【連載版始めました!】俺が嫌いなウザ陽キャと性悪幼馴染が付き合ってくれて嬉しいです。~陽キャと仲が良かったはずのギャルに告白された日から俺とアイツの立場が逆転した~
連載版始めました!
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よろしくお願いします!!
「オレ、お前の幼馴染と付き合うことになったわ」
中庭に呼び出されて来てみたら、突然そんなことを宣言された。
勝ち誇った顔をして、成島隼人は隣にいる女の肩を抱き寄せる。
「そういうことだから、朔夜ごめんねぇ」
幼馴染である早川蛍は憎たらしい表情をして告げた。
「……ああ、そうか。わかった」
「はっはっは、なぁ、悔しいか? お前が調子に乗ってるからこうなった、まあ自業自得ってやつだ」
「調子に乗ってる? 俺が?」
「一年の時からオレに敵対心剥き出しだったじゃねえか、二年になってからもよくガン飛ばしてくるよな? 知ってるぞ、オレは」
そんなことした覚えがないし、第一こんな男に喧嘩を売るほど俺も暇じゃない。
「朔夜、謝るなら今のうちだよぉ」
「いいねぇ、土下座して謝れ。一日中謝罪してくれるなら許してやってもいい」
バカ二人が笑い合ってる中、俺は虚無の時間を過ごしていた。
ため息と共に俺の足は回れ右をして歩き出す。
「……帰るか」
「おい、どこ行くんだよ。まだ話は終わってねえよ」
成島はさっきまでのお気楽ムードから一変して、お怒りの様子。
しぶしぶ足を止めて俺は二人にもう一度向き直る。
「まだなにか言いたい事でもあるのか?」
「あたりめえだろ、そのスカした態度が気に入らねえ。これからもオレに歯向かうってつもりなら容赦はしねえぞ」
「なんだそれ」
思わずこぼれたこの言葉に成島は口元を歪ませて苛立ちを見せた。
「一年の時、同じクラスだったからわかるだろ? ムードメーカーであるこのオレが二年三組の中心人物になる、お前一人をハブくことなんて造作もねえんだよ」
「隼人、かっこうぃ! 隼人がクラスリーダーになれば最高のクラスになるね」
「だろぉ? オレが王様だ」
俺に対して言いたいことをぶちまけた成島はいつの間にか上機嫌になっていた。
隣にいる早川はキラキラとした眼差しで成島を見ている。
ただ早川は知らない、この成島隼人という人物のカラクリを。
おそらく今日、早川は俺に彼氏自慢をしに来たはずだ。
学年でも知名度が高く、人気者の陽キャ彼氏を捕まえたぞ。お前は陰キャぼっちで可哀想だな、と。
「おいおい、黙るなよ。綺堂くん」
だが、成島隼人の正体はただの勘違いナルシストウザ陽キャ野郎だ。
決して学年の人気者、ましてやクラスでナンバーワンになれるポテンシャルはない。
たまたま一年の時、クラスで一番目立っている男と仲がよかった。それだけでこの男はここまでイキっている。
イケメン陽キャの友達というだけで、友好の輪が広がってクラスの連中からチヤホヤされ、自分の意見が正しいと勘違いしてきた。
自分がただの金魚の糞だということに気付かず、調子に乗ってる男。
これが成島隼人だ。
「ねえ、隼人。もう教室戻ろ、休み時間終わるよ?」
「うおっと、もうそんな時間か」
成島はスマホを取り出し、時間を確認した。
じろっと俺を一瞥した後、早川と手を繋いで歩いて行く。
「お前の幼馴染はもらっていくぜ、二度と喧嘩売ってくんなよ、雑魚が」
「ばいばい、朔夜」
中庭に取り残された俺はゆっくりと空を見上げた。それから十秒、二十秒と時間が経っていくのを感じる。
そろそろ休み時間が終わる、というところで大きく息を吸って吐き出した。
「よっ、しゃああああああああああああああああああああああ」
チャイムの音と共に俺の声が重なる。
自分でも信じられないくらいの声量が飛び出し、無意識にガッツポーズもしていた。
「俺は自由だ!」
早川蛍から解放されたこと、早川と成島が付き合っていること、この二つが特に嬉しい。
