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まばたきの途中  作者: 廃本 ゴゴ
第一章 春
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第1話 欠陥品

 この世界は、だいたいの人がタイムリープができる。


 ーーそして俺は、なぜかできない。


 改めて言うがこの世界は、戦後のから十年後、

1955年に突如として

『タイムリープ』という個性とでも言えばいいのか。

 その能力が現れた。

 

 最初に能力を獲得したのは、熊本県・新潟県・

富山県・三重県あたりの5歳児たち。


 この力はウイルスみたいに広がって

今では、人口の九割が使えるようになった。


 5歳のうちに発現するが、使えたとしても、

法律では20歳になるまでは使用禁止。


 ……まぁ酒みたいなものだ。


ーーなぜ20歳からなのか?


 それを説明するには、この世界の”タイムリープ“

の仕組みを話す必要である。

 

 やり方は単純で頭の中で

『年齢』『時代』『場面』『時間』を想像すれば

飛べる。


 ただしこの4つが曖昧だとーー

 その時間軸に閉じ込められて、一生戻れなくなる。


 かつて、そうした事故が相次ぎ1990年に法律が制定

され、使用は制限され6割は、助かっているが残りの

四割は、いまだに”消えて”いく。


 ーーそして俺は、さっきも言った通り

“できない”側の人間だ。


 今、心の中で電車に乗りながらカッコながら

つまらない景色を眺めている。

 電車に乗っている周囲の乗客たちは、静かに

座りながら、どこか焦点の合わせない目をしていた。


 そう! 今、この車両にいるほとんどが、今まさに

ーータイムリープ中だ。


 俺は、吊り革にぶら下がりながら、動かない景色を

眺めている。


 ーーまたか、みんな過去に逃げて。


 ーー俺は、いかないさ。行けないけど、どこにも。

今、この一瞬を歩いている。タイムリープ? そんな

もん。病気と一緒だろ。


 ーー俺は、”健常者“だ。


 そのとき、スーツ姿の中年男性が立ち上がった。


 「違う……! やり直しさせてくれ、あの一言……

頼む……!」


 空を見ながら、涙をこぼしている。周囲は、無反応。

見慣れいるのだ、こういう”発作“には。


 俺は、目を伏せ、イヤホンを耳に差し込む。

 今しか聞けない、今だけの音楽を聴きながら

俺は、こう思う。


 ……まぁ、タイムリープなんか出来なくても俺は、

ちゃんと生きてる……そう生きてる。


 次の駅に止まった電車に制服姿の少女が一人乗り

こんできた。

 教科書を脇に教科書を抱え、淡々と立つ。

 周囲の乗客たちがタイムリープ中のなか、彼女は、

明らかに“今”にいた。


 俺は、吊り革を握りながら、彼女をぼんやりと

見ていた。


 ーー珍しいな、飛んでない。


 すると彼女が、ふとこちらを向いた。


 「……君、バレバレだよ」


 「ごめん」


 「……君も学校?」


 「見ればわかるだろ」


 「そっか、私は、あまり“普通”じゃない方」


 妙な言い回しに戸惑いながら俺は、首を傾げる。


 「君、飛ばないんだね?」


 その一言で、俺の思考が一瞬止まった。


 「……飛べないだけだ」


 「へぇ……そっちか、私と一緒だね」


 彼女は、そう言って、初めて微笑んだ。


 電車は、揺れ続け、目的地は、同じ学校。

でも、同じ時間を歩いている車両には俺たち

しかいなかった。


 その後、俺と彼女は、同じ駅に降り彼女は、

トイレに向かい、俺は学校に向かった。


 しばらくして学校に着き校門をくぐるが俺は

いつも校門をくぐるとやっぱり思う。


 ……静かすぎるんだよ、この学校は。


 生徒はいる。でも教室の半分くらいは、

空席に見える。いや、違う。“見えるだけだ。

みんな席には、座ってる。ただ意識がないだけ。


 俺は、教室に入り、自分の席に座った。


 俺の席は、真ん中左側の一番後ろ。隣の席のやつは、

目を閉じてる。前のやつは、目を開けたままピクリ

とも動かず、他の奴らもだ。リープ中の人間は、

体だけは現実にある。でも中身は、別の“時間”を

歩いてる。なんと都合のいい“病気”だ。


 授業開始のチャイムがなるがみんな過去に

逃げている。俺は一人で立ち一礼、座った。


 昔なら教壇に先生がいるらしいが、その先生も

今、この学校の九割がそれぞれの“過去”に逃げて

いる。


 俺はカバンからノートを出して、いつも通りの

“誰もいない授業”を受け始めた。独りで、教科書を

読み、問題を解く。俺が今を生きるためには、

これが当たり前だ……なわけ、俺は、また音楽に

浸った。

 

 ーー音楽は、少しだけ俺を……。


 その時、あの子がやってきた。


 彼女は、俺の席、左側の空席に座り、俺がつけて

いた左側のイヤホンを外し。


 「やっぱり、少ないね、このクラスも“今”に

いないね」


 俺は、気にせず会話のキャッチボールをする。


 「そうだな、この世界は、ゴーストタウンだな」


 「なにそれ」


 彼女は、少し笑った。

 しばらくして、彼女がぽつりと言う。


 「私、怖いんだ、たまに“今”いるってことが、

正しいのかどうか」


 その言葉に俺は、もう片方のイヤホンを外し、カッコ

つける。


 「……正しいかどうかは、誰にもわからない、

でも、俺はこう思ってる“過去”ってのは、“逃げ道”

じゃなくて、“記録”だって」


 「記録……?」


 「そう、見返すことはあっても、そこに戻っちゃ

いけない、“今”にいれるってことは、それだけで

強いことだって、俺は、思ってる」


 彼女は、小さく笑い。


 「ありがとう……和貴くん」


 その時、俺は、彼女の名前を知らなかったことに

気づいた。


 「なぁ……名前」


 「灯火(とうか)、火の灯る花って書いて、灯花」


 「灯花……なんか、すぐ消えそうな名前だな」


 灯火は、少し笑い


 「うるさい」


 でもその一言は、少しうれしそうだった。

 彼女の横顔を見ながら、俺はまた、ちょっと

だけカッコつけた思考にふけっていた。


 ーー誰もが“過去にいる中、俺は、”今“にいる。


 なんて、選ばれし勇者みたいなことを思ったが

現実は、ただの”欠陥品“だ。

 

 でも、欠陥品にも美しさは、あるだろ。

例えば、ひび割れたグラスとか、焦げたトーストとか

少なくとも俺は、そう思ってる。


 「ねぇ、和貴くん」


 灯火の声で、俺のカッコつけモードが切れた。


 「私、リープできるけど……しないんだ」


 「珍しいな、なんで?」


 彼女は答えなかった。ただ、視線を机の上に落とす。

 その沈黙の中、俺はまた例の“かっこいいセリフ”を

思いついてしまった。


 「リープってさ、やり直すための力だろ? 

でも俺は、やり直せない、だからさ一回で決める、

それが俺の生き方」


 灯火は、少し吹き出した。


 「なにそれ、いいこと言ったつもり?」

 

 「まぁ、言ったろ、これが俺の生き方、

恥じらいなんて、もう……」


 「くだらない、でも、いい言葉だね」


 その時、少しだけ空気が暖かくなった気がした。


 




 


 



 

 


 




 

 





 



















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