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推しは推せる時に

「多分、次のシーンだ!」


今日から始まった民放の連続ドラマを安座して、息を飲み込みながらTVの前でじっとしていた。

別にこのドラマの出演者に推しがいる訳でも、このドラマの内容が気に入ってる訳でもない。

キッチンで夕食の後片付けをしていた母親も、私の隣に座り同じようにエプロンのポケットから出したメガネを掛け瞬きもせず画面に食い入る。


「あ!今、今、映った!映った!さっきのやろ?あ、また映った!」


私より先に母親が画面を指差し高い声を出す。


「やっぱり、あの赤い服で正解やったなーよく目立ってる!」


オフィスビル街でヒロインが彼氏と口喧嘩したところを目の当たりにして立ち止まる数人のエキストラの中に私はいた。


「うん、正解だったね、ちゃんと顔も映ってる!良かった!」


エキストラなんて自己満足以外何も無い、知人や身内以外自分の存在に気付く人なんていないし、本当ただの趣味。

でも、1秒でも画面に映れば勝ちだと思うし、応募した意味があったと私は思う!

ほぼ同時に何件かラインが届く。


『見たよ!映ってたね!』


みんなほぼ同じ内容。

だけど、すごく嬉しい。

みんなが私のために時間を割いてくれて、私を見付けてくれるのがすごく嬉しい。

これだから、いつまでもスーパー一般ピープルなのよね。


ピコン。

みんなより少し送れてラインが届いた。

早川俊の表示に自然に顔がほころぶ。


「あらー!早川俊とライン交換できたのねー」


母親は私がずっと早川俊を追い掛けていたのを見ていて、今のこの状況を理解しているたった一人の人間。


「うん…」


「良かったねー、引退した早川俊が隣に越してきた時、あなたの気持ちが心配だったけど」


そう、あの時はまだ気持ちの整理がついていなかったから。

早川俊が引退した時の私は酷かった。

今まで追い掛けていた推しが目の前から消えてしまう。

私はこれから何を糧に生きていけばいいの?

何のために生きていけばいいの?

目の前が真っ暗って比喩的な言葉じゃないのね、目に映ったのは闇しか無かった。

推しは推せる時に推せとはよく言ったものよね。

何をしていても楽しく無くて、生きる事が苦痛でしか無かった。

消えてしまいたい…。

本気で思った。

それから早川俊に再び会うまでの記憶はほとんど無いぐらい。

そんな中だったから、早川俊がまた目の前に現れた時、勢いよく心臓が動き出したの、心臓発作でも起こすんじゃないかと思うぐらい鼓動が早かった。

ああ、私の生きる希望。

大好きな人。

乾ききった眼から涙が止まらなかった。


「うん、本当に良かった」


今でも夢みたい。

ラインの友達欄に、『早川俊』の名前がある事が。

今でも信じられない。

信じられないけど、そこに名前がちゃんとあって、その名前を見るだけで私は世界で一番幸せだなって思ってしまう。




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