できれば早川だけでなく成島とも別のクラスが良かったが、それは高望みというものか。
しかしまさかこんなハッピーなことが起こるなんて思いもしなかった。
正直、中庭にいきなり呼び出されてめんどくせえな、って思ってたけどこんなサプライズが待っていたとは。
付き合ってる、って宣言をされた時は嬉し過ぎて言葉が出なかった。
「あいつらには末永く幸せでいてもらいたいものだ」
ぶっちゃけ、俺もびっくりしている。
早川蛍から解放されることにここまで喜びを感じているとは。
幼馴染だから色々と面倒を見てきたりしたが、あの女は特に性格が終わっている。
悪い所を挙げればキリないが、自己中、自意識過剰、自己肯定感が異常に高い、承認欲求が強くしょーもないことで自慢してくる、などなど様々だ。
早川に彼氏は一生できない、そう思っていたが世の中何が起こるかわからない。
「そろそろ教室戻るか」
既に授業は始まっている。
一年の時は無遅刻無欠席の真面目人間、綺堂朔夜だったがここでその記録も途切れてしまった。
しかし今日の出来事はそんな授業の遅刻に比べれば、十分過ぎるほどのお釣りが出る。
「……そういや、成島から早川に告白したのか? それとも早川から」
どっちからでもおかしくはない。
早川も黙っていれば可愛いのは、幼馴染という前提を抜きにしても認める。
成島も黙っていれば多少はカッコいいのは、認めよう。
ん? もしかして。
「あの二人って案外お似合いなのか」
◇ ◇ ◇
教室は少し騒がしい。
というより、成島が勝手にバカ騒ぎしているだけだが……。
彼女ができたということもあるのか、一年の頃よりもオラオラ感が増している。
「今度、オレ試合出るんだよ! 女子たち皆で見に来いよ」
「いや、ウチ予定あるし……」
「あ、あたしも……ごめん」
次々と断られていく成島は不満そうな表情をして唇を尖らせた。
「んだよ、オレの超スーパービッグシュートが見られるのによ、もったいねえぇ」
「え? 成島ってサッカー部だったんだ」
一人の女子が目を丸くして驚いていたが、すぐに興味なさそうにスマホを操作し始めた。
しかし成島はそんな彼女に対してニカっと笑顔を見せる。
「知らなかったのかよ、オレって結構有名なんだぜ。去年は公式戦出れなかったけど、今年はレギュラー取れるし、監督から一番期待されてるしな」
「す、すごいね。成島くん」
四人目の女子がなんとか反応してくれ、成島は鼻息を荒くして言う。
「だろぉ!」
傍から見ている限りだと、あまり盛り上がっているようには見えないが、成島隼人は上機嫌に笑っている。
周りの女子や成島の近くにいたサッカー部仲間は苦笑いを浮かべていた。
やっぱりコイツがクラスリーダーになることはない。なったとしてもすぐに失墜するだろう。
……だが、このクラスは他クラスに比べれば地味な面子ばかりだ。俺含めて陰キャというか、顔も名前も全く知らないような奴等が集まっている。
成島隼人が一番目立っているのは否定しないし、まともな人間性を持っていれば楽々と中心人物になれている状況。
「あ、そうそうこの前ね、美味しいケーキ屋みつけちゃってさ」
「どこどこ? 教えてー」
「うーん、どうしようかな」
女子たちで会話しだし、成島はぽつんと一人浮いていた。成島もこの会話に入っていくのは不可能と判断したのかくるりと背を向けた。
「けっ、オレのことよりスイーツかよ」
そう言った成島と、俺は目が合ってしまった。
慌てて顔を逸らしたが時すでに遅し。
段々と誰かがこちらに近づいてくるのを肌で感じながら、俺は敢えて何もせず待った。
「綺堂、お前こっちのこと見てニヤニヤ笑ってたよな?」
「……笑ってねえよ」
バカにしてただけだ。
「クソ陰キャのクセに調子乗りやがって。お前がオレを笑える立場か?」
流石に一年の時からこう何度も突っかかってこられると、慣れたものだ。こういう時は変に相手せずに無視しとけば難は過ぎ去っていく。
