都市伝説現る
「本日は朝早い中お集まりいただきありがとうございます、本日の主役の白石海斗くんです、拍手を」
待つこと1時間、ようやく本日の主役のお披露目がされるや否や、静かな歓声が起こった。
白石海斗。
大きな碧色の目の前を青色の長い前髪がサラサラと動いている。
私より頭一個分はゆうに超えている上に、お顔が小さい小さい。
今や飛ぶ鳥を落とすほど大人気のアイドルユニット、S.S.dの圧倒的センターを務める私と同い年。
数年前に早川俊と同時期にデビューをして、一時は雑誌の企画などで理想の彼氏1位の座を早川俊か白石海斗で争ってた事もあったぐらいだ。
そう、彼は当時早川俊のライバル的存在だったのだ。
早川俊も芸能活動続けていれば、S.S.dのセンターを務めていたのは彼だったのかもしれない。
彼を生で見るのは初めてではない。
何度か現場で彼を見ているが…、その美しい見た目と反比例して性格に難ありなのだ。
難ありと言うとちょっと大袈裟になってしまうが。
と言うか今日の主役はあの若い2人の子かと思っていたため、周りの歓声も更に大きくなった。
早川俊ぐらいになると撮影始まるまでは別のところで待機してるのかもしれない。
「こんな早い時間にこれだけの人がボクのCM撮影のために集まってくれるなんて嬉しくて本当言葉が出ないよ」
エキストラ達の前で営業スマイル全開の白石海斗。
目にはうっすらと涙さえ浮かべてる。
いやいや、こんな芝居じみた言動に騙される人間なんている訳ないだろう、と普通は思うとこだが、ここにいる9割は心の底からこれが本心だと思ってしまっている。
本当、人間って推しに甘すぎる…。
あ…、やば…。
思い切り白石海斗と目が合ってしまった。
慌てて逸らすものの遅すぎた。
「お前来てたのか?」
ああ…最悪…。
白石海斗の一言でそこにいる全ての人間の視線を感じた。
「ひっさしぶりだな、もう何年振りの単位か?」
当の本人はいつでもどこでも人の視線を浴びてるくせに空気が変わった事には全く気付いていない。
それほど彼にとって人の視線は悪意のあるものだろうが何でもいいのだろう。
ようは人に注目されていると言う事が彼にとっては重要なのだろう。
私に近付き、目線の高さを合わせてきた。
大きな碧い目を数回瞬きさせて私を見つめる瞳。
ぐ…、本当、顔だけはいい。
正直、早川俊と白石海斗、どっちがイケメン?と聞かれたら即答できる自信が無い。
……て、そんな事考えてる場合じゃない、今のこの状況打破しないと、嫉妬と羨望の視線の中、心が押し潰されてしまう。何か何か言わないと、白石海斗が私から離れる何かを言わないと。
「白石くん♡、監督が探してたよ♡」
媚を売る猫なで声は聞き覚えがあった。
振り返ると、案の定、あの女がいた。
その美貌を生かし監督や出演者に目立つような立ち振る舞い、媚を売り続け積極的に現場に呼んで貰える立場にいるUMA的存在のあの女。
まだいたんだ。
「あ…」
私と目が合うと人差し指を顎に乗せると邪気しかない笑顔で、
「ごめんさい、エキストラの人は出演者に話しかけないでくださいね♡」
と言った。