問題解決?いや、警戒! 1
朝、目が覚めたら、一瞬、チヤは自分がどこにいるのか分からなかった。
隣を顔だけで見ると、健やかに眠るお母さんがいた。
チヤは外から射し込む太陽の明かりをみて、昨日あれからどうなったのか?と記憶を探るも、怖い思いをしたという記憶しか浮かんでこなかった。
チヤは真実を知ろうとベッドに起き上がり、部屋の中を見回すも、お母さんの部屋で、やっと屋敷に無事に帰ってこられたのだとホッとした。
自分の身の安全が確保出来たら、次は同行者の安否が気になり出した。
侍女のセーラは無事だろうか?
護衛のシャルフとエルシーナは戦って怪我などをしていないだろうか?
何故、自分は危ない時に寝こけてしまったのだろうか?
疑問だらけで、いつ寝巻きに着替えたのかもわからずに部屋の外に出ると、扉のすぐ隣に大きな人影があって叫びそうになってしまった。
「っ!」
よく見ると、それは、夜番の騎士様だった。
騎士はチヤを見ており、ニコリと微笑んだ。
「チヤ様、お早いお目覚めですね。おはようございます。侍女かメイドを呼びますか?」
「だっ、だっ、だい、じょうぶ、です。……あの、昨日はどうなったか、わかりますか?」
心臓が飛び出しそうなほどドクドクと早く高鳴っているが、昨日のことが気になり騎士様に聞いていた。
「わかりますよ。チヤ様方が帰ってきた後に、不審者を捕まえる為に応援に行っていた騎士達が帰って来ました。
どうやら、チヤ様の馬車を追っていたのは『パーベル商会員』だったようです」
騎士様は昨日の事件などなんて事ないふうに、さらりと言ってくれた。
そして、チヤ達が屋敷に帰って来た後に応援の騎士達も帰って来たが、帰って来たのは深夜である。
騎士はチヤが気に病まないように、あえてチヤが勘違いするように言った。
まあ、間違ってはいない。
「ぱーべる商会って、私に関係ありますか?何が目的だったのですか?」
チヤは昨日の恐怖を思い出して騎士様に聞いた。
事件の詳細を知らなければ、この恐怖は無くならない気がした。
騎士様は優しい声音で答えてくれた。
「パーベル商会の狙いはインベルト商会の『石鹸の仕入れ先』だったようです。インベルト商会にも注意を促してますし、追跡者達も捕縛しているので、大丈夫じゃないでしょうか?」
ひとまずは、ホッとした。
石鹸の仕入れ先を知りたいのならばチヤを狙ってくるはずなので、倉庫に残して来たインベルト商会員は無事だということだ。
チヤは安心して騎士様にお礼を言うと部屋の中に戻って、母の寝ているベッドの隣に潜り込んだ。
お母さんの匂い、良い香りがする。
昨日、お風呂に入ったのだろう。
私はもう一度寝ようとしたが寝付けずに、うとうとと、夢と現実の間を行き交っていた。
お母さんの目が覚めると同時くらいに部屋にメイドさんが来て、私とお母さんの身なりを整えてくれた。
おばあちゃんが私の為に作ってくれているフルオーダーメイドの貴族服はまだ出来上がっていないし、今日は孤児院学校に行くので簡素な無地のワンピースだ。
お母さんは基本的にあまり出掛けないし、お店に置いてあった既製品の服で今は間に合わせている。
が、見ただけで『貴族の服』だ。
これが部屋着とは恐れ入る。
お母さんはなんやかんやと言いながらも貴族の生活に馴染んでいる。
貧民街にいたお母さんも嘘ではないが、お父さんと過ごしていた期間も不満どころか『蜜月』と言って照れるので、環境適応能力がずば抜けて高い事が知れる。
前世のお母さんは、昔、占い師に「富豪の妻でも生きれるし、貧乏の妻にもなれる」と言われたことがあったようだ。
これも「環境適応能力の高さ」ゆえだと思われる。
まあ、占いなので、今となっては真偽はわからないが。
私も占いに若かりし頃、興味があったので四柱推命だったかな?それで未来を占ってもらうと「あなたに子供はできないでしょう」と言われて憤慨して家に帰ったのを思い出すが、結局は死ぬまで自分の子供は出来なかった。
占いって怖いね。
でも、ショッピングモールで臨時の占いをしていた人は、当時の彼氏と一緒に占ってもらうと「今のままの関係を続ければ結婚まではすぐでしょう」と言われて喜んだけど、彼氏のシスコンのせいで別れてしまった。
小姑、怖し。
まあ、信じるも信じないもあなた次第って奴だ。
髪の毛も艶が出るほど櫛でとかしてもらい、お母さんと一緒に顔を洗い、口の中も綺麗にしてから食堂へと向かった。
貴族生活はゆっくり起きて、早く寝るのが基本だ。
使用人さん達も生活があるから、仕える貴族が遅寝早起きだと、寝不足で日常の生活も崩れてしまい元気に働けない。
何か事情があって遅寝早起きをする場合には、最側近だけ近くに勤めて、他の使用人は「下がってよい」とか言われると業務終了になるようだ。
使用人の日常は忙しいが、屋敷の隣に使用人棟があって、そこで暮らしているようだから通勤は近いし、何よりもお給料がいいらしい。
地球の中世では、使用人のお給料は少ないのにきつい仕事だったようだが、こちらの世界は「使用人に優しいね」とおじいちゃんに言うと、何故か少し困った顔で頭を撫でられた。
もしかして、お給料が少ない貴族家もあるのかな?