「そういや、さっきの授業遅刻してきたけどよ。もしかしてトイレで泣いてたのか? だとしたら哀れだな」
成島は大きな声で曝け出すよう叫び、笑い声を上げた。
ここで否定しても煽られるだけ、何も言わずに黙り続ける。
そんな俺の様子が癪に障ったのか、成島は少し語気を強めて言葉を続けた。
「なんとか言えよ。二度と学校に来れなくするぞ」
「……そろそろ授業が始まる」
黒板の上にある時計に目を向けてぽつりと呟いた。
そこで成島はクラスメイトから注目を集めていることに気が付く。
さっきまでの怒りの雰囲気は消えて、まるでスーパースターかのような立ち振る舞いで言葉を告げる。
「フラれたら悲しいもんな、そうやって誤魔化したくなるもわかるわかる! でも人間は成長して乗り越える生き物だ。いつか、お前もオレのようになれる日が来るからそう落ち込むなよ、ぶははははっ」
……全体的に何言ってるかわからなかったが、お前が盛大な勘違いをしていることだけはわかった。
「早く自分の席に戻れよ」
「綺堂、今ここで土下座すれば許してやるがどうする?」
「しねえよ、アホかお前」
思わず強い口調で返事してしまったが、成島はピクリと眉を動かしただけで何も言い返してはこない。
逆にニコニコと気色の悪い笑みを浮かべている。
「土下座したくなったらいつでもしていいんだぜ、幼馴染にあっさりとフラれた綺堂くん」
そんな捨て台詞を残して成島は俺の席から離れて行った。
幼馴染のことは好きじゃないし、フラれてもない。そう強く否定したい気持ちをグッと堪えて俺は深くため息を吐いた。
午後の授業も一つ終わり、あと一時間もすれば放課後になる。
俺は軽く睡眠でもしようかと思っていると、また例の声が聞こえてきた。
休み時間くらいゆっくりしたいものだが、アイツの声のお陰で全く休まることはない。
どうせまた変な自慢話でもしているのだろうと思って視線を向けると、さっきに比べて女子が一人足りない。
トイレに行ってるだけだろうが、おそらく日を追うごとに成島の話を聞く女子は減っていくだろう。
一年の頃の成島を見ていればわかる。
超強力な友人がいたからあの会話スタイルがギリギリ成り立っていただけだ。
「おーっす、綺堂くん」
背中から声が聞こえ、俺の頭の中が真っ白になった。
……今、俺の名前呼ばれたのか。
おもむろに振り返ると、そこには金色の髪をなびかせたギャルが立っていた。
一人足りない女子、ここにいた。
彼女は髪の毛を弄りながらちょっと照れ臭そうに言葉を告げる。
「ちょっといいかな?」
「なんか用か」
「うーん、用って程でもないけど」
「もし用がないのなら俺と会話することはあまりオススメしない」
成島は事ある毎にイチャモンつけて文句を垂れてくる。それは俺だけではなく、彼女にも影響が及ぶかもしれない。
「ひどっ、用なくても会話しようよ」
くすっと笑いながら俺の背中を軽く叩いた。
改めて彼女の顔を見る。
相良柚希。このクラスの中で数少ない一年の時から目立っている女子の一人。
一言で言うなら、金髪ギャルだ。
制服を着崩してアレンジしており、髪も染めている。ただこういうタイプの女子にしては珍しく、男ができた噂は聞こえてこない。見た目はかなり良いし、スタイルも抜群。告白もされてるだろうが、全部断っているのだろうか。
相良のように目立っている女子は誰かと付き合うと一斉に噂が広まっていく。それは人と関わろうとしない俺にも届いている。一年の頃に何度かそういう情報が風のように入ってきた。
「ね? いいでしょ?」
そう言う相良を視線に捉えながら、俺はチラッと横目で成島の方を見た。
「ほら、成島がこっち見てるぞ」
相良に聞こえる程度の小声で教える。
さっきから奴がチラチラとこちらの様子を窺っていた。相良も一瞬、振り替えって成島の方を見る。
「……うわっ、ほんとだ」
ドン引きした声が聞こえ、俺は思わず吹き出して笑いそうになる。
なんとか堪え、見なかったことにして俺は低い声音で告げた。
