たとえどんなに辛くても
25話目です。
テントに入ってしばらくスミスさんについて回り、治療するのを眺めていた。
戦地に行くと言うから危険なのかと思ったが、後方の基地ならそこまででもないのかもしれない。
――――と、考えていたのだが。
ドオォォンと物凄い轟音が外からテントを突き抜けて響く。少しの地響きもしたようで、手洗い桶の水が跳ねた。
「?! ス、スミスさん、これは?!」
「爆撃です。ここより少し西ですかね。」
「あ、危ないですよ! 逃げないと!」
「はい。貴方は外の兵士と逃げてください。」
「スミスさんもですよ!」
「ここに、動けない患者を残してですか?」
「でも……!」
「……私は、たとえ命を落とすことになっても、傷付いた人を治すと決めたのです。」
「動ける人から逃げないと皆死んじゃいますよ!」
「動ける兵士にも、夢の中でも爆弾の音に魘される人たちがいます。」
「そんな事じゃなくて!」
「大丈夫です。もう爆撃は来ません。治療を続けます。」
スミスさんはそういって黙々と治療に集中し始めた。この人はどうしてこんなに落ち着いているんだろう?
「何でそんなに冷静でいられるんですか……」
命の危険があったわけではないのに、この世界に来たときの私はとても慌てていた。それとはまた違うことだろうとは思うが、やはりこの状況で慌てずにいられる人なんてそういないと思う。
「もう慣れました。」
「スミスさんはいつから軍医をしているんですか。」
「私が14の時からですから、11年ですかね。」
「そんなに長いと慣れるものなんですね。」
「分かりません。戦いには行かないので。戦いは怖いものかもしれません。慣れることはないのかもしれません。」
「でも、私だったらきっと逃げ出します。」
「貴方は逃げ出すなんてしないと思いましたけどね。」
「……え?」
「あなたでなくても、他の誰でも、逃げ出すことなんてできませんよ。」
「何で……ですか……?」
「逃げたくても、逃げられないんです。こんなに痛みを訴える人々を捨て置いてどこかへ行くなんて、私には考えられない。」
「でも、他の軍医も……」
「えぇ、他の軍医もいます。でも、今回のような戦争では、それは殆ど意味をなさないのです。」
「でもそれじゃあスミスさんがかわいそうです。」
「爆弾に怯えても、銃声に震えても、どんなに助かる見込みがなくっても。わたしはその人から目を離すことなどできない。私は、人を救わなければならない。全ての人を救いたいのです。」
指名でもあり願望でもあるこの人の生きる意味は、一人の人間が背負うには重すぎるものだ。
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