黄昏を越えて
34話目です。
…………私は、何をしていたんだっけ。
眼前にはいつもの……元の世界の私の部屋の天井があった。
今までのは夢だったのだろうか。だとしたら随分と中途半端なところで終わる夢だ。まぁ、夢なんてそんなものか……
壁にかけられた時計には7時半を差す針。本来なら学校の時間なので、あわてて朝の支度をしようとベッドから降りる。
「おいくろね、起きてるのか? 遅刻するぞ?」
部屋の扉が二、三度叩かれて、お兄ちゃんの声が聞こえた。こんな時間だから起こしに来てくれたのだろう。
「すぐ行くよ!」
ごく普通に挨拶をする。少し寝坊しただけで、いつも通りの朝だ。本当に夢だったのかもしれない。
確かに、夢でもなければ別の世界に行くなんて、あり得ない。
着替えなどの支度を済ませ、家の一階へと続く階段の扉を開ける
…………開けた、のだが。
「え…………あれ……?」
扉の先にあったのはただ真っ暗な空間だった。一歩踏み出せば元いた部屋も消えてしまった。
もうどこにいるのかも何があるのかもわからない。
「ちょ、ちょっと……誰かいないの? 暗い……何か、明かりを……」
自分の姿すら見えないほどの暗闇に狼狽え歩き回る。すると次第に、遠くの方に黄色く光る月のようなものが見えた。
「あ、あっちに行けば何かあるかも!」
さっきまでよりも早足で歩き出した
が、不意に袖を捕まれ、足を止められた。
「そっちは違う。そっちじゃない。」
「誰?!」
振り向くと、長髪の赤い髪の男性が私の腕を掴んでいた。
「俺は■■■■■■。そっちに行くな、くろね。」
「離して……!」
名前がよく聞き取れなかった。とりあえず尋常ではないこの状況で、見知らぬ人が、こんなところにいるというのはかなり危険だ。
その男の手を振りほどいて光の方へ走り出した。
「……!! あの人は……!」
黄色い光がだんだん強くなり、やがて暗闇など無かったかのように辺りを激しく照らし始めた。
その光の奥の方で、一人の人がいるのが見えた。
その人の方へ走り寄ると、その人は私に気づいたようだった。
「おや、どうしたのです。なぜそんなに慌てて?」
「この……暗闇は、な、何なの……?」
まだ荒い息で尋ねるとその人は驚いたような顔をした。
不思議な人だ。男性なのか、女性なのか。どちらともとれるような容姿をしている。
「暗闇? そんなものここには生まれません。暗闇とは未知に宿るものですから、自分がいれば未知など、暗闇など生まれ得ぬのです。」
「貴方は、誰なの……?」
「私? 私ですか。」
少し勿体ぶるように悩む素振りを見せる。それでも私が問いかける姿勢のままでいると、その人はにやりとして口を開いた。
「私はシンギュラリティ。ご安心ください、貴方と同じ世界の生まれです。」
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