「ってことで、さっさと自分の席に戻れ。成島がこっちに近づいて来る前にな」
しかし相良は俺の席から離れようとしない。それどころか隣の席の椅子を拝借して何事もなかったようにちょこんと座った。
「いいじゃんあんなの放っておいてさ、ウチと会話しよ」
「……はぁ、知らないぞ。どうなっても」
「そんな大袈裟だなぁ。別になんもないよ」
成島隼人という男を知らないからこんなことが言えるのか。正直、散々絡まれている俺でもアイツの行動は読めない。
もちろん俺の心の声など届くはずもなく、相良は楽しそうに喋り出す。
「ウチさ、ちょっと綺堂と話してみたかったんだよね」
「俺と?」
「んー、だってあの成島から一方的に反感買ってるからさ。いや悪い意味じゃなくて。なんか面白そうじゃん。なんでだろーって」
「知るか、俺が聞きたいわ」
「え、じゃあ成島が一方的に喧嘩売ってるってこと?」
「まあそうだな」
なんであの男は俺にそこまで執着してくるのか、最早俺のことが大好きなのではと思ってしまう。
「後さ、幼馴染がいるってのはほんと?」
「……本当だよ」
幼馴染がいるのは事実ではあるが、認めたくない気持ちもある。
「その幼馴染と成島が付き合っているのは?」
「それも本当」
「で、綺堂が幼馴染を好きって――」
「それは違う! 神に誓ってないと言える!」
成島に誤解されるのは構わないが、相良や他の奴にまで誤解されるのは我慢ならない。
食い気味に答えたせいか、相良は驚いた表所で固まっていた。
「……そ、そっか。綺堂の気持ちは伝わったよ」
相良は気まずそうな顔をして、目を泳がせる。
俺は一つ息を吐いて心を落ち着かせ、話題を変えた。
「とにかく俺は目立つことは避けたい、成島が絡んできてウザいからな」
「ねえ、一年の時の成島ってどうだったの? 今みたいに変だった?」
「ある程度は噂に聞いてるだろ。そのまんまだよ」
俺みたいに友達の少ない奴に絡んで奢ってもらおうとしたり、女の子にナンパしまくって断られ、サッカー部では練習をサボりまくっている。二年になってから相良に話しかけまくてるから狙っていると思った矢先に、……早川と付き合うとは。
相良は顎に手を当てて小首を傾げた後、ニコっと可愛く笑った。
「このクラス終わりだね!」
成島がこうしてオラついている限り、このクラスに平和が訪れることはないだろう。
相良柚希も陽キャだし、クラスに与える影響はそれなりにあるが、それは成島を飲み込めるほどではない。
「あ、そうそう。ライン交換しよ!」
「え?」
「クラスのグループラインに入ってよ。後は綺堂だけだよ」
別に入らなくてもいいが、せっかく誘ってもらったのに断るのは人としてどうなのかと俺の良心が訴えている。
スマホを取り出して相良とラインを交換した。
「じゃあ招待するね」
相良がスマホを操作しようとすると、ひょいっとそのスマホが上に持ち上がった。
「おい、ちょっと待て。こいつを招待するな」
上から声が聞こえ、顔を上げるとそこそこの長身である男。成島隼人が俺を見下ろしながら立っていた。
「招待しないってどういうことなの?」
不信感を抱いた表情で相良が聞いた。
「ああ、そのまんまの意味だ。綺堂をグループラインに入れない」
「成島、アンタいい加減にして。なんで綺堂がウチのクラスグループに入れないわけ」
怒気を含んだ声色で相良が反抗した。
それを聞いた成島は腕を組んで嘲笑の笑みを浮かべる。
「綺堂朔夜って男はな、クラスの雰囲気をぶち壊す奴なんだよ。オレの記憶だと、一年の時は学校行事に非協力的、隅っこでスマホを弄ってコミュニケーションを取ろうとしない、たまに何か言ったら空気の読まない一言。な、最悪だろ?」
「そうなの? 綺堂」
相良が俺に助けを求めるような困った表情でこちらを見る。
断言できる。
そんな事実は一つもない、と。
「全くの嘘、デタラメだ」
学校行事に関しては普通に目立たなかっただけで、手を抜いたことはない。話しかけられたら普通に会話してたし、現に今もしている。それに、空気の読まない一言なんて言ったことあったか? ……覚えてない。
