服のお直しって大変だね。
お昼過ぎになってもファッションショーをしている私達の部屋に、おじいちゃんが入ってきた。
お出かけから帰ってきたようだ。
普通は男子禁制だが、おじいちゃんなのでやましいことはないと受け入れた。
何だか疲れた顔をしていたおじいちゃんだが、新しい服を着た私とお母さんを見たら瞬時に復活した!
あれ?疲れて見えたのは間違いだったのかな?
「おおっ!我が家の娘達は綺麗じゃのお!ソフィア、お父様によく見せてくれ!」
「はい、お父様」
そうだよね。
まずは愛しの愛娘だよね。
なんだか、凄い誉め殺しをされているお母さんを「お母様」と呼びたくなってきた。
もうね、貧民街にいた「お母さん」では無く、貴族令嬢の「お母様」ですよ。
でもね、ふざけて「お母様!」と呼んだら、お母さんが悲しそうな顔をしたから、今でも「お母さん」と呼んでいる。
そうだよね、私が生まれてからずっと「お母さん」だったんだから、今更変えるのもおかしいよね。
それに私は貴族令嬢のお母さんの子供だけど、所詮は庶民なので、あまり贅沢には慣れてはいけないのだけどーー祖父祖母がすんごい!甘やかしてくるから勘違いしそうになる。
おじいちゃん、おばあちゃん、私に庶民としての自覚を促してもいいんだよ?
と、お母さんを褒め終わったおじいちゃんが、私の方にも誉め殺しをした後に、おばあちゃんの隣に座って、私の出したオススメ紅茶を飲んで、まったりとリラックスしているように見える。
働き盛りの年齢のおじいちゃんだけど、もう少しゆっくりしても良いと思うんだ。
平均寿命の短い、この世界では。
洋服のお直し箇所を店員さんが見てくれていると、何やらおじいちゃんの声が聞こえてきた後に、私をチラチラと見ている。
うん?私、何かおかしいだろうか?
「お姉ちゃん達、私、何かおかしい?」
ちょっと年嵩の店員さんの女の人も「お姉ちゃん」と呼ぶと対応が良い。
「いいえ、綺麗なお洋服を着られていて、とてもお綺麗ですよ」
幼児に、いや、少女に接するにはいささか丁寧に答えられた。
いやー、今もおじいちゃんが私をチラチラと見てくるから、めっちゃ気になるんですわ。
そして、1時間ほど経って、後は別室でお針子さんが手直しをしたら、また試着して問題なければ服の引き渡しとなるそうだ。
お会計もその時にね。
あ、そうそう。
貴族の社交なのに伯父さんの奥さんが登場していないと思ってくれたあなた!
そう!伯父さんの奥さんは領地に残っていて、王都には来ていないんです!
何やら身体に障害のある息子さんがいるとかで、心配だから奥さんが側についているんだって。
あれだね、異世界あるあるではなくて、何故か金のある家に障害児が生まれてくる不思議だね。
子供が無意識に自分を生かしてくれそうな場所に生まれてくるんだね。
でも、不思議。
オババ様達『木族』に頼めば、病気や身体の不調が治りそうなのに治っていないみたい。
オババ様達に頼めない何かがあるのかな?
『強いスキル持ち』って聞いたと思うのに。
治癒魔法のスペシャリストがいそうだよね?
と、お着替えで疲れた私とお母さんは、おじいちゃんとおばあちゃんが座っているソファに座って、すかさず私達の紅茶を入れてくれたメイドさんにお礼を言って、少し冷ましてから紅茶をいただく。
あーっ!温かい紅茶が体に染み入るー!
「あ、あのな、チヤちゃん。おじいちゃん、お願いがあるんだけど、いいかなー?なんて」
ん?おじいちゃんが私にお願いなんて珍しい。
「いいよ。私に出来ることなら」
安請け合いと言うなかれ。
春からの付き合いで、おじいちゃんのことは信用しています。
どれだけ可愛がられたか。
「ほ、本当かい!?チヤちゃん、いいのかい!?」
おお、念押ししてくるとは、余程のお願いだな?
「私に出来ないことは出来ないからね」
「あのなぁ、さっき、おばあちゃんと話してたんだけどね、王妃様が使う用に『高級トリートメント』をくれないかなぁ?あ、お金は払うよ!」
おや?おばあちゃんがまた、王妃様に無理を言われたのかな?
ちょっと、王妃様が嫌いになりそう。
「おばあちゃんが、また、無理を言われたの?」
少し怒った風に言ってしまった私に、おばあちゃんとおじいちゃんが顔を見合わせる。
そして、優しく微笑んだ。
「いいや。今回は国王陛下からのお願いだ。インベルト商会が迷惑を被ったり、チヤも馬車をつけられて怖い思いをしただろう?だから、王様に「解決してください」とお願いしたんだ。
そうしたら「王妃様が喜ぶものが欲しい」と言われてね、事件を解決する対価のようなものだよ」
それならそうと、素直に言ってほしかった。
勘違いして王妃様を悪者にしちゃったじゃんか。
王族の、王様と王妃様の仲が良いのは嬉しいよね。
「わかったよ。すぐに用意するから待っててね」
私には『通販』があるので、王妃様に相応しい梱包をして、すぐにおじいちゃんに渡そう!
事件解決は早い方が良いからね。
私はグイッと紅茶を飲み干して、短い足でお母さんの部屋まで行った。
ひっそりと、侍女のセーラと護衛のエルシーナがついてきたが、その存在に慣れてしまって私の意識には引っかからない。
そして、通販で屋敷で使っている『高級トリートメント』を化粧箱に入れて「これでいいかな?」と、納得しておじいちゃんに持って行ったら、ソファがらビヨーンと立ち上がって、私のほっぺにキスの嵐が降りかかった。
いくら、おじいちゃんでも、中年男のキスはいりません!