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第9話 婚約者は精神年齢十歳

 ユリウス・ルナサングィネアは六百七十歳である。だが、記憶は直近十年分しかない。どんなに思い出そうとしても、十年前に目覚める以前の記憶は一切思い出せない。

 オルヴォによれば十年前の厄災に巻き込まれて記憶を失ったのだそうだ。姿形こそ成人男性の姿を取っているが、中身はまだ十歳の子供同然。悪知恵は回るから外面こそ大人のふりをしているが、屋敷に戻ればこの有様だ。厨房で盗み食いをし、執務をサボり、庭で蝶やカエルを捕まえる。

 こんな姿を次期当主として見せるわけにはいかないと、オルヴォは現当主からお目付役としてユリウスの世話を任されている。仕えて十年になるというが、十年前に仕えていた使用人は皆解雇されるかルナサングィネアの本宅に引き抜かれ、昔のユリウスの姿を知る者はいない。

 この屋敷だって、本宅を荒らされたくない現当主が別荘としてユリウスを住まわせているものだ。それだけユリウスは手に余る子供ということなのだろう。

 実際オルヴォもいたずらをされることが多いのだという。滔々とユリウスにされたいたずら遍歴を聞かされるうちに、アイリもマリアもどう反応していいのかわからなくなった。

 ちなみにユリウスは反省室でお仕置き中である。

「忘れもしません、あれは三ヶ月前靴下にアザミの葉を詰められたときでした……」

「あ、あのオルヴォさん? ユリウス様が子供、っていうのはわかったんですけど……」

 応接室でお茶を出されるままに話を聞いていたマリアはとりあえずオルヴォをなだめようと声をかける。

「婚約の儀の時はあんなに大人っぽかったのに、孤児院の子達とそう変わらないなんて」

 マリアの隣に座るアイリもユリウスの様子を聞いて孤児院のやんちゃな子供達のことを思い出す。いたずらをされることはあったが、どう反応していいか固まるアイリの代わりにマリアが怒ってくれていた。自分で怒ることができたのならもっとうまくできていただろうに、アイリは少し胸が冷たくなる。

 そんなアイリは屋敷に着くなり使用人に着替えさせられ、上質なデイドレス姿にさせられていた。だが、アイリは着慣れない服に少し息苦しさを感じており、早速着替えたいと思っていた。

 咳払いをしてオルヴォが言う。

「ともかく。このことはくれぐれも内密に。ユリウス様の名誉にも関わりますからな」

「はい、わかりました」

「ええ、構いませんが……」

 マリアに続きアイリが答えると、オルヴォは申し訳なさそうに眉を下げる。

「アイリ様、こんなやんちゃ坊主……もとい、ユリウス様ですが、決して悪気があるわけではないのです。どうか、お気を悪くされませんよう」

「大丈夫です。子供の相手なら、孤児院でたくさんしてきているので」

 オルヴォはその言葉にほっと胸をなで下ろすと、ずっと放っておかれたマリアに顔を向ける。

「では、マリア殿はこちらへ。使用人たちに紹介しませんとなりませんので」

「あ、そっか。私アイリのお付きって名目だもんね」

 オルヴォに促されるままマリアは席を立つと、アイリに手を振った。

「じゃあ、またねアイリ。お屋敷のこと教わったら案内してあげる!」

「ええ、ありがとうマリア」

 アイリも手を振ってマリアを見送った。残されたアイリはというと、オルヴォの呼んだ使用人によりアイリのためにととのえられた部屋へ連れられていく。

「すみません、坊ちゃんがご迷惑をおかけして」

 自室に向かう中、メイドの一人が申し訳なさそうにアイリに言う。

「坊ちゃん?」

「ユリウス様のことですよ。あんな大人の姿をしても中身は精神年齢十歳ですから。私達からしたら坊ちゃんみたいなものです」

 聞き返すアイリに気さくにメイドは話して聞かせる。

「あんな風にわんぱくですけど、本当は心根の優しい方なんです。私達みたいな使用人にも気をかけてくださいますし……」

「そうなんですか。そういえばユリウス様は……?」

「二階の反省室で頭を冷やしてもらっておいでです。オルヴォ様はしつけをきちんとした方がいいと仰いますけど、そんなにユリウス様を悪くお思いになさらないでくださいませ」

「ええ、わかりました」

 メイドに案内されるまま、アイリは自分の寝所となる部屋に通された。

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