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好きと言ってもわからない~精神年齢10歳の次期当主に求婚された件~  作者: ことのはじめ


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第19話 削げた女の子守歌

 突然抱きつかれたことにアイリが驚いていると、ユリウスはアイリを見上げながら言った。

「俺はアイリがきれいだと思ってるもん。そんな風に言わなくったって俺はアイリが好きだもん。アイリがアイリのこと悪く言ったって、俺はアイリのこと好きだもん」

 子供のように拗ねながらユリウスはアイリにぎゅっと抱きついてくる。実際中身は子供なのだから年相応の態度なのだろう。それがアイリにはほほえましく思えて、自然とユリウスの頭を撫でてやっていた。

「へへ、くすぐったいや」

 ユリウスが心地よさそうに身じろぎする。こうしてみると孤児院の子供と本当に大差がなく、アイリもいつの間にかあやすようにユリウスを撫でさすっていた。

「俺はちゃんと見えてるもん、アイリがすっごくきれいなこと。あったかいのだって、こうやって撫でてもらったからわかるもん」

「人間はみんな温かいですよ。……また、機嫌を損ねてしまいましたか?」

 ぶんぶんと首を振ってユリウスは違うと答える。

「そうじゃないよ。俺はアイリと一緒にいたいだけ。一人は、やだもん……」

 孤児院の子供たちと一緒だ、とアイリは思った。言葉にしなくても、やんちゃな子だって大人びた子だってみんな、寂しい思いを抱えていた。

 遊び疲れた子供たちの相手をしていたことが多かったからか、そういう気持ちにだけはアイリは敏感だ。きっとユリウスも寂しいのだろう。そっとアイリはユリウスのくせっ毛を手ぐしで梳いてやった。

 ぽんぽんと背中を叩いてやりながら、アイリはそっと子守歌を口ずさむ。十年前、全て失った中で唯一覚えている歌。たった一つ自分が持っているもの。

 口ずさむと、ほんのりと体が温かくなる。

「きれいな歌だね……」

 ユリウスがうとうとしながら呟く。アイリは歌を口ずさんだ唇で、そっと続けた。

「もう思い出せないんですが……たぶん、母が歌って聞かせてくれたのだと思います。全部なくしたのに、これだけ覚えていて」

「いいな。そういうの。アイリはアイリのお母さんとその歌でつながってるんだね。俺にはそういうのないから、ちょっとうらやましいな」

 ユリウスは記憶を失ってから十年間、ずっと閉じ込められていた。関わる人物だってエレオノーラこそいても使用人やオルヴォたちだけだったのだろう。

「ご両親は会ってくださらなかったのですか?」

「ううん。俺父様のことも母様のことも覚えてないから、今さら会ったって誰が誰だかわかんないよ。それに、一度も会いにきてくれたことないし」

 ふとアイリが尋ねれば、ユリウスはつまらなさそうに答えた。つまり、十年の間ずっとユリウスは一人ぼっちだったのだ。

「俺は誰ともつながってないんだ。ずっと一人、一人で大人のふりしてなきゃいけないんだ」

「でも、選んでくださったじゃないですか」

 アイリは優しくユリウスを撫でながら言う。

「私を婚約者に選んでくださったのは、誰かとつながりたかったからでしょう? 私がそれに見合うかはわかりませんけど、でもユリウス様は誰かと一緒になりたかった。そうやって進もうとするのは、とてもいいことだと私は思います」

「くすぐったいよっ……」

「そうでしょうか?」

 アイリが首を傾げれば、ユリウスは恥ずかしそうに身をこごめた。褒められると照れてしまうのも孤児院の子たちと変わらなくてアイリは少し懐かしくなる。

 そんなやりとりの後、静かにユリウスを撫でていれば小さな寝息が聞こえてきた。あどけない寝顔を眺めて、アイリは少しだけ胸が締め付けられるような心地がする。

「……なんて言えばいいんだろう、この感じ」

 胸を押さえても、気持ちの名前は出てこない。

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