魔法
3話目です。
話の進みが劇的に遅いですが気長に読んでいただければと思います。
――――暑い。
砂だけの世界を歩いて街まで行き、街を出て砂だけの世界を歩いて荒野まで来た。
意識が朦朧とするので、ここに至るまでの出来事を整理して頭を起こそう……
まず、お兄ちゃんの言った通りに集会所に行った。
集会所は私の想像していたような場所ではなく、華やかなドレスの女の子やかっこいい鎧なんかを身に纏った男の人が集まっていた。
受け付けに直行すると銀髪の女性……ルインさんと言うらしい。その人が、これから受ける依頼を説明してくれた。
「今回の依頼は少し長期になるかもしれないわ。
やることは単純。北の荒野の果てに突如として現れた洋館を調べて、どかすのよ。」
「どかすって、どういうことですか?」
ハルと呼ばれた少年が聞いた。
「主がいて、話し合いに応じるなら穏便に館を移動させる。いない若しくは話し合いに応じないのなら実力行使になるかしら。」
「そんな野蛮な感じなの?」
女の子……ティロちゃんが訪ねる。
「あの荒野には領主がいるの。怒らせたらこの街ごと消えちゃうかもしれないもの。」
「できれば穏便に、無理なら力ずくだな。わかった!」
兄は昔から物分かりが良いが、人の家かもしれないものをぶっ飛ばせといわれて二つ返事は物分かりとかの次元ではないのでは?
そして、ここに来るまで複数回、魔物に出会った。
といっても、見た目や攻撃の方法なんかは全く違って見えたが。
しかしその容貌は皆魔物と言うに相応しい禍々しさを感じる獣だった。
一目見ただけで鳥肌が立ってしまって逃げ出そうにも尻餅をついた私を、お兄ちゃんは守ってくれた。
「怪我は……ないな。大丈夫ならよかった。」
笑顔でそう言ったけど、その一連の話の中で最も私を驚かせたのは魔法だった。
聞くところによれば、お兄ちゃんの固有魔法は
「団長さんの固有魔法はゾウフクだよ!」
……らしい。具体的には、マッチの火程の火力しかなくても火炎放射器並の力に「増幅」できるそうだ。
聞くだけでも相当に強いんじゃないかという予想は簡単にできる。「増幅」の上限は無いようだし、もしかして私のお兄ちゃん、めちゃくちゃ強いのでは……?
「上限は無いといえども、団長さんはまだ「魔術の冠位」を取得していませんから、限界はあります。」
「魔術の冠位?」
興味本意で訪ねる。道中話すことがないので話題が欲しいし、何となく予想は付くが、これほど強くてなぜ冠位取得ができないのだろうか?
「「魔術の冠位」って言うのは、強さや便利さだけで得られるものじゃないんだ。見られるのは、経験。
その力を使いこなせているかどうかを見定められて、冠位を得られれば力を最大限に発揮できる。」
もし、お兄ちゃんが私と同じ様にこのままこの世界に来たんだとすれば、経験は確かに不足だろう。でも、経験不足なのに団長って呼ばれてるのは何故なんだ……?
「おー、もう館が見えて来たな。結構大きいぞ、あれ。」
「あのくらいの建物ならイチコロだよ!」
「話し合い優先と言っていたでしょう、ティロ。」
……そういえば、「魔術の冠位」って言ってたけど、この世界の人々が扱うのは魔法のはず……その違いってなんだろう。後でお兄ちゃんに聞けば……?!
瞬間、十メートルは離れている館の重そうな扉が軋みながら開き、中から帯のようなものが飛び出た。
帯は私の足をすくい、巻き付き、館へと引きずり込んでいった。
「っ、クロネ!!!!」
最後まで読んで頂いた方、誠にありがとうございます。
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