UMAの納得
「撮影入るのでみなさま集まってください」
何の前触れも無く撮影が始まった。
これもいつもの事。
気付いたら現場に到着してからもう一時間経っていた。
こんな事はよくある。下手したら半日待たされる事もある。
「今日はこの夏発売の炭酸ドリンクのCMを撮影させていただきます、ここで白石海斗くんが歌とダンスをするのですが…、皆様はその白石海斗くんのファンの役をやってもらおうと思ってます、なので皆様こっちに集まってください」
いつの間にか広場に白いステージか設置されていた。
私が回想に耽けている間にアイドル衣装に着替えていた白石海斗がステージの上で手鏡で自分の姿を見て、
「こう言う服似合っちゃうのはやっぱり僕がスーパーアイドルだからかなー」
隣でメイクを直しているスタッフに鼻のつく言い方をしている白石海斗はどの現場にいても白石海斗だなーと思った。
「うん!白石くんは何を着てもかっこいいよ!」
ステージの下からUMAが声を張り上げている。
それでも、ほとんどのエキストラの人はそんなUMAの存在を知らないから、きっと白石海斗と同じ事務所なんだろうぐらいとしか思っていないのだろう。
「君はもうちょっと前に…、君はもっと右側に」
適当に整列した私達の配置を助監督が直していく。
ここが重要!
カメラの前に絶対に映りたい人は移動させられて、いい位置に行ければいいけど、逆にカメラから全く映らないとこに行かされた場合…、少しづつカメラの方へ動いていかないと…。バレないようにそっとそっと。
「君、君は一番前へ」
助監督が私の肩を叩き前へと押し出し、最前線列のドセンに立たされた。
隣になったUMAが怪訝そうな顔をして私を見て、誰にも聞こえないぐらいに小さく舌打ち、ちゃんと聞こえてるからね!
こっちだって貴女の隣なんてお断りなんですが!!!
「監督ー、私を真ん中にした方が良くないですかぁ?」
1オクターブぐらい高い声で監督に訴えかけるも監督は他のスタッフと話していて彼女の声は届かなかった。
「…だる…」
関係者が誰も見ていない時のUMAは本性丸出しになるため、今度は大きく舌打ちをした。
そして、まじまじと私を見た。
「あれ?あなたずっと前どこかで見た事ある顔」
人差し指を顎に当て考える素振りをしてから、今もバッグに着いている早川俊のぬいぐるみマスコットに気付き、「あ!」と小さく声を出した。
「あーー、あんたね、納得…」
ステージ上で一人になり歌う準備を初めていた白石海斗と私を交互に見つめ思わせ振りに続けた。
「思い出した、あなた、確か早川俊の現場に必ずいるウルトラスーパー一般エキストラね、ああ、思い出した、思い出した」
UMAの言葉の最後尾に監督の声が重なった。
「本番!」