夜空
『この事誰にも言うなよ!』
いつもの余裕は消え失せ、一番触れて欲しくないところをグサグサと突き刺され萎んだ風船のようなへなチョコになった白石海斗の顔を思い出すとまた笑いが込み上げてくる。
いつも自信満々で自分が世界を回している白井海斗からは想像できない姿だったなー。
思えば、白石海斗はずっと前から早川俊の事を意識していた。
あれは?あれはライバル関係からの好意なのか?
はたまたアイドルとしの推しなのか?
それとも…まさか…。
耳を真っ赤にして反応してくる白石海斗を見るとまさかとは思うが、悶々とあり得なくもない恋と言う言葉に行き着く。
まぁ、今の時代…そんな事も…いや、でも。こんな身近でそんな事?
まぁ、ジェンダーの時代の昨今、何でもアリか。
白石海斗が抱えている早川俊への想いはそっちなのか…?
なんて考えていると時がまた戻り、早川俊が輝いていた時の事を思い出してしまった。
あの頃の彼には怖いモノなんて何も無かった、ただ前に突き進んで、全ての人の視線を一人占めしていた。
そんな彼だもん、男も女も関係無いよね。
そう言えば小さなステージで歌を披露した事もあったな。
あれはいつ頃だっけ?あの歌あまり好きじゃ無かったな。
早川俊のための歌と言うより、売れるための歌、民衆受けの歌を無理矢理歌わされてた感じがしたから。
そう考えると私は歌を歌っている早川俊よりも、演技をしている早川俊の方が好きなんだなー。
「あ…お帰り」
暗がりの中から声がして一瞬ビクッとしたけれど、すぐに早川俊と分かる。
腰を屈めて自分の家の玄関に寄りかかっている早川俊を見ると一瞬で元の時間に追い着いた。
「何してるの?」
「…鍵忘れちゃって…、親が帰ってくるの待ってる」
「…もうすぐ帰ってくるの?」
「うん。あと1時間ぐらいだって」
「1時間?いつから待ってるの?」
「もう2時間ぐらい…」
「…え!うちに上がれば良かったのに、うちの親いるでしょ?」
我が家の居間からは恍惚と明かりが漏れていた。
何でここに早川俊が一人で行き場も無く途方に暮れている事に気付かないの?あのバカ親!
きっと、大音量でバラエティ番組でも見てる事だろう。
「西宮さんがいないのに…いや、いたとしてもそんな事できないよ…」
「何で?」
自分から聞いておいておかしな事言ってる事に気が付いた。
まだ小学生低学年ぐらいの子供なら、鍵忘れちゃってとか近所の家に言う事ができるかもだけど、高校生の男の子が他人の家に物乞いのような事できる訳がない。
「…まぁ、そうだよね…、うち上がる?」
「もうすぐ帰ってくるから大丈夫、ありがとう」
「そっか」
私は早川俊の隣に立ち、夜空を見上げた。
「この時期にしては星がキレイだね」
早川俊も空に目をやり、こくんと頷いた。
「むかーし、大好きなアイドルのプロフに趣味に天体観測って書いてあって、親に天体望遠鏡買ってってねだった事あったなー」
「?」
小首を傾げてじっと私を見ている早川俊は私の次の言葉を待っているようで、月の光を受けているその藍色の目を見ていると思わず口の動きが軽快に動いてしまった。
「私、早川俊の大ファンだったの」




