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観測されざる世界

人類が星々の海を渡るようになってから、二世紀が経つ。


月面は既に過去の遺産。火星には地球の喧騒がそのまま移植され、土星の衛星群には数百の都市国家が軌道上に浮かんでいた。


綾瀬蒼あやせ・あおいは、重力波観測施設カリオペの研究員として、ある極秘実験に関与していた。


目的は、未知の重力波「Λ(ラムダ)バースト」の人工生成と干渉制御。


しかし実験中、装置が突如、規定外の共鳴を起こした。空間がねじれ、警報が鳴り響き、そして——世界が裏返った。



彼が目を覚ましたのは、紫紺の空に三つの太陽が浮かぶ、見知らぬ惑星の荒野だった。


地面は黒曜石のように硬質で、空中には無数の浮遊都市が旋回していた。重力は地球よりわずかに軽く、空気の振動も微妙に異なる。


「……ここは、どこだ?」


問いに返る声はない。だが、突如として前方に「異形」が姿を現した。


人の形はしていたが、瞳は光を吸い込み、肌は不気味なまでに滑らかだった。そして……足音が、しない。


「……お前、人間じゃないな?」


異形は返答代わりに不気味な笑みを浮かべ、蒼に向かって手を伸ばす。


空間が軋む。


(まさか……重力を、操ってる?)


直感が告げる。この存在は、重力場そのものを歪めている。


逃げなければ——だが身体が動かない。恐怖と混乱の中、脳裏に実験装置の共鳴、Λバーストの発生、あの空間の“重さ”がフラッシュバックする。


その瞬間だった。


視界が、重力のうねりに引き裂かれる。


蒼の周囲の空間が激しく歪み、無意識のうちに「何か」を発動していた。異形の動きが止まり、地面にめり込む。


……だが、それでも倒れない。


再び動き出そうとする異形の目前に、赤い光が閃いた。


爆音。爆風。異形は吹き飛ばされ、代わりに現れたのは、漆黒の髪を靡かせた少女だった。


「大丈夫?……あなた、新入りね?」


突然の出来事に、蒼は言葉を失う。


少女は彼の目をまっすぐ見つめたまま、ふと口元をゆるめた。


「というかあなた……ちょっと変わった空気をまとってる。 “フェーズ”に入ったばかり、って感じ」


「フェーズ……?」


耳慣れない言葉に蒼が戸惑う間もなく、少女は表情を引き締めた。


「詳しい話はあと。ここは彼らの縄張り。長居すると死ぬわよ」


そう言うと、少女は岩盤に手をかざした。光が走り、地面から昇降機のような光の足場が現れる。


蒼は迷いながらも、その足場に乗った。


次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、重力そのものがねじれるような感覚に包まれ——気がつけば、奇妙な建造物の入り口に立っていた。


構造は明らかに地球のものではない。折り重なる空間の中に“建物”が存在し、重力の向きすら場所によって異なる。


だが、そこには確かに文明の痕跡があった。


そして、彼は知らぬ間に、 “法則”の戦場へと足を踏み入れていた——。



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