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とにかく冷静になれ(敵に向けて)

 インベルト商会も忙しいので、チヤ達は早めに店を出て屋敷に帰る為に馬車に乗った。


 そういえば、在庫の商品を盗まれたのだったか?補填の話しが出なかったことを疑問に感じたが、後から連絡があるだろうと、そのまま帰ることにした。


 またしても、馬車が後をつけられているのを、シャルフに悟らせないほどの凄腕がいたのを知らずに。


 ◇◇◇


 そして、チヤの乗った馬車がスイード伯爵家の屋敷に入ったのを確認した人影は、素早く物陰で着替えて、貴族家に仕えている使用人服を着て歩き出した。


 王城のすぐ近くまで来た貴族の使用人は門番に普通に挨拶をして裏口から屋敷に入り、使用人の部屋で今度は執事服に着替えて旦那様の元へ向かった。


 トントントン


「旦那様、ジーロです。報告に伺いました」


 中に居た同じ執事服の使用人が扉を開けてくれたのでジーロは中に入り、旦那様に静かに近寄って、その耳元で静かに報告した。


 すると、旦那様は嬉しそうに声を出して笑った。


 元々感情の起伏は激しいのだが、貴族としての長年の社交で自らを曝け出せる場所でしか感情を顕にしなかった旦那様が笑い出したのを執事服を着ている者達は静かに様子を伺った。


「やっとだ。やっとだぞ。とうとう、スイードの奴が尻尾を出した! 『エルフ』だ!『エルフ』がいるぞ!

 初めから怪しかったのだ。いきなり輸入石鹸を軽く超える、高級石鹸が出てくるなど!噂は本当だったのだ!

 インベルト商会員を誘拐するか?いや、王都の中で犯罪は重罪だ。もうすぐ社交が終わるから、スイード家の領地でインベルト商会が仕入れをする時がチャンスだな。

 インベルト商会員を盾にして、エルフを引っ張り出すのがいいな。


 次の命令だ。スイード伯爵家が領地に帰るのを監視しろ。スイード伯爵家の者が王都で出かけても監視だ。一度も目を離すなよ」


 部屋の中にいる者に、かろうじて聞こえた声に執事が諾と返事をして部屋を出て行った。


 残された執事は、旦那様の仕事を片付けていた。


 そして、手を動かしながらも「この家は破滅だな」と、見切りをつけた。

 長らく『チェンヤー侯爵家』の派閥についていた『我が家』だが、これを機に『スイード伯爵家』の派閥の『王族派』に移動するように実家の兄に進言しようと決意した。


 昔から密かに貴族家で言い伝えられてきたモノがある。


 表の舞台に出てこない、この国の貴族にだけ親から伝えられる物語だ。

 学生の頃は、密かに信用できる友人を作り、秘密を共有しては興奮したものだった。

 未成年の頃の秘密は蜜の味がする。


 1つは『エルフを手に入れる者は全てを手に入れる』と言った話だ。

 これは、史実を元にしており『エルフ』を奴隷として使っていた国が栄華を極めたと言う話だが、その国は突如として滅びた。

 当時、どこの国よりも栄えていたのにもかかわらずに。


 遠い、遠い昔の古代の話だ。


 2つ目はこれに関連する『エルフに手を出すな。破滅するぞ。助けてもらいたくば対価を捧げよ』と言うものだ。

 どこに対価を捧げるのか?

 昔から密かに言われている貴族家があるが『エルフ』との関係を暴こうと動いた貴族には、何かしらの制裁が王族から行われている。


 その貴族こそが『スイード伯爵家』だ。


 『エルフ』との関係を暴こうとする者。

 今しがた馬鹿だと判明した『チェンヤー侯爵』だ。


 これが、心ある貴族や『スイード伯爵』や『王族』に知れれば、何かしら制裁が行われると確信して動くことを執事は決める。

 そして、この屋敷の心ある者に密かに伝えて『チェンヤー侯爵』から離れるように伝える。


 『チェンヤー侯爵』は悪事を働きすぎたのだ。


 1番良いのは『スイード伯爵』にチェンヤー侯爵の現状を伝えることだが、今しがた出された『監視』の命令にソレは悪手だと分かる。


 (学生時代の仲間に連絡をとって、遠回しになるが『スイード伯爵』の者に繋げてもらおう)


 実家の紹介だからと今まで我慢して『チェンヤー侯爵家』に仕えてきたが、兄の世代になり時代は変わった。

 自分の体は離れても、心は実家と共にある。

 兄に昔の熱い心が残っていれば協力してくれるし、巻き込まれたくなければ黙認してくれるだろう。

 最悪だが、自分を匿う事はしてくれる筈である。

 普通の貴族家にしては仲が良い兄弟だったのだ。

 親が私の就職先を見つけた時だって「近くで支えてほしかった!」と親に噛みついた兄だ。

 私の進言は真面目に聞いてくれるはず。


 2つの思惑が静かに動き出した。


 ◇◇◇


 その夜。


 スイード伯爵家の影はいち早く屋敷の外の異変に気がついた。

 外で活動して屋敷に帰って来た者。

 屋敷の中での仕事を終えて、使用人棟に帰ろうとしていた者。

 自然と『密談の部屋』へと影が集結して、各々の考えをすり合わせて結果へと導いていく。


 そうして『影』の代表者が、今まさに就寝しようとした大旦那様に報告をした。


 「屋敷を監視している者が複数人いる。インベルト商会との関係は不明」と。


「それはいかん。夜襲の可能性がある。今、動かせる『影』を動かして、騎士と連携して監視者を全員捕縛せよ。衛兵には悟られるな。いいな?」


「捕まえた後は屋敷の地下で尋問でいいですか?」


「……そうだな。地下の隠し部屋を使いなさい。あそこなら地下に衛兵の捜査があっても気づかれまい」


 『影』の代表者は『密談部屋』で待つ同士に大旦那様からの命令を伝えて、騎士達を密かに動員して、少しずつ闇に紛れて監視者達を見つけては捕縛し、他家や衛兵に見つからないように密かに任務を終えた。


 

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