月の影
40話目です。
ドンドンと激しく叩かれる扉を慌てて開ける。そこには近くに住んでいる夫婦のおじさんとおばさんだ。
しかし様子がおかしい。息が荒く、いつも穏やかな目はものすごい形相で睨み付けてくる。
そして手には……
「アストラル!!!!」
ゴンと重いものが落ちたような音がした。不意に突き飛ばされ思わず閉じた目を開けると、いつもおじさんが使っていた斧と、それで首に一撃を入れられたのだろうか。
「あ……ど、どうして……」
理解が追い付かない。あんなに優しかったおじさんが、僕達の家もこの人が建ててくれたんだ。それなのに、それなのに。
ドン、ゴト。
狼狽えている間に、もう一度斧が振り下ろされた。
あぁ、見たくもない。考えたくない。
床に広がる血、斧を持ってこちらに歩いてくる人間。血、血、血、血
…………血。
この、血は、兄さんのものではない。
たった今、目の前の人間から出てきたものだ。
たった今、目の前の人間の頭があった場所から飛び出たものだ。
目線をしたにやると、自分の手は真っ赤になっていた。足元に転がるこれを握り潰した。同じように。同じように。同じように。
同じ、ように?
だれと?
。
遥か遠くで声が聞こえる。聞きなれた声と聞いたことのない声。何を話しているんだろう。
「かわいそうに。小さな子よ。貴方はまだ死ぬべきではない。」
女の声。
「俺はここで死ぬから、弟の方を助けてくれ。まだ目覚めていない。」
兄の声。
「なりません。貴方はこの先に行くのです。そういう運命です。」
「……そうか。」
殆ど触られている感覚もなかったが、どうやら腕や足を持ち上げられている。別の場所に運ばれるのだろうか。兄さんとは別の場所に。
いやだなぁ。いやだなぁ。……でも、僕は殺した。兄さんと同じところへは行けない。
また目の前が暗くなっていく。この後は、もう二度と光など見れないのだろう。
――――無意識に手を伸ばしていたことに気づいたのは、手を繋がれたからだった。
「いくぞ、アストラル。」
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