逃
三題噺もどき―ごひゃくごじゅうに。
天井を見上げる。
ソファに寝転がり、特に何を見るでもなくスマホをいじっていた。
しかしそれにも疲れてきて、眼球を休ませてみようかと天井を眺める。
胸のあたりに置いたスマホは画面が熱くなっていて、使いすぎだと言っているようだった。
「……」
二か所の電球がいい感じに並んでいて、まるで天井に顔があるように見えてしまう。
なんと言うのだっけ。三つ並んだ点を見ると顔に見えてくるみたいなやつだ。木目調の天井とかだとあるあるかもしれない。我が家は木目じゃないし、点は二つだけど、同じようなものだろう。どう見えるかなんて人次第だ。
「……」
ソファの端の、肘掛に預けていた頭をなんとなく動かす。
大き目の窓の外には、曇り空が広がっていた。
昨日は結構晴れていたんだけど、今日はそうでもないようだ。一昨日もこんな天気だったから昨日は久しぶりの晴れ間だったりした。おかげてかなり暑かった。
「……」
そういえば、あの人たちがいた間は曇り空だったな。
……三日ほど前まで我が家に他人が滞在していたのだけど。とは言え二泊三日でそんなに長くはないんだが、一日でも一緒に居ると疲れるタイプの人たちだ。
……他人とは言ったが、一応親戚である。それも祖母と、その妹。
「……」
なんというか。
パワフルと言えば聞こえはいいが、単純にうるさい上にお節介でデリカシーの無い人たちなのだ。そういうことを大声で言うんじゃないと何度言いかけたか……。言うと面倒なので言わないが……もう他人のふりをするので精一杯だ。
また来年も来るからねと言われたときはもう、苦笑いをするしかなかった。
祖母に関してはどうせまた春ごろに来るので、もう考えたくもない。
「……」
そのお節介な祖母の妹が、まぁ……なんというか。
そんな話を今はしたくない上に、関わってほしくないのにあれこれと話をしてきた。
私が仕事を辞めたことはどこからか知っていたみたいなので。大方母が何かの拍子に祖母に話してそこから伝わったんだろう。……母も面倒なことをしてくれた。
「……」
それでまぁ、早く働いて母を安心させろだの、この辺りならたくさん見つかるだろうだの、一緒に田舎に来てそこで働けばいいだの。
まぁ、もう。ホントに。
心配してのことなんだろうが、余計なお世話というか。なんというか。
「……」
その祖母の妹は、それなりに店もやっていたり自分で色々と教室に通ったりしているみたいで。まぁ、色々とやる金もあって時間もあって余裕もあって自信もあって、いいことだ。羨ましい限りである。
「……」
私みたいに、特別秀でているわけでもない癖に、現実を見ないで逃げてばかりの人間が、そう簡単に今の楽な生活を手放せるわけがないのだ。
何かをやりたいと思った矢先に、ホントにできるのかとかできやしないとかすぐに否定する奴が、そうそう何かに手を出そうなんてできやしないのだ。
「……」
せめてスポーツでもいいから何か能力があれば良かったかもしれないが。サッカーとかバレーとかの球技は苦手だし、走るのは嫌いだし。体を動かすことが嫌いなのだ。
だからといって、他の何かがあるのかといえば、そんなものはないし。あれば、今こんな風になっていないと、現実逃避をすぐにする。
「……」
分かっている。
今この現実がよくないことは。
自分が一番分かっている。
「……」
けれど、周りは、お前は分かっていないと言ってくる。
お前は事の重要さが一ミリも理解できていないと見せてくる。
遠回しに、遠回しに、けれど私にはわかる形で。
「……」
そうだと思う。
分かっていないんだろう。
だから、こうして毎日のようにソファに寝転がっている。
「……」
けれどじゃぁ。
分かったところでどうしたらいいのだ。
どうしろというのだ。
「……」
自分で決めることへの恐怖を教えたのは誰だ。
私の自信を無くさせたのは誰だ。
『私』という自我を薄くさせたのは誰だ。
大人になりきれぬままここまで来てしまったのは誰のせいだ。
「……」
誰のせいでもないのだろう。
知ってるさ。そんなこと。
どうせ全部、自分のせいだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はぁ」
疲れた。
もう。
さっさと死にたい。
お題:現実・サッカー・曇り空