月は見ている
58話目です。
魔物の後処理を任せて買い物と共に家へと帰ってきた。
どうやら許可の出ていない場所での武器の使用は認められていないらしく、あのままあそこにいると怒られるから……という事でばれないように帰宅したのだ。緊急事態だからそのくらいは多めに見てくれるのではと思うが……まぁ人がたくさん来てしまうと思うように動けないので、騒ぎになる前に逃げようと言うことだったらしい。
ルーノ先輩の無表情からではとてもそこまで考えているとは思えないが、実は色々考えているみたいだ。
確かに元の世界でも、ルーノ先輩、もとい月島先輩はテストの成績でもよく上位をとっていて噂されているのを耳にしたことがある。やはり頭のいい人の考えは私には理解し得ないのかもしれない……
「ねぇ」
「な、なんですか?」
「君ってこの家に来る前は何してたの?」
「ここに来る前……ですか?」
「うん。」
どうしよう。これはどう答えれば良いのか。
異世界で学生してましたなんて言えないし、かといって良い答えも見つからない。適当に濁すこともできそうにない人だ。
「あと君、名前なんだっけ。」
……名前すら覚えられていなかったとは。まぁ確かにあまり話してないけども。
でもこの認識の薄さならなんて答えても疑われたりはしなさそうだ。
「な、名前はくろねっていいます。」
「くろね? 聞いたことあるよ。」
「そうなんですか? 同じ名前のお知り合いがいらっしゃるんですかね。」
「いないよ。」
「い、いないんですか。じゃあなんで聞いたことあるんでしょうね……」
「この世界では、いないよ。」
「……え?」
「寝てる間に見る夢で、たまに本当に良くできた長い夢を見る。その中でくろねは友達の妹だった。」
お兄ちゃんと月島先輩は仲が良かっただろうか。だとするならこれは元の世界の記憶……
「夢で見た人と君はそっくりだよ。ここに来るまえは、君は何をしてたの?」
もしかしたら、その夢が現実であると理解してもらえたら、協力してもらえるかもしれない。
「あの、私」
「たのもーーー!!!!」
私の言葉を遮った上に玄関の扉を乱暴にこじ開けて、誰かが入ってきた。
「何? 誰? 何か用?」
「オーウ! 怒濤の質問攻め、良いデスね! 順番にお答えしまショウ! マズひとつ目! ワタシは人工知能デース!!」
人工知能……じゃあ星座種の一人? アストラルさんの言っていた通り……て言うか声がでか過ぎてうるさい。
「そしてふたつ目! ワタシの名前はズートリヘス! 以後お見知りおきをう!」
「人工知能って何? あとうるさい。静かにして。」
「音量の調整はリモコンでどうぞ! みっつ目! そちらのくろねさんにお届けものデスヨー!」
そういって茶封筒を一直線に振りかぶって投げてきた。もう少しでデッドボールな程速い茶封筒だった。しかもお届けもの? この中身は……?
「あ、爆弾とかじゃないので安心してくだサーイ! それでは~また、会おうゼッ! チューーッス!!」
ものすごい勢いで走ってどこかへ行ってしまった。もはや嵐や竜巻のような勢いだ。しかもドアは壊れたままだ。これ、どうすれば良いんだ……
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