魔王妃の蹂躙 1
私は原初の吸血鬼の一角、サラティア。
魔王軍の幹部の1人である。
私は魔族だが、人間は嫌いではない。
だからこそ人族の生活圏に住んでいるわけだが。
永遠に近い寿命があるからこそ、長すぎる生も飽きて来る。
人間として暮らすのはおもしろい。
100年という短い生の中でめいっぱい生きて、そして死ぬ。
流石に迫害されている魔族だと気付かれるとめんどいから数年おきに住処を移動しているけど、それでも退屈しのぎにはちょうどいい。
そんな生活をして200年ほど経った時だった。
「この街に吸血鬼が住んでいるって噂知ってるか?」
「吸血鬼…?」
「ああ、このあたりに住んでいるらしい。夜外出するときは気をつけろよ」
「ええ、ありがとう」
果たして私以外の吸血鬼がいるのか、私のことを言っているのか、真相はわからないが巻き込まれる前にでていったほうがいいだろう。
そう思い、家に帰り引っ越し準備をする。
借りていた期間分の家賃を置いて夜には出て行くつもりだ。
そう思いながらまた、外に出る。
「え…?」
先程私に噂のことを教えてくれた男性達がいた。
「先程ぶりだな、サラ…いや、原初の吸血鬼、サラティアよ」
(なんでバレて…)
この街で吸血鬼としての能力は使ったことがないし、魔法で幻影をかけて吸血鬼特有の銀髪も紅い目も、牙と隠しているはずだ。なぜバレたのか不思議でしょうがなかった。
「痛い目にあいたくなければおとなしくついてこい」
「なぜあなたに従わなければいけないのよ」
「ならこいつがどうなってもいいんだな」
彼はそう言うと水晶玉を見せてきた。そこにはボロボロになっているが見覚えのある姿が映っていた。
ここ数年姿を見ていなかった自身の眷属で側近であるトアだった。
「トア!」
「そういえばこいつそんな名前だったか」
「トアに何をした」
怒りのせいか思ったより低い声になって殺気も漏れたがほとんど意味をなさなかった。
「さあな、それでついてくる気になったか?」
「…ッ、わかったわ。そのかわりこれ以上トアに手を出さないで」
「わかった」
すると謎の器具を出してきた。
「左手を出せ」
何をされるかわからないが側近であると同時に守るべき友人を人質に取られている以上下手に動くべきでは無い。
おとなしく従ったら腕をつかまれて何かで腕を拘束された。
「うぐッ……」
私が唯一克服していない弱点【聖銀】。
聖水に数カ月から数年漬けることで変化する銀だ。
上位の吸血鬼は聖銀で死ぬことは無いが、原初の吸血鬼でも最悪意識を失う程強力な毒になる。
おそらくトアもこれを使われたのだろう。
トアは私の眷属の中では一番強いが、私程弱点を克服していない。
そこを狙われたのだろう。
しかも今回はかなり長い間聖水に漬かっていた聖銀のようでだんだんと意識が遠のいていった…。
****
「ん…」
目が覚めると薄暗い部屋にいた。
どうやら魔力封じの枷をつけられているようでうまく力が入らない。
それでも身体を動かそうとすると銀の枷で身体中が壁に拘束されていた。
「めんどくさ…」
自身の特殊スキルの一つである【解錠】を使えば難なく外すことができる。
【解錠】は鍵がかかっているものなら全て外すことが出来るスキルだ。
特殊スキルは原初の吸血鬼だけが所持していて眷属などの吸血鬼は持たない。
外そうと思えば一瞬で外す事が出来るからしばらくは様子見で何もしないことにした。
「目覚めたか…」
「何がしたいのよ」
「こういうことさ」
そう言うとトアが連れてこられた。
「トア…!」
先程水晶玉越しに見た姿から少し傷が回復した姿のトアがいた。
「あ、主様…」
『止まれ』
「ッ…」
(この感じ…隷属…?)
よくトアを観察すると右手首の肌が少し爛れていて銀の腕輪がはめられていた。
おそらく簡単に解呪出来ないように銀を使ったのだろう。
「私のものに手を出すのね…」
「はっ?」
『解錠』
そう言うと壁に拘束していた器具が一斉にゴトンと音を立てて外れ落ちた。
そうしてトアのもとへ向かう。
『解呪』
私の特殊スキルは【あらゆるものを解くことが出来る】。
私に解けないものは存在しない。
例外はやったことはないが魔王様が直々にかけられたものぐらいだろう。
「私の眷属に私以外の主は必要ない。そうよね?トア」
「もちろんでございます。わが主よ」
「あなたの手で不届き者を殺しなさい」
「御意」
「うぐっ…こうなったら…」
「何を企んでいるのか知らんが主の願いだ。死ね」
トアはそう言って頭部を踏みつける。
「し、死ぬのは…おまえだ…」
「何をごちゃごちゃと……かハッ…」
「ト、トアッ…!」
急にトアは倒れて身体が痙攣しだした。
「何をした」
「はっ、ははっ…簡単なことさ隷属魔法は身体にも直接刻んでいるからな…。主に手を出そうとしたんだ。死ぬに決まってるだろう…。今頃こいつは体内が聖銀のナイフで切り刻まれているさ…」
「そうか…」
(私が…もっとはやく気づいていれば…トアは…)
『解呪』
「はっ…無駄さ、今更解呪したところで…うぐっ…」
私は手加減なくそれを蹴り飛ばし、トアに駆け寄った。
吸血鬼にとっての一番の薬は同族の血だ。
私は迷わず自分の指先をを噛み切り血をトアに飲ませた。
『血よ…我が声に応えよ…修復』
外の傷も完治したからおそらく大丈夫だろう。少しするとトアは目を覚ました。
「あ、主様…」
「もうよい、今は休め」
トアは安心したのか気絶した。あとはこいつの処理だけだった。
「さぁてどうしよっかなぁー」
「ひいっ…お、お許しを…」
「何バカなこと言ってるのよ。寝言なら寝て言え」
(もう、我慢しなくていいよね?)
