のどかな生
39話目です。
「ちょっと兄さん、またこんなとこで寝て。おきて!風邪引くよ!」
木陰で休んでいる見知った顔をしかりつけた。何度注意しても兄さんが外で寝る癖は治らない。そして何度も風邪を引くのだ。
「すまんすまん。ついうっかり寝てしまった。それで……俺は何をしていたんだ?」
「もう! 羊の様子を見てたんでしょ! 羊皆帰っちゃったよ!」
「ははは。じゃあ俺達も帰るか。」
もう夕方だ。羊が外に出てたのはまだ太陽が真上にあった頃。僕が発見していなければ明日また羊が来るまで寝ていたんだろうか。
「兄さんが手伝ってくれなかったから今日はお乳が半分もとれなかったからね! だから兄さんの分のご飯は半分だからね!」
「参ったな。明日は2倍搾るしかないな。」
最低限雨風凌げる小さな小屋に僕たちは住んでいた。
まだ世界に何人も人間がいなかった時の話。皆が皆羊や牛を飼っていた。僕達もそれを真似して羊を飼っていた。
現代のように味付けの技術なんて無いから、薄味の羊の乳をそのまま飲んだり、煮たり発酵させたりして食べていた。そのときはそれしか知らなかったから幸せだった。
朝起きて、羊達から乳をもらって、それを食べて、寝る。
今と比べて味気のない生活でも、その生活の間毎に現れる変化が僕は好きだった。例えば今日なら、兄さんが昼寝をしてしまった。昨日なら羊が喧嘩をしだした。一昨日なら……
そんな風に毎日を過ごしていた。
……そんな変化も幸せなものばかりではないことを知ったのは、ある日の夕方立った。
いつものように羊を柵の中に入れて、家に帰った。
少し多めに乳が絞れて、野苺も摘んで帰った。
夕飯の準備をしていたときに、立て付けの悪い扉が大きな音で叩かれた。
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