全てが捏造であり、嘘とは言わないが、成島の発言はあまりにも目が余る。
そして何より、一年の時にクラスの雰囲気をぶち壊していたのは俺じゃなく、成島本人だ。
学校行事は自分が目立とうと無茶な意見、行動。
自分の意見は絶対に曲げず、突然大きな声でわけのわからない事を言う。……全部当てはまってるな。
「綺堂、お前はグループラインに入らなくていいだろ? 一年の時も最後の最後にお情けで招待されただけだもんな」
成島は憎たらしい笑顔で俺の顔を両目でしっかりと見据える。
確かに、俺はグループラインというものに必要性を感じない。自分から入りたい、なんて口が裂けても言わないだろう。
でもこの男にそう指図されると逆に入りたくなる。……が今はまず、
「相良にスマホ返せよ」
「嫌だね。お前が入らないと宣言したら返してやる」
成島は俺を挑発するようにスマホを見せつけるように持つ。
その隙を見て相良が腕を伸ばす。
だが成島は相良の手を軽く避けて、今度はグッと力強く握り込んだ。
「ウチのスマホ、早く返せ! アホ」
「返せ、と言われて返すバカはいねえだろ。どうしても、と言うなら綺堂にグループ入りませんって宣言させるんだな」
相良はやるせない顔をして俺に近づく。
成島がここまでするとは思わなかった。グループラインに入れなかったのは残念だが、問題はない。
と思っていると、相良が意味ありげな視線を俺に送って耳元で囁いた。
「後で招待するから、今はスマホを返してもらう為に」
彼女の言いたいことはすぐに理解した。
小さく頷いて俺は成島の方へと向き直る。
「ようやく覚悟が決まったか、さっさと言え」
「クラスグループには入らねえよ、どうせお前が作ったグループなんだろうし、入る気失せた」
「はっはっは、愉快だ。最高だよ、綺堂朔夜くん」
「綺堂がちゃんと言ったんだからスマホ返してよね」
さてここで大人しくスマホを返して……くれた。
成島、お前はやっぱり大バカ野郎なんだな。
相良が成島からスマホを受け取ってすぐに慣れた手つきで操作している。
「綺堂、これでお前は完全に孤立し――」
「じゃあ招待するから」
カッコつけた成島を遮って相良が俺に向かってスマホの画面を見せた。
その瞬間、成島は目の色を変えて相良を睨みつける。
「おい女、あんま調子に乗るなよ」
成島が掴みかかろうとした時、俺の体は考えるより先に動いていた。椅子から立ち上がり、成島の手首を押さえつけるように掴む。
苦虫を噛み潰したような顔で成島は俺を見た。
「綺堂、てめえ何しやがる」
「それはこっちのセリフだ。今、女の子相手に手を挙げようとしただろ」
おそらく怒りに身を任せた行動だったのだろう。冷静さを取り戻した成島は焦った表情に変わっていく。
「ち、ちげえよ。オレはただスマホを取ってやろうと」
「そもそも相良のスマホを奪い取る権利はお前にない。そして俺がグル―プラインに入るかどうかもお前が決めることではない」
別に俺がこの男にいびられる分には問題なかった。俺が無視をしていれば、誰にも迷惑はかからなかった。
だが第三者へ迷惑がかかるというなら話は別だ。コイツの暴走を止められるのは俺しかいない。
「うるせえな、綺堂のクセにイキがるんじゃねえ。オレが認めないって言ったらグループには入れねえんだよ」
「ねえアンタさ、もしかしてこのクラスを自分が纏めてる……なんて考えてないわよね?」
「あ? オレが一番相応しいに決まってる。他に誰がいるってんだ」
「女の子相手に暴力を振ろうとした男が本当に相応しいのか? 片や一人の俺をグループに誘ってくれる彼女と、俺を仲間外れにしようとするお前、どっちが相応しいかなんて一目瞭然だろ」
「いや、オレはみんなの為に、その」
成島は目線を左から右に流れ、口元をもごもごと動かしている。必死に反論できる言葉を探しているが、見つからないと言った様子。
