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緑も深まり

19話目です。

「ここで……もう行き止まりだな。」

「じゃあここが目的地?」

「多分。」


確かに、来た道以外に戻る場所はなく、少し開けているので、目的地になってもおかしくはない場所にたどり着いたと言えるだろう。だが、そこには居ると言われていた依頼者の姿が見当たらない。


「ここで待つ?それとも帰る?」

「帰りましょうよ~もう疲れました私……」

「いや流石に帰るわけには……」


結構な距離を歩いてきたせいか、皆疲れを訴えている。特にルーノ先輩や夏野さんは帰りたさを全面に押し出している。まぁ、これだけ歩かされて目当ての人物がいなかったら不満にもなる。


「おや、お早いお着きで。」

「?!」


声がしたのは歩いてきた道の方向だ。とっさにそっちをみると……さっきの白い幽霊のような人が立っていた。


「あ、あなたは……?」

「お待たせして申し訳ない。お疲れでしょう。どうぞ、座ってください。」


そういって、指をパチンと鳴らしたら、今まで椅子なんて無かった空間に石のスツールが現れる。


「あの、今回の依頼は一体何を……?」

「僕とお話ししましょう。良いお茶があるんです。」


そういって、また指を鳴らし袋からティーパックを取り出して笑う。意図が読めないが、戦いとか物騒なものでなくて良かったと心底安心する。






「お茶の味はどうですか?」

「お、美味しいです……けど、あの、そろそろ話というのを……」

「おや、そうでしたね。」


お茶が入るまでほぼ無言の時間だったが、依頼者と思われる人は楽しそうにお茶の用意をしていた。美味しいのかもしれないが、流石に洞窟の最奥でお茶を嗜むのはちょっと気分が落ち込む。


「今回の依頼はですね、ある作家の執筆の手助けです。」

「作家?こんなところで?」

「いえ、最初はその予定だったのですが、その必要がなくなりまして。」

「ならなぜ依頼を……」

「手助けはする必要はないのですが、最後の仕上げが必要だったので。」

「仕上げ?」

「はい。その作家というのは、そこの夏野さんのことです。」

「「「えっ?」」」

「えっ?!!」


名前を呼ばれるまで、我関せずといった風に辺りを見回していた夏野さん犯人も驚き声をあげている。


「ちょ、ちょっと待ってください!私、あなたのこと知らないんですけど!」

「でも話が書けなくて行き詰まっていたでしょう?」

「いやまぁそうですけど……」

「この洞窟の中で皆さんの魔法が使えなかったのは、夏野さんの魔法によるものです。」

「はぁ?!私何もしてませんけど!」

「まぁ聞いてください。あなたの魔法は小説として書いたことを現実にする魔法です。これすらもご存じ無いでしょう?」

「私にそんなヤバそうな魔法が……?」

「まぁ、魔法の事を全く学んでこなかった貴方は冠位も取得していませんし、取得できないですし。悪用はできませんね。」

「でも私は魔法は使ってないですよ。使い方も知りません。」

「そうですね。貴方は魔法に頼ることなくその手で言葉を綴りました。本なんて今時、魔法の指南書くらいしか無いというのに。

しかし貴方は無意識に魔法を使っていました。本に対する想いが力となって貴方の書く作品に反映されました。その影響で、あなたの今までの原稿はどこかへ飛んでいきましたが……」

「私は魔法の勉強を全くしてなかったから、基礎中の基礎の魔法すら使えないが……?」

「本来、魔法に知識は必要ありません。物語を書くのも同じです。自分の意思を、こころを具現化したものですから。」

「でも……」

「えぇ、普通ならあり得ないです。が、オリジナルの話を書き続けた貴方だからこそ魔法が起こされたんじゃないかと思います。」

「そういうものですかね……?」

「そういうものです。現に貴方は今も魔法を使っている。」

「え?」

「そうなんですか、夏野さん?」

「え?!わ、わからん!」

「祈ってみなさい。この魔法が溶けることを。いつも貴方が書くように。」

「そういわれても…………」


うーんうーんと夏野さんが唸り始める。すると、洞窟の壁がチラチラとノイズに侵される。


「な、何これ?」

「な、何かなってるんですか?!」

「洞窟の壁が消えていってますね。」

「不思議。」


次の瞬間にノイズが一気に数を増し私達を覆った。目を開けると、そこは先ほどの森で、さっきまでいた依頼者さんはいなくなっていた。


最後まで読んで頂いた方、誠にありがとうございます。

面白かったらブックマーク、感想お待ちしております。

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