表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長剣と銀貨  作者: ビルボ
第五話 英雄
47/51

英雄 八






 パウルスが道場へ戻って、しばらく経ったある日のこと。

 ホーホベルク家の若い門人がひとり、息を切らして道場へ駆け込んできた。顔色を失い、言葉ももつれがちに言う。


「急ぎ、ご相談が……。いま、すぐにでも家族塔へ。ご同行願えませんか」


 ただならぬ気配に、パウルスは短くうなずいた。

 外套をつかむ間も惜しみ、若者の背を追って、走り出す。



 パウルスがホーホベルク家の家族塔に着くと、主人夫婦の姿はなかった。

 厳しい寒さでヨハネスの膝が痛むため、スイスのバーデンという湯の町へ、湯治の旅に出ているのである。

 

 出立に際し、ゲルトルートは商会の者たちに言い置いていた。

 

「留守中に何かあったら、パウルス君の指示を仰ぎなさい」


 その言に従った使用人たちは、仲間の一人がさらわれた事をパウルスに告げた。


 名はベルトホルト。パウルスの道場に通う三人の門人のひとりである。少しうっかりしたところはあるが、根はまじめな若者だった。

 そのベルトホルトが、近郊の小村へ使いに出たきり戻らず、皆が案じていたところへ——身代金を求める書付が届いたのである。

 

 それは、以下のような書き付けだった


———————————————————————————————————————————————

 

 我、ハインリヒ・フォン・ローゼンベルク、これを公に告げ、知らしめる。

 ホーホベルク家に属し家政を預かる者へ。


 汝らの従者、名をベルトホルトという者、今は我が手中にあり、我が置く所にて拘束する。


 すでにニュルンベルク市参事会へ送ったフェーデ告知状ならびに名誉保持状に告げしとおり、我はニュルンベルク市の関係者を攻撃するものなり。

 ゆえに、下に記す通り汝らに命ず。もし背くときは、当の従者の身の保証は我が負うところにあらず。


一、身代金として、ライングルテン金貨三十枚、または相応の銀貨を用意する事


二、受け渡しは、三日後、第九時課の鐘の鳴りやみてのち、ニュルンベルク西方の街道筋、森端の古十字架の下にて行うべし。

  来る者は非武装に限る。

  古十字架の下に、金子の袋、および復讐放棄を神と聖遺物に誓った宣誓書

  この二つを置き、去るべし

 

三、兵を伴い、あるいは跡を追う者あらば、従者はその場にて処置する。


四、我が者が金子と宣誓書を確かに受け取り、これを確認し次第、従者はニュルンベルク近郊のいずこかにて解き放つ。


汝らが上の定めを守り、金子と宣誓書を渡すなら、従者は害なく帰る。

これに違背あるときは、汝ら自身の不徳によるものと知るべし。我が側の咎として認めない。


主の降誕より一四四〇年、聖マルティンの祝日の後、第三日。


本通告状には、ハンス・フォン・ゼッケンドルフの印章を用いた。我ハインリヒは、この時自己の印章を持たなかったが故に

(ここに封蝋があり、印章が押してある。)


———————————————————————————————————————————————


 

「わ、若先生、どうしましょう……」


 読み終わると、商会の使用人たちが、青い顔でパウルスにすがってきた。

 パウルスは、彼らの肩に手を置き、落ち着いた様子でうなずいて見せた。


「わかった。私に任せてください」


 ゆっくり、大きな声で告げると、一人一人に声をかけていく。


「番頭さん、あなたの裁量で、止めれる仕事は止めてください。どうしても外出する用事がある場合は、必ず複数人で連れ立って出歩いてください」

 

「今日は不寝番を立てます。手代さん達は、戸締りと宿直計画をお任せします」

 

「私は、これから参事会に報告しに行きます。一人、連絡係として、ついてきて下さい」


 そう指示して、パウルス自身は市庁舎に向った。





 市庁舎では、パウルスは戦時担当委員(クリークスヘア)の執務室に通された。

 対応したのは、エアハルト・シューアシュタプという二十歳の若者だった。

 彼は、十三世紀からニュルンベルク在住の名門の子弟で、昨年亡くなった父親の代わりに参事会員になったばかりだった。


 体格は小柄で細身。髪は薄い栗色で分け目をつけ、耳の上を撫でつけるように整えていた。

 髭はないが、濃いもみあげと、顎に青い剃り跡が残る。

 一見すると優男だが、表情と声音に、不遜さと覇気が見え隠れしていた。

 

「今度は誘拐か……。あいつら、フェーデと言えば何でも通ると思ってやがる」


 エアハルトは、神経質な繰り言を漏らした。


 ニュルンベルクほどフェーデの対象にされた都市はない、と言われている。

 一四四九年の記録台帳には、侯から二十七通、その他の貴族から四十通、自由身分の領主から四十五通、他都市から八通、計百二十通のフェーデ告知状が記されている。

 記載された敵とその協力者は、推定七千人に及ぶそうである。

 その年は大規模な闘争があり、平年より割り増しされていると思われるが、それを差し引いてもかなりの数だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