「成島も綺堂も、これで終わり。もういいでしょ」
態勢決したか、相良が丸く収める方向にもっていく。周りでやり取りを聞いていたクラスメイトも少し安堵した様子だった。
「まだだ! まだオレは綺堂に負けてない」
「……はぁ? アンタいい加減に」
「オレと綺堂、どちらもラインでグループを作る。より多くの人数を集めた方の勝ち。二つのグループに入るのは禁止。これでどうだ」
成島が必死に考えた結果がこれか。
まあいいんじゃないか、自分で決めたゲームで負けるのなら納得がいくだろう。
スマホを弄り、欠伸をしながら俺は首を縦に振った。
「いいよ」
「綺堂、マジで言ってる?」
驚いた表情で相良がこちらを見ている。だがもう俺が了承してしまった以上、話は進んでいく。
「じゃあ今からスタートだ。制限時間は五分! ちなみにオレのグループは元からある奴だから今は三十九人のはずだ」
今のクラスグループは成島が作ったはずだから、ルール上は問題ない……が、あまりの反則技に相良は顔を歪ませた。
「五分!? そんなの綺堂に勝ち目に。それになんでアンタが」
「もうオレの勝ちってことでいいか? いいよな? だってお前に勝ち目なんてねえからな」
相良の言葉を遮って成島は俺に言葉をぶつけた。
「……いや、俺の勝ちだな」
俺は自分のスマホの画面を見せる。
「お前、話を聞いていたのか。グループの人数を競ってい――」
そこで成島は言葉を失ったようにフリーズして動かなくなった。
画面には二十一の文字があり、この数字が本当ならクラスの過半数を獲得していることになる。
その数字を信じていないのか、成島は自分のスマホを取り出し慌てた様子で操作した。
「……なっ!?」
おそらく見たのだろう。
自分の作ったグループがいつの間にか、もぬけの殻になっている惨状を。
種明かしって程ではないが。
さっき相良から招待されていたグループに入って、俺が作ったグループに片っ端から招待しただけだ。成島の声がデカいお陰でクラスメイトに状況は知れ渡っていたから皆すぐに受け入れてくれた。
「成島、アンタの負けね」
「……ふざけんなっ、ふざけんな!」
成島隼人が二年生になって僅か一週間の出来事だった。
◇ ◇ ◇
翌日、学校に行くと久しぶりにクラスメイトから挨拶された。
「おはよ」
今日もギャルらしく制服を着崩し、相良柚希は上機嫌な様子で俺に話しかけてくる。
「おはよう、相良」
「いやー、昨日は痛快だったね」
成島のことか、……俺としてはちょっとだけ複雑な気持ちだ。
例えるなら、ラスボスだと思っていた敵が最初の街で出現する初級モンスターだった、みたいな。
サッカー部だし、一年の頃も目立っていた……悪い方向でだが。
友達も多かったし、もう少し人望があると思っていたがあんなことになるとは想像だにしなかった。
「ちょっとこのクラスにも平和な未来が見えてきたんじゃない? ナルシスト成島も流石に調子乗らないっしょ!」
ふふん、と胸を張って言う相良に俺はため息を吐いて答えた。
「さあな。アイツは何を考えているかわからない奴だ。俺や相良に恨みを持って仕返し、なんて考えていてもおかしくはない」
「えぇ! こわっ」
「だからあまりアイツを刺激しないように気を付けた方がいい」
「でももしウチが襲われたらまた綺堂が助けてくれるんだよね?」
上目遣いで彼女はあざとく言った。
相良が成島に何かされるとしたら俺が原因である可能性は高い。そうなったら俺は彼女を助ける義理がある。
一つ間を空けてから俺は頷いた。
「まあな」
そう言うと、パァっと満面の笑みを浮かべてグッと親指を立てる。
「頼りにしてるよ、クラスリーダーさん」
「え、クラスリーダー?」
まさか俺のことを言ってるんじゃあるまいな。
自他共に認める陰キャぼっち、リーダーシップなんて言葉とは無縁の人生だった俺が、まさかな……。
「だって今のクラスグループ作ったの綺堂じゃん。ウチでもいいけど、綺堂の方が似合ってるよ」
