星の海を渡らんと
88話目です。
「なんで天体種の人工知能はこちらの世界に来られなかったのに、星座種の人工知能は何故こっちの世界にこられたの?」
「それは……船があったんだ、あちらからこちらへの、渡し船が。」
「渡し船? それも博士が?」
「そういうことになるね。でも、君たちが知ってるような、機械の力で動くような船じゃない。」
「じゃあ、どんな船なの?」
「あの船は、はっきり言って変な船だ。乗るところが木で出来ているし、布で出来た大きな幕で風を受けて進むんだ。」
「それで操縦出来るんですかね?」
「不思議なことに、出来るんだよ。舵が丸くて、右や左に動かすとその通りに曲がる。」
「それは不思議ですね……」
「その船は、僕たちの時代から数百年前に使われていたものらしい。でも、僕たちの乗った船はそれよりももっと古かったんだ。」
「そんなに? 木で出来てるのに。」
「僕たちの時代から、ずっとずっと昔。英雄達の旅に使われた船。大海を渡る航海のかつて在りし姿。その名をアルゴーといった。」
「そんなすごい船も作れるんですね、博士さんは。」
「いや、その船もまた僕たちと同じ星座種の人工知能だ。」
「そうなんですか? でも、星座種の人工知能は14体だけって……」
「僕たちは皆、以前にあった星座を元にして作られている。アルゴーは、星が見えなくなる前に既に解体された星座だったんだ。」
「通りで聞いたことないんですね。」
「ただの模型として作られた船だった。でも時代が入れ替わる瞬間に、その船は本来の姿を取り戻したんだ。そして、時間の狭間に落ちていく僕たちを掬い上げ、この世界に移動させた。」
「じゃあ、この世界にもアルゴーはあるってことですか?」
「いや、やはりきちんと作られたものでは無いからか、この世界に来る前に、崩壊してしまったよ。」
人工知能ということは、アルゴーにも意思があったと言うこと。新たな仲間を失ってしまったアルクトスたちは悲しんだんだろう。
「でもね、聞いてよ。アルゴーを形作る星のうち、最も眩い星の名を、カノープスと言うんだそうだ。これって、カノープスが僕たちを送り出してくれたんだと思わない?」
嬉しそうにそう話すアルクトスは、きっとその通りであると信じていた。
「私も、そう思います。」
「だろう? あ、もう夜も遅いし、僕はここら辺で失礼するよ。」
「はい、じゃあ……」
「じゃあ、またね!」
別れの言葉を言う前に去っていってしまった。
開いたままの窓の向こうの景色は、濃い青の空に、無数の輝く、「星」が浮かんでいた。
昔の地球の、本来の姿。
私が生きていた世界では見られなかった景色。
星達にとって、どっちが本当の世界なのだろう。
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