そう思い、魔力封じを外した。
その瞬間私の魔力が暴走しだした。
私の魔力に反応して周囲のものが浮き上がり、建物が壊れていく。
(仲間は傷つけないようにしないと…)
そう思いトアに結界を張る。
(これで…いい…。あとはこのまま…)
この日、とある人間の国から街が1つ消滅した。
****
「あ……さ………て……さ…」
「あっ!」
微かに聞こえた声で私は飛び起きた。
「主様っ!」
「トアっ!よかった…」
「主様…ありがとうございます…!」
どうやら魔力暴走によって気を失っていたようだった。
それに加えて魔力暴走のおかげか魔力量が数倍に増えていた。
「決めたわ、魔王軍に戻るわ」
「あ、主様…?」
「人間のことは確かに好きだった。けどね、私の眷属に手を出すなら…殲滅してあげるわ」
人間なんかもう信用できない。
「トア、私の眷属を集めなさい。魔王軍に戻るわ」
「はっ!」
****
「ふぅ…」
魔王城に戻るには忘却の遺跡に行く必要がある。
内部に魔界に繋がるゲートがあるのだ。
人間が入ると記憶を全て失うことから名付けられた。
今はもう幻影魔法を使っていないから吸血鬼特有の外見になっているはずだ。
基本的に人が誤って入らないようにと数人の門番がいるが、数日に一度魔界の門として動く日がある。
その日は人間のフリをした魔族が門番をしているから本来の姿でも問題無く入ることが出来るのだ。
少し飛んでいると遺跡が見えてきた。
着地すると見慣れた姿がいた。
「あら、久しぶりね。ヒルド」
「サラティア様ですか…!?」
「正解、それで魔界に帰りたいのだけどいいかしら?」
「もちろんでございます!どうぞお通りください」
「ありがとう、それじゃあ行ってくるわ」
そう言い、遺跡内部に入っていく。
内部は迷路のように入り組んでいてギミックを知らないと出ることはできない。
基本的に門を目指すときは門から漏れ出る魔力を感じればいい。
魔力感知をし、門に向かう。
魔力を辿っていくと禍々しい感じの扉にたどり着いた。
門に魔力を流し、門を開けていく。
「久しぶりの魔界ね…」
数えていないがおそらく数百年は帰ってない。
赤い月に枯れた草木、腐った沼。
主に知能の低い魔族や、魔物が住む地域だった。
そんな場所を飛びながら移動する。
目指すは魔王城だ。
基本的に魔界は魔王城に近づくほど強い魔族が住んでいる。
魔界の門がこの地域にあるのも魔王城から遠いからだろう。
空を飛びながら今後のことを考える。
(おそらく魔王様のことだから謁見前にこっちに来るだろうから…先に着替えるか)
そう思い、魔法で着替える。
黒と赤を基調としたドレスに自身の血で作った魔石をはめたチョーカーが私の正装だ。
あとは色んな機能付きの腕輪。
吸血鬼としては基本的に使うことはないが人間として暮らしていたときは重宝していた。
なんやかんやで魔王城が見えてきたとき、こちらに向かって急速に誰かが飛んできた。
自身の双子の妹で同じ原初の吸血鬼のミスティアだった。
「お姉様ー!お帰りなのです!」
「ええ、ただいま」
「しばらくは魔界にいますよね?」
「多分人間界には戻らないと思うわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、そのあたりはみんながそろってから話すわ、何回も話すの面倒だし」
「わかりましたのです。それで、魔王様に謁見するのですか?」
「どうだろう…魔王様の性格的に謁見前にこっちに来そうだけど…」
「たしかにあり得そうです…」
「まあ、とりあえず魔王城に向かうわ」
「了解です。じゃあ、伝えときますー」
「お願いね」
ミスティアが飛んでいったのを確認して私は地上に降りる。
「トア、来なさい」
「ここに」
「一旦人間界に戻って私がいた国を調べなさい」
「仰せのままに」
****
「魔王様はどう来るかしら…」
そう考えながら魔王城の廊下を歩く。
「サラティアよ、久しいな」
「…へ?……って魔王様!?」
私が今いる場所は城内に入って割とすぐの広間につながる階段の前だ。
魔王様が来るとは思わなかったから思わず変な声が出てしまったが、私はほぼ反射で跪く。
「魔王様、魔王軍幹部が一人、原初の吸血鬼サラティア。ただいま帰還致しました。」
「うむ、面をあげよ」
「それで、このような場所に来て、何か御用でしょうか?」
「とりあえずいろいろ話すことはあるが…こちらに来い」
「御意」
そう言われて近づくと肩に手を置かれ、そのまま転移した。
転移先は謁見の間だった。
しかも、転移先に私以外の魔王軍幹部が全員いた。
驚く間もなくなぜか魔王様が跪く。
「ま、魔王様…?」
「サラティア、俺と結婚してくれ」
「…え?」
続きを書くかは謎(多分書く)