昨日作ったグループがそのままクラスグループとして流用されているのか。……いや、それでも俺がリーダーってのは違うような。
俺は相良から目を逸らしながら告げる。
「成島の一件でわかったと思うけど、リーダーとか最早どうでもいいだろ。どうせ大した意味のない肩書きなわけだし」
「ん? それってやってくれるってこと?」
相良は期待の眼差しを俺に向けて尋ねた。
なんで、そうなる。
と言いたいところだが、成島をクラスリーダーから引き摺り下ろしたのは俺だ。その役目を俺が背負わなければならないのは世の道理か。
「……わかったよ」
成島よりは良いリーダーになれると信じたいものだ。
「がんばってね、ふぁいとぉ」
相良との話を終え、俺は自分の席に座った。
その日の一限目が終わった休み時間。
俺は次の授業で使う教科書を鞄から取り出し、軽く寝ようとかと思っているとなんだか視線を感じた。
顔を上げると、何人かのクラスメイトが俺を囲んでキラキラとした目で俺を見ていた。
「昨日は凄かったな、僕ちょっとだけ感動しちゃったよ」
「綺堂って成島となんか関係あるの? やたら目をつけられてたよね」
「成島がこれで静かになってくれるといいんだけどさ」
様々な声が聞こえ、俺は苦笑いをしながらテキトーに返事をした。
クラスメイトからの評判が上がるのは構わないが、昨日と状況が変わり過ぎて戸惑いが勝っている。
その時、スマホの通知に気付いて俺はスマホの画面へと視線を落とした。
メッセージを送ったのは相良だった。
『次の休み時間、中庭に集合』
相良の方を見ると、友達と会話をしている。
……また中庭か。
休み時間になって昨日ぶりに中庭へとやって来た。
「いやはや、なんだかすごいことになってますなぁ」
「……なんだその喋り方。てか何で中庭なんだよ」
「綺堂が大人気だからね。教室だとあんまり話しできないじゃん」
まあ今の状況だと教室で会話するのは難しい。でもそれならラインを使ってやり取りすればいいと思うが。
わざわざ何で中庭に来たのか。
もう来てしまったし、まあいいんだけどね。
「綺堂に言いたいことがあって」
「……ん?」
相良が改まった様子で俺のことを真っすぐとした目で見据える。
「ウチと付き合って欲しいの」
その瞬間、全ての時が止まったような感覚に陥った。
聞き間違いじゃなければ、『付き合って』って言わなかったか。
どう反応すればいいかわからず、ぼーっと突っ立っていると相良が慌てた様子で身振り手振り大きく言葉を続ける。
「あ、いや、本当に付き合うわけじゃなくて……その、アレ! 恋人のフリをして欲しいって言うか」
「恋人のフリ?」
「そう! だってウチって結構モテるし、しょっちゅう告白とかされるし。それが鬱陶しいわけ、だからその……綺堂と恋人のフリをしたら解決するかな~って」
そういうことか。
普通に告白されたのかと思ったが、……ちょっとショックだ。
「なんで俺なんだよ、それなら別に誰でも」
「綺堂じゃなきゃダメ! 絶対に。理由は言えないし、聞かれても答えないから」
力強く言い切られ、俺は返す言葉を見失った。
恋人のフリをするだけ、それなら簡単か。……成島が相良に何かしたとしても守りやすいし、アリではある。
「……わかった、恋人のフリしてもいいよ」
「じゃ、じゃあ決まり」
「本当に決まったのか……」
戸惑いながら呟くと、相良が俺に近づいてきて下から覗き込むようにして言う。
「決まりなの! だからこれからは下の名前で呼びましょ。ホンモノの恋人っぽくさ。いいでしょ?」
それはやり過ぎじゃないか。
別に下の名前で呼び合わなくても、恋人ってのは成り立つような。
「いいでしょ!」
まるで俺の心を読んでいるかのようなタイミングで追いうちをかけられ、俺はため息と共に言葉を吐き出した。
「……わかったよ、柚希」
「うん、ありがとね。朔夜」
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