第24話 ずっと見ていた人
「頭をお上げください、ユリウス様」
レオはユリウスに目を細めながら言う。てっきり怒られると思っていたユリウスは目を開いて顔を上げた。レオは目を細めたままユリウスを見やる。
「怒らないの? 悪いこと、したのに」
「私は怒っておりませんよ。ただ、何と言えばいいんでしょうな。ユリウス様がちゃんと謝ろうとしてくださったことが、嬉しいんでございますよ」
ぽかんとするユリウスに、レオは笑って見せる。古木のような肌にくしゃ、と皺ができる。
「でも……」
「たとえあなた様が私より何百歳も生きているエミネントでも、私やオルヴォ様にとってはかわいい孫みたいなものです。あなた様が誰かを思って自分の行いを直してくださる、それだけで私は十分でございます」
「怒ったり、しないの?」
レオはゆっくりとかぶりを振り、ユリウスに言って聞かせる。
「確かに、人に迷惑をかけたり嫌な思いをさせてしまったりすることはよくないことです。ですがそれは生きている上で誰もがしてしまう過ちです。私はそれ自体を責めるつもりはざいません。本当によくないのは、それをそのままにしてしまうこと、正さないことです。私は、ユリウス様がちゃんと人を思いやれることを知っておりますよ」
「レオ殿の言う通りです。ユリウス様はまだ十年分の記憶しかないとはいえ、皆を思っていることはこのオルヴォとてわかります」
そうレオとオルヴォに言われて、ユリウスは急に自分が恥ずかしくなった。
そんな風に褒められるようなこと、何一つしていないのに。迷惑ばかりかけているのに。いたずらもたくさんして、執務をサボって、遊びたいとわがままを言って困らせてばかりなのに。
「俺、俺そんなに立派な人じゃないよ……全然、全然えらくなんてないよ……!」
拳を握ってユリウスは首を振った。
「みんなにいっぱい迷惑掛けてるもん、レオにひどいこと言って、オルヴォをいっつも困らせて、メイドのみんなにだって……」
心が冷たくなる。何もいいことなんてしていない。困らせて、迷惑ばかりかけて、そんなことばかりしていたからきっとアイリも嫌だと言ったのだ。
それなのに、どうしてだろう。ユリウスは胸がどんどん熱くなっていく。悪いことをして、ダメなことだと自分でどんどんわかるにつれ自分の情けなさを自覚していく。
「何にも優しくないよ、俺悪い子だよ……」
もっと非難されていいのに、もっと咎められていいのに。レオもオルヴォも、暖かな眼差しでユリウスを見ている。
ユリウスはまた目頭が熱くなった。嫌われたショックとは違う意味で目の前が潤んでいく。
初めて知ったからだ。
こんなに思われていたことを。
こんなに見守られていたことを。
こんなに大事にされていたことを。
「う、ぅ……」
ユリウスは泣いた。ぽろぽろと涙をこぼしながら「ごめんなさい」と繰り返した。
とてもとても、悪いことをしたはずなのに。
ユリウスの心は、温かい涙で濡れていた。




