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長剣と銀貨  作者: ビルボ
第五話 英雄
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英雄 十一

(承前)


 

 


 塔内の三階へ続く階段から降りてきたのは、先日アウクスブルクで出会った“アヒレス”だった。

 仲間を失って孤立したのに、口元には太々(ふてぶて)しい笑みを浮かべている。

 パウルスは、ザーラを背に、長包丁を頭上にかざすように構えた。


「あんたが、ローゼンベルクなのか?」


「ん、まあ、そうだな」


 “アヒレス”も長包丁を抜いて構えた。


「門弟は、返してもらう」


「は! やってみるがいい!」


 パウルスの殺気に、“アヒレス”は獰猛な笑みを浮かべた。

 

 無言でパウルスは踏み込んで、斬りつけた。

 “アヒレス”は長包丁を立てて、それを受けようとする。

 だがパウルスは、刃が当たる前に手首を返した。

 

 右上から突き込む形になった切っ先が、“アヒレス”の受けをすり抜け、首筋に迫る。

 リヒテナウアー流で裏刃斬り(シュトルツハウ)と呼ぶ、奇襲技。

 

「うおっ!?」


 完全に虚を突かれたのに関わらず、身体を地面に投げ出すようにして、“アヒレス”はその攻撃を避けた。

 

 倒れた“アヒレス”に斬りかかろうとするパウルス。

 “アヒレス”は床に這いながら、長包丁を低く薙ぎ払った。

 ()()をも断ち切らんとする、鋭い一撃。


 だがパウルスは床を蹴って宙に跳ね、それをかわした。

 空中で両膝を折り畳み、右の足刀を“アヒレス”の顎に叩き込む。

 “アヒレス”は両膝を床に打ち付けるように落ち、その後、仰向けにぐにゃりと崩れた。




 床に倒れた“アヒレス”の首元に、パウルスが長包丁の切っ先を突き付けた。

 “アヒレス”は、(なか)ば意識を失っていた。


 パウルスは、この後の段取りを考えた。

 “アヒレス”は、一時的にめまいを起こしているだけで、すぐに力を取り戻す。

 手負いになっているが、塔の外にはまだ三人の男が生きている。

 対してこちらは、ザーラが負傷しているし、囚われているベルトホルトがどの程度衰弱しているか判らない。

 

 ——留めを刺し、後顧(こうこ)(うれ)いを絶つべきか……。

 パウルスは、一瞬そう考えたが、(かぶり)を振った。

 

「後日、ニュルンベルク市庁舎に出頭して、復讐放棄誓約(ウァフェーデ)と和平誓約を行ってください。それを神と聖遺物にかけて誓うならば、今日は見逃します」


 パウルスは、意識を取り戻しはじめた“アヒレス”にそう告げた。


「……いいのか? 後々、悔やんでも知らんぞ?」


「昔の騎士は、“戦場においては、自らを守る力を失った敗者を殺さないこと”を誓ったそうです。ならば騎士の剣術を継ぐ者として、それに習うだけです」


 それを聞いて、“アヒレス”は鼻で笑った。

 ゆっくり上半身を起こすと、右手をあげて神と聖遺物に誓う。


「じゃあ、行かせてもらうぞ」


 パウルスとザーラが油断なく見守るなか、“アヒレス”は静かに立ち上がった。

 それから、木扉をあけて、階段を下りて行った。

 二人は、戸口まで出て行って、外の様子を伺う。


 外では、パウルスに頭を斬りつけられた男が、地面に横たえられていた。

 肩に小柄が刺さった男と、首筋を押さえた男が、死んだ男の両の手の平を組み合わせていた。

 

 “アヒレス”は生きている二人に、声をかけた。

 小柄が刺さった男は、自力で立ち上がった。

 首筋を押さえた男は、上半身が真っ赤に染まっていた。顔色が悪く、立ち上がれない。


 “アヒレス”は、頭上を見上げて、パウルスに声をかけた。


「パウルス・カル! 包帯になるものをもらえないか?」


 パウルスは、麻の包帯を投げてやった。

 “アヒレス”は、それを怪我人の首から胸に、たすき掛けに強く巻いた。


 その後、“アヒレス”と、肩に小柄が刺さった男は、首を斬られた男の両側から肩を貸してやって、よろよろと立ち去っていった。






 ベルトホルトは、両手足を縛られて地階に転がされていた。

 しこたま殴られ、下着は糞尿で汚れている。

 その有り様を見てパウルスは、“アヒレス”らを追いかけようかと思ったが、まずは救出を優先した。


 縄を解かれたベルトホルトは、自力で縄()()()を登れる程度には動く事ができた。

 涙と鼻水を流しながら、“一生あなたに仕えて、御恩をお返しする”と泣く門弟を()()めながら、パウルスはザーラの様子を見る。

 こちらは、闘争の興奮が冷めるにつれ、傷が痛んできたようである。

 

 怪我人二人を連れて、パウルスは塔を離れた。

 帰りの道中、ふと違和感を覚えた。

 

 ——油断して備えていなかったのではなく、あの塔の中には甲冑が無かった。

 ——武具の類も少なかったし、そもフェーデであれば、もう少しまとまった人数がいても良さそうなものである。

 ——“アヒレス”は自分の名を覚えていた。偶然、再会した訳ではないのか?

 

 だがそこで、ザーラが足を滑らせ、支えようとしたベルトホルト諸共(もろとも)、転んでしまったので、パウルスはそれきり、忘れてしまった。






Sturzhaw又はSturzhau(ソード&バックラーだけど)

https://youtube.com/shorts/UfVjo4jlUHA?si=oAejM5pXCJZ9d9YD

https://youtu.be/RBSD1R5lals?si=kjRzUtYZ90ZlZMgI&t=43


 

ちなみに私のシュトルツハウ(鎧着てるけど)

https://youtu.be/H5nZjf-nhkE?si=Zx0p97VvUVWnth5v&t=40

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