろうなぁ、と思う伯爵様だった。


 ちなみに道を外れた騎士は、飛び出した男の子を持ち上げて自分の乗っている馬の前に乗せて「君の家族はどこだい」と言う騎士の質問に「孤児院にいます」と、男の子はガチガチに震える口と体で答えると、道案内を男の子にお願いして孤児院へと向かっていた。


 いつもの流れなら、この後に騎士が「この子達は領都の孤児院で面倒を見ます」と、騎士の身分証を見せてお持ち帰りして、使用人達と一緒に領都にご同行だ。


 そして、後は伯爵様の意向で今後の動きが変わる。


 今回は男の子が「弟を助けてください!」と言っていたので、孤児院から男の子の兄弟2人を連れて行く事になるだろう。


 スイード伯爵家の護衛をしている領地の騎士達や使用人達のほとんどはこうして何かしら伯爵様に助けられており、今がある。


 だから、伯爵様のご意向で動くことに疑問は無いし、きっと『あの方達』がこの小さな子供を救ってくれるだろうと、使用人達は温かく迎えるのだ。


 こうしてまた、領地に噂が広がるのだ。


 「伯爵様の馬車前に飛び出した子供がいなくなったって」

 と。


 スイード伯爵家の領地には、ウェンズが善政を強いていて、税金は他の領地より安いし、領民は「暮らしやすい」と感じている。

 犯罪が起きようものなら、衛兵が素早く事件を解決してくれるし、道に行き倒れている貧民もいない。

 街の代官や村の村長の横暴が酷ければ、領都から伯爵様直属の騎士達が駆けつけてきて事実調査をしてくれるし、言うこと無しの領地である。


 なので、結構、スイード伯爵の領地の領民は賢い。


 今回でも「男の子がいなくなった」のには何か訳があるのだろうと、また噂が広まるのだ。


 決してスイード伯爵を悪くは言わない。


 孤児院が綺麗で、子供が健やかに育ち、一人前の大人になるのには領民も密かに「孤児達が羨ましい」と思っているのだ。


 チヤの侍女のセーラの妹も、孤児の夫と暮らしているが差別は無い。


 多分、村で暮らしているよりは裕福に暮らせているだろう。

 『領都』の隅っこでも『領都』に暮らせているのだから。


 人は誰でも『便利』に慣れると不便だった頃には戻れないのだから。

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