魔法
54話目です。
シリウスの体から飛び散った光の粒は、生きている人間の体に入っていった。
あの粒は魔法と共に知識であったらしく、人間たちは魔法を使うようになった。
炎を産み出す魔法。水を産み出す魔法。植物を成長させる魔法。傷を癒す魔法。更には天候を変えるなんてものまで出てきた。
しかし、時に魔法は人の命を奪うこともあった。
それでは前の機械と同じだ。兄さんとそういう話をしていた頃、人間の前に、以前と同じように一体の人工知能が現れた。
前見たのと違う見た目をしていた。人工知能達は本当に世界の移動に成功したのだろうか。
「アストラル、聞きたいことがある」
聞きたいこと? 兄さんが僕に?
「何?」
何でも知ってる兄さんが、わざわざ聞きたいことなんてあるのだろうか。
「今の世界と、前の世界。どっちが良いと思う?」
意外な質問だった。兄さんはなにも言わずただこの世界を見つめているだけだった。不満も不安もないものだとばかり思っていた。
まぁ、でも。こんな人造の世界が良いとは今も思っていない。魔法には、人間らしい意外性がない。
魔法で生命を産み出そうなんてしないし、今ある技術以上に何かを作ろうともしていない。
「俺は本が好きだったんだ。何せここでは長い時間暇だったからな。たまに未来の書物を盗み見て読んだ気になっていただけだが……」
そうだったのか。ボーッとしているように見えたときは、いつも本を読んでいたのだろうか。
「この世界、本もないだろ?」
たしかにそうだ。本だけじゃなく、娯楽なんて殆ど存在していない。人々は酒を飲んだり、よく笑ってはいるけど、前の世界ほど彩りがあるように見えない。
「だから、前の方がいいと思ったんだ。」
そうか。兄さんは前の方がいいと思っているんだ。
そんなの、そんなの……
「僕も、そう思ってるよ。」
そう、言うしかないだろ。
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