子よ、永久に死に候え。
72話目です。
「あの……な、なんかごめんなさい。やっぱりザックさんが怒られてしまって。」
あのあと、一頻り怒られて「もう一度勝負してきなさい!!」と、部屋? を追い出されてしまった。
怒られたのも、私が今まで魔法の事を調べなかったのも原因だし、ザックさんに申し訳ない。
「あ、そんな事は全然いいんすよ! だって、まだこの世界に来て間もないんでしょ?」
……? この世界?
「な、なんの……」
「あれ? 違うんすか? じゃあ今のは忘れてください!」
「い、いや、ザックさんも前の世界の事を……?」
「はい。「魔術師」に思い出させてもらったんすよ。」
「魔術師? それって、アルクトスですか?」
「さぁ? 名前までは聞いてないっす。郊外の、あんまり潤ってない土地に来ては、色んな物を分けてくれるいい人なんすよ!」
「その時に、記憶を……?」
思っていたよりも悪い人ではないのか……? さっき会った時も、悪人という感じではなかったし……
「そうっす! くろねさんも、あの人と一緒に前の世界を壊す手伝いをしてたんすよね!」
「……は?」
「この世界に転生した人間は前の世界で人工知能達に手を貸した人達だけだって言ってましたよ?」
違う。この世界に転生している人は、前の世界で生きていた人間全員だ。誰も人工知能達に加担してないし、むしろ殺された側のはず。アストラルさん達のいってることが間違ってたとしても、少なくとも私は彼らの仲間ではなかったはずだ。
「ど、どうしたんすかくろねさん? 顔色が……」
アルクトスは……間違ったことを教えてるのか? それとも……いや、そこを曲げて伝えたところで何をする気なんだ……?
「いけないなぁ。僕の話を他人が聞いているところでするなんて。」
「?!」
「あ、「魔術師」さん!」
さっき会った人工知能と違う……別の……!
「こんなに見え見えな場所で大事な話をするものじゃないよ。どんな悪い人が聞いているか分からないんだからね。」
「え? でもここは城の地下っすから防音だし、俺たち以外はいないっすよ?」
「僕が今会話を聞いて入ってきたことはカウントしないのかい?」
「あ、そうでした。でも魔術師さんは魔法で聞いてるんじゃ?」
「言ったろう。魔法ではなく魔術だ。まぁ同じだがね。それで……」
蛍光緑の瞳がゆっくりとこちらを向いた。背筋が凍る。体がすくむ。なんだ、この威圧感は。
「はじめまして。まずはその悪趣味な魔法を捨てていただけるかな?」
「な、なんの話……?」
「気づいていないのかい? まぁいい。アルクトスからの手紙をこちらに寄越しなさい。」
「な、何で?」
「見られてるからだよ。僕は安全なところから見物されるのが嫌いなんだよ。あと、「お前」も。」
少し強調して言った「お前」。私に向けられたものじゃない。一体何を……
「ほら、早く。」
「…………」
別に、アルクトスからの手紙が大事なわけではないが、なんとなく渡したくない。
「そうかい。」
そういって、ゆっくりと、一歩ずつ私の方へ近づいてきた。
「じゃあ良いよ。さようなら。」
掌を私の目の前へ向けてきた。これから、私はどうなるんだろう。なぜか、恐怖を感じない。
「徒の花弁」
「…………!」
「くろねさん……?」
力が抜けていく。立っていられない。あぁ、あぁ!
これが、死か。
「……時巡り。」
目を閉じかけた時、声が聞こえた。もう一度目の前を見る。青い髪の……
「だから気を付けろって言ったんだよ。バカ野郎。」
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