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好きと言ってもわからない~精神年齢10歳の次期当主に求婚された件~  作者: ことのはじめ


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第32話 花壇の前で

 二、三日もすれば、アイリはすっかり快復して普段通りの生活ができるようになった。ユリウスはたまに見舞いに来てくれるが、必ず執務の休憩時間を守って来るようになっていた。

 家庭教師もすっかりユリウスに感心してまたアイリは教養や社交界のマナーを学び始める。

 そんな折、休みが取れたから、という理由でユリウスはアイリを庭の散策に誘った。午前の執務が終わってからと聞かされていたから、アイリもそれに合わせて授業を切り上げてもらいユリウスの待つ庭に急ぐ。

 春の盛り、庭の花壇には汚れてもいいのか軽装のユリウスが腕まくりをしてシャベルを持って待っていた。その後ろには、まだ何も植えていない花壇がある。

「ユリウス様、その格好は……?」

「レオにお願いして、花壇に少し場所を空けてもらったんだ。アイリのお花を植えて、俺も同じ花を植えてさ。二人で育てようよ」

 ユリウスは照れくさそうに笑いながら自分の横に並んだ鉢を見せる。あの日ヒルダに踏みにじられたアイリスは、ユリウスが必死に鉢に植え替えしたものだ。花が潰れたり茎が折れたりはしたものの、植物の力は強いのかまた新しい蕾を膨らませている。

「アイリス、もう一鉢ありますけれど……」

 その隣にアイリスの鉢が置いてあることに気づき、アイリはユリウスに尋ねた。

「レイノ先生に頼んで、一株分けてもらったんだ。アイリもアイリスも一人じゃ寂しいでしょ? だから一緒にいられるようにって」

「レイノ先生が……では、鉢から植え替え、しないといけないですね」

 アイリがブラウスの袖をまくって花壇の土を掘り返し始める。それにならってユリウスも小さなシャベルで穴を掘る。

 二人して土で手を汚しながら、一緒にアイリスの植え替えをした。

「こうして一緒に何かするのって、もしかしたらダンスの時以来かも」

「言われて見れば、そうですね」

 ユリウスがアイリに教えられながら鉢の植え替えをする。その最中、ふとユリウスから漏れた言葉だった。

「あの時は半分強引にでしたけど、こうして二人でちゃんと何かをするのは初めてですね」

「う、あの時はアイリが来てくれたのが嬉しかったから……」

 ばつが悪そうにユリウスが顔を顰める。アイリは構わず植え替えたアイリスを整えていった。

「今は、どうでしょうか」

「どう、って。もちろん嬉しいに決まってるよ。だってアイリと一緒なんだから」

 ユリウスが少しぷりぷりしながら答えると、アイリはほんの少しおかしさから口元を綻ばせた。その笑みを見てユリウスは目を丸くする。

「アイリ、今笑った……?」

「え、今、ですか?」

 アイリも驚いて目を瞬かせる。ユリウスはアイリの手を取ってにこにこと笑った。

「そうだよ、アイリ今笑ってくれたんだよ! きっとさ、きっとそれ嬉しいって思ったからだよ!」

「うれ、しい……? これが……」

 気持ちが弾むのとはまた違った昂ぶりにアイリは息をつく。楽しいととてもよく似ていて、けれど楽しいよりも柔らかく抱かれる感覚。

 アイリは胸に手を当ててわき上がる快さをじんわりと感じる。

「嬉しい、……ユリウス様」

「どうしたの?」

 アイリは気持ちの赴くままに表情を綻ばせる。

「こういうときも、きっとありがとう、というんでしょうね」

 とてもとても素敵な、笑顔をしていた。

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