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お母さんの病気克服

 お母さんが丸薬を手に持って、口の中に放り込むと水でその丸薬を飲み干した。

 ゴクリという音が聞こえそうな飲みっぷりだ。


「お母さん……。それが、最後の一粒だよ……」


 お母さんが驚いた顔をした後にふにゃりと泣きそうな顔になった。


 バルスス病の特効薬の戦いも今夜までだーー。


 10日間ーー長い、長い戦いだったーー。


 お母さんが特効薬を飲んでは爆睡し、食後に飲んでは爆睡し。

 とにかく、お母さんが爆睡しまくり、筋肉が無くなり、立つのも辛くなりーーそれが、やっと、今夜に結びついた!


 明日になったらお母さんの『状態異常 バルスス病』がステータスから無くなっているはずだ!


 10日前からの食事改善でお母さんの顔色は良くなって来たものの、代わりに体力と筋肉が落ちてしまった。


 明日からは無理なくお母さんが動ける範囲で動いて、家事から始める事になる。

 トイレに行くだけでも今のお母さんにとっては大切なリハビリだ。


 私も5歳児で、あわや親の介護をしないといけないとは思わなかった。

 トイレの行き帰りに杖代わりになっただけだが。


 まあ、それくらい今のお母さんは産まれたての子鹿だ。


 まさか、バルスス病の特効薬が爆睡薬だとは思わなかった。

 お母さんが苦しむよりいいけど。


 きっと、食っちゃ寝、食っちゃ寝して、たまにトイレに行っていたお母さんには日にちの感覚が曖昧になっていただろう。


 明日からは、やっと健康なお母さんだ!


 お母さん、再婚とかしないかなー?兄弟か姉妹か欲しいなー。


 幸せな気持ちで今夜は眠りについた。


 ◇◇◇


 ん?

 んん?

 あさ?まだ、暗いよ……。


 だれ?

 私を触るのはーー


 触る?


 ぱちっ。


「起きた?おはようチヤちゃん。チヤちゃんのおかげでお母さんの病気が治ったのよ?」


 その言葉を理解した途端に、寝たままの私の目尻から、ツーッと涙が流れ落ちた。


「あらあら、喜んでくれないの?チヤちゃん。泣かないで。不安にさせてごめんなさいね」


 むわりとお母さんの濃い体臭がして、私はただの子供のように、わんわんと泣きじゃくった。


 その間、お母さんはずっと私の頭を撫でてくれていた。


 ◇◇◇


 ーーう、珍しいね。ソフィアが起きてるなんて。


 ーーきん、ずっとご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。こちら、お約束していた代金です。


 ーーんた!こんなに貰えないよ!病気は治ったのかい?治療費に当ててもいいんだよ?


 ーーおかげさまで病気は治りました。沢山の人に支えてもらって、ありがたいばかりです。


 ーー良かったよぉ!でもね、この報酬はいけないよ。私はこれだけ貰えれば充分だからね。これは返すよ。


 ーーいけません!


 ーーいや、私はあんた達にゴブリン肉を食べさせてたんだ。ラビットやブルのような良い肉じゃないし、夕食も作りに来なかった。私はそれだけの人間さね。


 ーーいいえ!私は知ってます!ゴブリン肉はラビットの肉より病人食に良いことを!ステラさんのお気遣いですよね。それのおかげで私も娘も生きてこれました。ありがとうございます。


 ◇◇◇


 むぅ……


 なんでか、目が開かないよ……?


 なんで?なんで?


 力を入れて〜


 バリッ。


「ん?」


 今、何処かからバリッと聞こえたような。


 う〜ん!と伸びをして起き上がる。


 何げなく、いつもお母さんが寝ている場所を見ると、お母さんはいなかった。

 トイレかな?


 窓を見ると相変わらず日当たりは悪いが、悪いなりに暑そうな陽射しが差し込んでいた。


 ステラおばさんが来る前かな?


 ベッドから降りた途端に「ドンッ」という音が聞こえて、ビクッと身体が反射的に震えた。


 え?何?物取り?


 怖い物見たさか、ゆっくりと玄関のドアに近づくと、ギィっと音を鳴らして扉が開いた。


 扉からは水桶を担いだ、お母さんがヨロヨロと中に入って来た。


「お母さん!何してるの!」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あ、ちょっと待ってね、はぁはぁはぁはぁ」


 そのまま水桶を床に置いたお母さんは……床に倒れた!


「お母さん!!」


 近くに寄ると、顔から首から凄い汗を流しているお母さんがいた。

 体力が戻ってないのに、遠くの井戸まで水汲みに行くなんて脱水症状になるよ!


 私は慌てて通販で経口補水液と吸い飲みを買って、準備をしてからお母さんを仰向けにして、頭を私の足の上に乗せて、少しずつ、少しずつ、お母さんに飲ませていった。


 どれくらい経ったか、お母さんの吹き出していた汗は止まり、ほてっていた顔色が落ち着いて呼吸も正常になっていた。


 今じゃ、本能なのか、吸い飲みに吸いついてお母さんが美味しそうに経口補水液を飲んでいる。

 満足するまで飲ませておこう。


 お母さん、若いのに髪の毛が少ない。

 確か、栄養をしっかりと摂らないと髪と爪から栄養が届かなくなるんだったよね。

 病人は爪を切らない方がいいと教わっていたからお母さんの伸びっぱなしで歪んだ爪を放置していたけど、切ってあげようかな。

 爪切りは通販で買ってアイテムボックスの中に入っている。


「ぷはぁ!チヤちゃん、ありがとう。お母さん生き返ったわ。はぁー」


 なんか、和やかな顔をしているけれど騙されないぞ。


「お母さん。家の中の家事だけだって、約束した、よね?ね?私は、病み上がりのお母さんが、水汲み!なんて無理だと思うのですが、いかがでしょうか?」


「チ、チヤちゃん、怒ってる?」


「怒ってないわけないでしょうが!!」


「ひゃ〜〜〜」


 やっと、平和が戻って来たようです。


 

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