狐、は、異世界にいませんね?
「なんだか狐に騙されたようです……」
「なに?何に騙されたって?」
「いいえ、聞かなかったことにしてください」
さて、ここは昼下がりの『インベルト商会』です。
商談室のお向かいに座りますは私の取り引き相手のクルガー商会長です。
私のぼやきにも相手をしてくれる誠実な男性です。
そして、その男性。
私がインベルト商会に来たと言いに来た時に私の窓口係のケインさんがいなかったので、お店の方に裏口から顔を出してみました。
するとどうでしょうか!店頭はお客様でごった返しておりました!
「これはヤバいヤバい帰るか」と顔を引っ込めようとしたところで、合っちゃいました。
私のアイと、クルガー商会長の困りきったアイが。
その時のクルガー商会長は、対応していたお客様に何かを言った後に足早に私を捕まえて離してくれずに、商談室まで連行されました。
いや、痛くはありませんでしたよ?
クルガー商会長のもっとーは『誠実』ですからね?
それはもう『馬鹿』つくような真面目な男なのは1年以上の付き合いで、よーっく!わかっておりますとも。
しかし、商人らしく、柔軟な考え方もお持ちな『成功者』の男でもあります。
なんと、名前の通りに『インベルト商会』を1から立ち上げて大店にしたのだから商才があったのでしょう。
自慢をする人では無いので、何かの世間話程度に話してくれました。
「家族の為なら僕は頑張れる!」と申しておりました。
深く共感して、奥様の為に『オススメのお紅茶』を思わず渡してしまいました。
私も『お母さんらぶ!』ですからね。
わかります。
いえいえ、話が逸れました。
この誠実な男は、私を商談室にぺいっ!と入れた後に「今日の飲み物は?」と催促してきたので、私は好きですが、ビタミンC爆弾との異名がある『ローズヒップティー』の茶葉を渡してやりました!
酸っぱさに悶えるがいいわ!
と、商会長、自らが入れてくれたローズヒップティーは、大変美味しゅうございました。
クルガー商会長が普通に飲んでいたのが少しだけ、少しだけですよ?悔しかったですが。
奴は酸っぱいものもいけたようです。
そして、ローズヒップティーを飲んで和んだら、今朝のおじいちゃんの話が浮かんできたのです。
まあ、簡潔に言えば
「事件は解決した。チェンヤー侯爵とパーベル商会が捕まってな」
と。
「誰じゃそれ?」な気分の私におじいちゃんはとても満足そうで、私とお母さん以外は「わかっているよ」と言う雰囲気に困惑しました。
そして、朝食を食べたら、おじいちゃんとおばあちゃんと伯父さんが出かけてしまい、私とお母さんはお姉様からお話を伺いました。
「パーベル商会はわかるわね?え?わからない!?チヤちゃんの馬車を後ろからつけていた商会よ!?忘れたの?」
と、少し呆れたように言われました。
いえいえ、私でもさすがに……忘れておりました。
言い訳はしません。
あれです。
子供すぎたのです。
一晩寝て忘れました。
こんな私でも『前世は薬剤師』です。
めっちゃ!頭良いよ!
もう一度言う。
めっちゃ!頭良いから!
全てこの『幼児化』がいけないと睨んでおります。
所詮は『子供返り』ですね。
ママのお胸に抱かれると安心で忘れてしまうのですね。
まあ、ゴホンッ。
私が頭良い件は置いておきまして、直近の事件は「インベルト商会倉庫!襲撃事件!」です。
こっちの方がインパクトが大きくて忘れていました。
この件で今日のお昼過ぎにインベルト商会に行こうと思っていましたから。
そして、話はお姉様の語りに戻ります。
「思い出したわね?パーベル商会を運営しているのが、雇われ商会長なんだけど、パーベル商会の持ち主が『チェンヤー侯爵』なの。
だから、パーベル商会の起こした、チヤちゃんの馬車の尾行を指示したのは『チェンヤー侯爵』だと思われていたのよ。
そして、タイミング良く『インベルト商会倉庫襲撃事件』がおこり、衛兵が追いかけられるまで追いかけたところ『貴族街』に犯人の馬車が入っていったのを見届けて、体力の限界だったようで倒れたらしいわ。
『貴族街』に入ってしまうと、倉庫街の衛兵とは違う管轄になってしまうの。でもね『インベルト商会から盗み出した積荷』が『貴族街』に入ったと言う衛兵の目撃証言は信用できるわ。長年の経験者だったらしいからね。まあ、お年だったのよ。倉庫街から貴族街まで追いかけたのは執念だわね」
お姉様は、そこまで言ってから、食後のお茶を飲んで「あら、美味しい」と、上機嫌になった。
「まあ、だからね『パーベル商会』の尾行事件と『インベルト商会倉庫襲撃事件』の関連性は高かった訳。
そして『インベルト商会』はチヤちゃんの取り引き先だし、チヤちゃんは尾行で怖い思いをしたでしょう?
そこで、我が家の登場よ!
お父様が国王陛下に事件の終着をお願いしたわけ。
で、国王陛下のお抱えの騎士団達が今朝動き出して、『チェンヤー侯爵』と『パーベル商会』の捕縛を成功させたの!
だから、事件も解決!ってわけね!」
お姉様は私が出したお菓子を口にして、ご満悦そうだ。
とにかく、だ。
我が家のおじいちゃんが、国王陛下にお願いを直接出来たのは『木族』繋がりだよね?
それ以外で、ただの伯爵が王家にお願いなんて出来るはずがない。
私は真剣にお姉様に聞いた。
「オババ様が動かれるのですか?」
お姉様は、あっけらかんと答えた。
「知らないわ。代々オババ様と関わるのはスイード伯爵だけと、本当は決まっているのよ?何か非常事態が起きた時だけ「私達血族が代行する」の。今はお父様が動いているから大丈夫じゃない?」
ふーむ。
いまいち、まだ、私は『木族』の立ち位置が理解出来ていないな。