第6話:心機一転
──夜。
あずは帰宅し、会社の制服を脱ぎながら、ぴよへ話しかけていた。
「ねぇ、ぴよ。今日ね、今戸先輩に昼休みにばったり会って…いろいろ話せたんだ」
ぴよはいつものように窓際に座っていて、あずの声にちらりと目を向ける。
「厳しいの、私のためを思ってくれてたんだって。お昼私がデスクにいなくて嫌われちゃったかなって思ったって。…ずっと私のこと心配してくれてたんだ今戸先輩…」
「私、ちゃんと向き合いたいって思った。
しーちゃんとも仲良くなれたし…なんかもう少し、この会社で頑張れそう」
言葉にするうちに、あずの顔が少しずつ明るくなっていく。
ぴよはふにゃっとまぶたを細め、静かに喉を鳴らした。
「ふふ、なんか聞いてもらえると安心する。ぴよ、ありがとうね」
──翌朝。
ぴーちゃんのモニターは、相変わらず沈黙したまま。
モニターの表示はされるけど、顔文字は出ないし、音声は聞こえない。
「また試してみようか…」
あずは設定を直してみたり、再起動をかけてみたり、モニターの内部を確認したが、異常は見つからず。
「うーん……まぁ、とりあえず最低限は動いてるし、使えるからいいかな」
そう言って、あずはお風呂のドアに向き直る。
「ぴーちゃん、お風呂沸かして〜!」
「にゃー」
「ぴよじゃないよ?」
返事をするように鳴いたぴよにあずは笑う。
そう言いながらも、お風呂からはお湯張りの音。
あずは振り返ってぴよを見る。
「……ほんと、ぴよが操作してるみたい」
ぴよは、どこか得意げな顔でしっぽをゆっくり振った。
──週末。
「ぴよ、お留守番お願いね」
化粧を済ませ、バッグを肩にかけるあず。
ぴよは静かに彼女を見上げたあと、いつものように窓辺に移動して、外へ向かう背中を見送る。
その瞳が、一瞬だけ、青と黄色のネオン色にふわっと輝いた。
──そして再び平日。昼休みの時間。
「よし、誘ってみよう!」
「うん、行こう!」
勇気を出したあずと松子は、会社のデスクを離れて今戸先輩のもとへ。
「あのっ、今戸先輩!あの…よかったら今日、一緒にお昼いきませんか?」
「よければ……3人で、外のカフェとか……」
一瞬驚いた顔をした今戸だったが、すぐに口元がほころぶ。
「……いいわね。気分転換にもなりそうだし、行きましょっか」
──外のテラスカフェ。
陽の光が差し込む中、3人はランチを囲む。
猫の話題で自然と盛り上がり、今戸先輩がふと懐かしそうに語り出す。
「私ね、猫にまつわる神社とか好きでさ。阿武雨神社って知ってる?」
「あ!私、ぴよが具合悪かったとき、お参りに行ったんです」
あずが話し始める。
ぴよが肺炎になって亡くなったはずなのに、その日の夜に奇跡のように目を覚ましたこと。
それと同時に、AIのぴーちゃんが不調になったこと。
「最近はもう、ぴーちゃんの声は聞こえないんだけど、ぴよが『にゃー!』って鳴いたら勝手に動いたりしてて…」
松子が笑いながら口を挟む。
「もしかして…ほんとに、ぴよちゃんが動かしてるのかも?ぴよちゃん元気そうだったけど、そんなことがあったんだ…」
今戸先輩も冗談っぽく笑いながら、
「もしかしてそのぴよちゃん、ほんとにAIと繋がってたりして?」
「え〜〜まさか〜!」
「でも、偶然にしては、ちょっと不思議なこと多いよね」
と3人で笑い合う。
「私、ペットって飼い主が心配で、天にいかずにそばに残ることあるって聞いたことある。
ぴよちゃんも、そんなことがあったなら、あずちゃんが心配で帰ってきたのかもね」
と松子が話すと、
今戸先輩もふっと目を細める。
「そうね……守ってくれてるのかもね」
──風がふわりと吹いたテラス席。
そのテーブルの足元。
通りすがりの茶色い猫が、静かに3人の笑い声を聞きながら、尾だけふわんと揺らして去っていった。




