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ドイツ剣客商売  作者: ビルボ
第三話 若獅子
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若獅子 十






 ドルトムントの市庁舎にタルホッファーが出頭したのは、秘密裁判の前々日だった。ここでは軽犯罪者向けの塔牢獄でなく、地下牢獄に拘禁された。


 二日後、牢獄から引き出されたタルホッファーは、都市の一画に連れてこられた。

 市場に近い、二本の菩提樹(ぼだいじゅ)に挟まれた空き地だった。卓が並べられ、長剣と縄が置かれている。

 それを囲むように、二十名ほどの男が椅子に座っていた。

 

 彼らはこの裁判を運営する秘密結社の会員で、「神聖ローマ帝国の真なる自由判事」と呼ばれている。またその内、議長を務める一人は自由伯と呼ばれる。

 タルホッファーは立てられた柱に、鉄()()と鎖でつながれた。そして刑吏が二人、しっかりと目を見張らせている。

 秘密裁判では有罪判決は、ほぼ首吊刑であり、即実施される。それだけに厳重な逃走防止策が図られていた。


 自由判事たちは、決してヴェストファーレン地方の有力者とは限らなかった。

 正嫡生まれの自由民で、破門されておらず、法外者でもない者は、誰でも会員になる資格があった。

 一説には十四世紀にはドイツ全土で数千人の会員がいたという。

 

 そしてリヒテナウアーもその会員であり、それが彼がドルトムントまで同行した理由の一つでもあった。

 ちなみにタルホッファーは会員ではない。私生児の為、入会資格を満たせないからだ。


「これより、ザクセン法鑑に基づき、皇帝と教皇の聖名において、隠された処罰の裁判を開廷する。これは秘密の法廷である。知る者は、その知識を妻と子、砂と風の前からすら隠すべし。これに背く者は死罪である。心せよ」

 

 自由伯が、開廷を宣言した。


 ハンスの弟で、クラウス・フォン・フィレンバッハという男が立ち上がった。兄たちに比べれば、幾分ほっそりとした体つきで、どこか文人めいた気配があった。

 彼は、「S.S.G.G」という文字が刻まれた短剣(ダガー)を提示し、自らが自由判事であり、告発の権限を持つ事を宣言した。


 彼はまず、代弁人を選出したいが、これを許されるよう自由伯に申請し、自由伯の許可を得て、自由判事の中から一人の男を選んだ。彼は、ドルトムント市長であるという。

 タルホッファーの代弁人としては、リヒテナウアーが認められた。


 いよいよ告訴となり、クラウスは代弁人を通し、ヴィルヘルム殺害の()()でタフホッファーを告発した。 

 秘密裁判では、もし被告が結社会員であれば、雪冤(せつえん)宣誓をするだけで無罪となる。

 そうでない場合は、自由判事の投票による判決が下される。


 告発に対して、被告のタルホッファーはまず、代弁人を通じて、この管区の自由判事の人数が足りない事を指摘した。

 この場には二十余名の自由判事が参加しているが、そのほとんどが他管区から参加している者だ。規則によれば管区の七名の自由判事と、一名の自由伯が秘密裁判の開催には必要だった。

 つまりこの法廷は法的に正当でないと主張したのである。


 自由判事ではないはずのタルホッファーが、組織の内情に詳しい事を、自由伯と自由判事たちは疑問にも思わなかった。

 数千人も会員がいれば、秘密を維持する事は不可能である。

 実際、この場にいる自由判事の何人かはザルツブルクの息がかかっている。


 これに対し自由伯は、管区内自由判事が不足している場合、管区外判事を人数計上できる細則を読み上げ、被告の申し立てを退けた。


 続けてタルホッファーは、自由伯の権限を問題にした。刑罰が流血におよぶ事件の裁判権は、本来国王にのみ属するものである。

 それを振るう自由伯を任命する権限を、皇帝カール四世がパトベルク地区のヘル層たちの結社(城の権利を分割して持つ複数ヘルの共同体)に与えたのが一三四九年。

 現在の秘密裁判結社はこのヘルたちの結社の流れを汲む。

 

 一方、皇帝カール四世は一三五三年に、その権限はケルン大司教のものだとの言質を与えた。

 その後改めて、一三四九年の結社への権限付与は取り消すとの勅令も出している。

 つまり、タルホッファーは歴史的な経緯を()()()いて、秘密裁判(フェーメ)制度そのものに疑義を申し立てた。


 これに、自由伯は強く反発した。


「私は、手の指を上げて神と聖遺物にかけて誓うが、刑罰が流血に及ぶ裁判権を与えられている事を、信じている。しかし、もし私がそのような宣誓を果たさぬならば、法に定めのあることが将来起きてしかるべきだ」


 そう言って立ち上がり、宣誓しようとした時、タルホッファーはすかさず指摘した。


「裁判長が席を立つのは、事件の裁判にあたるのを放棄したと慣習的に見なされる。よって閉廷とすべきだ」


 形式的な言いがかり、と現在の視点では感じてしまうが、中世的弁論の在り方を垣間見ることができる。

 これらの申し立ては自由判事たちの投票で棄却されたが、続けてタルホッファーは事件の内容そのものについても反論を行っていった。






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