跳ね橋の思い出
65話目です。
「よし……ここを曲がれば跳ね橋だ。フィンセント君は……いた!」
ポールさんは小声で聞こえないように喋り、小さく橋の方の曲がり角を指差す。その先を見ると、橋の上のベンチに項垂れて座っているフィンセントさんがいた。
「ど、どうしましょう。開けてるから、近づいたらばれちゃいますね。」
「タイミングを見計らって突撃しよう。大丈夫、フィンセント君は私より運動音痴だ。三つ数えたら―だよ、いち、にい……」
指を一本ずつ立て、構えながら数える。
「いち!!!!!!」
「えっ?! いち?!」
「な、なに……あっ!」
なぜか振り出しに戻ったカウントで猛ダッシュするポールさんと、それに驚いて踏みとどまった私と、声に気づいて硬直するフィンセントさん。
弾丸のように飛び出したポールさんはあっという間にフィンセントさんの目の前まで届き、激突した。
「く……か……確保ォーー!!!!」
「いやあああああ!!!!」
何かの犯人であるかのように捕まえたことを報告する。もう完全に日は落ちたので、少し声量は押さえた方がいいのだが……
「やっ、やっと捕まえたよ、フィンセント君! どうして私から逃げるんだい?!」
「ごごごごごめんなさい!! あの、命だけは、命だけは!」
「許さない! 私の絵を見もしないでどこかに行ってしまうだなんて!」
「す、すみませぇぇん! でも、でもどうしても約束の絵が描けなくて……」
…………ん?
「約束の……絵?」
「ポールさんの絵……ですか?」
そういうと、二人は取っ組み合いの姿勢のまま固まってしまった。
「あ……あぁ! あの時の話か!!」
「も、もしかして忘れて……? そんなぁ……」
「いやいや、忘れてなんてないさ! だってあれから少しずつ君の絵は完成していってる。そうだろう?」
「で、でももうなんか月も描けてないですし……というか、ポールさんの絵……って……?」
「そう、それだよ! 君ったら全く話を聞かないんだから、とんだ勘違いだったね!」
「そ、その絵というのはいまどこに?」
「………………あれ?」
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