ファンレター
あーあ、ついに言っちゃった、できる限り黙っておこうと思ったのに、できる限りっていつまでだろう?一ヶ月後?次の始業式?一年後?卒業後?
黙っていた事で何になるんだろう?
できる限り黙っておこうって思ってしまうあたり、いつから言うつもりだったんでしょう?
「西原望愛…、毎回毎回僕の好きなキャラクターのレターセットでファンレターを書いてくれてた女の子、内容はほとんど日記みたいな感じのファンレター、あんなのファンレターじゃないだろ?って毎回突っ込みながら読んでた、で、あのひどい癖字、今でも変わってないんだなって」
早川俊の雰囲気が今まで…と言うか隣に越してからの今日までの空気が一変した。
目を隠している重い前髪を後ろに流したから?たったそれだけでこんなに変わる?
めちゃくちゃぶっきらぼうだし、いつも私のノートを写してる時に何か言いたそうな顔をしていたのはその事だったのだろうか?
一般人になった早川俊はモサモサヘアのただの陰キャだったのに、今目の前にいる早川俊はあの時の、一番輝いていた、私が大好きだったあの頃の早川俊だ。乱暴に頭を掻きながら深く息を吐いた。
「越してきた先の隣人がまさか西原望愛だなんて思いもしなかった」
「…私の事分かったの?」
「ファンレターで次のエキストラはどこどこで早川俊の追っかけ役ですとか、次の舞台の席はどこどこですとかいつも書いてただろう?」
「あ…」
そんなの読んでないと思ってた。
読んで欲しいのが本心だけど芸能人なんて結局そんなの読まないと思ってたから。
「ファンの子が大切な時間を費やして書いてくれてるの読まないのは失礼だろう…たかが数行の文だとしても必死で考えた言葉かもしれないし、基本的に全部読むようにしてた」
早川俊のその言葉がすごく嬉しかった。
返事なんてくるはずないのに、リターンアドレス書いて折り方工夫してお気にの香水振ったり…、たかがファンレターされどファンレターだから。
一通書くのに1時間以上かかるのは事実だから、早川俊の言葉に感動してる。
「ありがとう!」
口から何の脈絡も無しに一言飛び出した。
「は?何でお前がそんな事言うの?どちからと言えばボクが言う言葉じゃない?」
「ううん、読んでくれてありがとう!」
もう何を書いたか正直覚えてないけど、あの時は一字一字必死だった。
返事なんて来るはずない、読んでくれるはずなんてない、…でも…でも、もし読んでくれていたら、どんな表情して読んでくれてるんだろう?ってワクワクして書いてたから。




