表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

傷だらけのお嬢様

作者: 秋籠 雨加瀬

ある時ある国に、1人のお嬢様がいました

彼女はとても優秀で、かつて彼女の祖父の代で没落寸前まで堕ちていたこの家を持ち直し、現在は侯爵家の当主までになりました


そんな彼女ですが、何故か常に何処か負傷しており、それについての噂が絶えません


その事について問い詰めようとした1人の貴族が居ました


彼は自身が主催するパーティにライラを招待し、問いかけたのです


「何か違法な事に手を染めているのではないか?その傷はそれが危険な事だからついたのではないのか?」と


その質問にライラはこう答えました


「そんな事は一切ございません」と


それでも問い詰めようとした貴族とライラの間に、ライラの執事であるウォーデンが割り込みました


「お嬢様はご気分が優れないご様子なので、本日はこれで失礼致します」


ライラはウォーデンを連れ、その会場を後にしました


その貴族はそれから数日後、馬車の事故で帰らぬ人となった


事件性の無い事故だったが、先日の会話を知っている者達はライラによる暗殺だと噂をした





「はぁ、ありもしない噂をするのが好きな人のなんと多い事でしょう?」


ライラはそう言うと手元の書類に判を押す


「まあまあ、貴族とはそう言う者達ですから」


ウォーデンがティーカップをライラの机に置く


「…ウォーデン、私も貴族なのだが?」


「何事にも例外というものはございますので」


ウォーデンはニコリと笑う


「むぅ…だが、傷の事がここまで噂になっているとはな」


「他の方法を試してみるのは如何でしょう?例えばこれなど」


そう言いウォーデンはテーブルの上に小瓶を置く


「ふむ、その手があったか」


ライラは小瓶の中に入っている透明な液体をティーカップに注ぎ、中の紅茶と混ぜて口にする


「…意外と味はしないものだな…んぐっ!?」


ライラが突然大量の血を吐き、机に伏せる


「ご気分はどうですか?お嬢様」


「…これは却下だウォーデン」


ライラは何事も無かったかのように身体を起こし、ウォーデンに差し出された布で口を拭う


「そうですか、では何時ものやり方で」


ウォーデンはそう言うとナイフを懐から取り出す


「頼む、ウォーデン」


ライラは立ち上がり、両手を広げウォーデンを受け入れる


ウォーデンはライラを優しく抱きしめ、その小さな背中に手にしたナイフを突き立てる


「っっっ…くぅぅ…」


痛みでライラは涙を流すが、ウォーデンは構わずナイフを引き抜き更に数度背中にナイフを突き立てる


やがてウォーデンが手を離すと、ライラが力無く血の海にへたり込む


「はぁ…はぁ…ありがとう、ウォーデン」


「お力になれて何よりです、お嬢様」





事の始まりはライラの祖父の代まで遡る


彼は没落寸前となったこの家を守る為に、悪魔との契約を結んだのだ


僅かばかりの宝石と引き換えにした二代先の子孫への呪い


その呪いは、『他者から致命傷を定期的に受け続けなければその生が終わる』というものだった


たった数個の宝石の為に呪いを背負い生まれたライラ、彼女の呪いを知っているのは、今となってはウォーデンただ1人となった


呪いによって傷が完治する前に新たに傷を受けなければならないライラ、そしてその役割を背負ったウォーデン


その2人の行為を、1人のメイドが目撃してしまったことにより、ある騒動が起こった


そのメイドはライラがウォーデンに襲われていると勘違いし、騎士団に通報してウォーデンを捕えさせました


ウォーデンを失ったライラは、強い喪失感を覚え、仕事に手もつきません


ふと、ウォーデンが残した毒入りの小瓶に目が行きます


この呪いを背負った身体を終わらせるもうひとつの方法、自死が頭をよぎりました


「ウォーデン…君が居ない世界は…こんなにもつまらないのだな…」


ライラは小瓶を開け、その中身を飲もうとして横から伸びてきた手に腕を掴まれました


「駄目ですよお嬢様、私以外の手で傷付くなんて許しませんよ」


ライラが顔を上げると、そこには騎士団に捕らえられた筈のウォーデンの姿がありました


「ウォーデン?ウォーデンなのか?」


「はい、貴方のウォーデンです。お嬢様」


ライラはウォーデンに飛び付き、思い切り抱きしめる


「ウォーデン!良かった…もう会えないかと思ったんだぞ!」


「ふふ、私はお嬢様の執事ですよ?」


「良かった…でもどうやって?」


ライラの疑問にウォーデンは口角を微かに上げる


「少し、騎士団の皆様を躾させて頂きました」


「流石だなウォーデン!」


「ふふ、勿論ですよ…お嬢様、私の命はお嬢様に捧げると決めています。この命尽きるまで、私をお傍に置いてくださいますか?」


「当然だウォーデン、私を傷付けるのを許すのはウォーデンだけだ。その命尽きるまで私に仕えろ」


「ではお嬢様……何れ私の命尽き果てお嬢様を傷付ける事が出来なくなった時…私と共に終わって頂けますか?」


「当然だ」


ライラとウォーデン、2人は互いに口付け会い、深く抱きしめ合う


そしてウォーデンはライラの胸に、ナイフを突き立てた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